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松岡正剛氏を偲ぶ

松岡正剛氏が亡くなった。これまでに何回か入退院をされていたのは存じ上げていたが、あまりにも突然のことで驚いた。ニュースを見た瞬間、同じく松岡ファンの同僚にラインをしてしまった。現代の日本最大の知の巨人が逝去した。ご冥福をお祈りいたします。

松岡氏のことを初めて認識したのは、地方国立大学の教授をしていた祖父の家にあった、おそらく「遊」だったのだろうか、松岡氏による情報工学の書籍を目にした時だった。よく分からない不可思議な図表が多くあったように記憶しているが、膨大な知となぜかぬるっとした手触りを感じたことを記憶している。

松岡氏のことを特に意識し始めたのは、東京駅の丸善のなかにできた松丸本舗に足繁く通っていた大学生、大学院生時代のこと。松岡氏が全面的にプロデュースした書店で、千夜千冊の世界がリアルなものとして立ち上がった空間そのものと、その思索の森の中で迷い続けるという体験にある種の高揚感を感じた。セレンディピティの宝庫とも呼べる特別な場所。ジョセフ・キャンベルを知ったのも、この本屋でのことだったと思う。松丸本舗があったからこそ、六本木の文喫をはじめとしたいまのコンセプト系の本屋も存在しているのではないだろうか。

松岡氏のライフワークとも言える「千夜千冊」を読み始めたのもこの頃からだったと思う。学生時代はアントナン・アルトーの研究をしていた。その繋がりから、スーザン・ソンタグの『反解釈』なども熟読していた。すでに歴史上の人物となっていたソンタグとリアルタイムに渡り合っていた松岡氏のポストを読むだけでも、随分と興奮した。いまでも、人文系に興味のある学生には千夜千冊を読むことを勧めたりもしている。

いまの仕事を始めてから、人文系に限らず様々な分野にアプローチするようになった。その中でも、松岡氏の現代日本における影響を度々実感する。例えば、経済産業省の若手メンバーが平成29年に作成した「不安な個人、立ちすくむ国家」というレポート。かなり攻めた内容なのだが、アドバイザーにやはり松岡氏の名前が上がっている。ちなみにこのレポート、松岡氏に並ぶメンバーとして、例えば慶應義塾大学元学長の安西祐一郎氏、同じく慶應義塾大学SFC教授にしてパターンランゲージの提唱者でもある井庭崇氏、現代メディアアートの大御所のドミニク・チェン氏、社会学者の大澤真幸氏、慶應義塾大学SFC教授にしてアメリカ研究の権威の渡辺靖氏など、そうそうたるメンバーが並んでいる。このラインナップを見ただけでも、松岡氏の知的なネットワークの広がりを感じることができる。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/020_02_00.pdf

最近は、Newspicksのなかでの落合陽一氏や波頭亮氏との対談なども楽しく拝見していた。アサヒビールの「コクがあるのにキレがある」が松岡氏の発案だったという件など、その知の幅の広さに改めて驚かされた。

あらためて、松岡氏の著作を読み返してみようかと思う晩夏の夜。日本の知の系譜を絶やしてはいけないと思う一日でした。

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