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コロナ渦に給付型奨学金が停止された女子大生の話

前政権の幼保無償化に続く肝いり政策の大学無償化が「高等教育の修学支援新制度」として今年度から始まりました。

これは、住民税非課税など低所得家庭の子どもが大学や専門学校に進学するにあたって、給付型奨学金の支給に加えて入学金と授業料も減免するという内容です。

先日、首都圏で学ぶ学生の自力進学を支援しているミライ道場の代表者から連絡を受けました。

ミライ道場では、新聞奨学生として大学を卒業した代表者が自身の経験を活かし、介護分野で働きながら学ぶ仕組みを設け、学生の進学支援を行っています。

現在、30名以上の学生がミライ道場の支援を受け頑張っていますが、ひとりの女子大生が給付型奨学金が停止されて困っているとの相談でした。

修学支援は世帯収入により3段階の割合が取られています。

【修学支援の収入基準】※4人世帯の目安

第一区分(年収約270万円)満額支援

第二区分(年収約300万円)2/3の額支援

第三区分(年収約380万円)1/3の額支援

まずは、給付型奨学金の年間給付額を見てみます。

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次に、学費(入学金と授業料)の減免年間上限額です。これは、満額支援となる第一区分のものですが、国公立大学では学費が実質無料となることがわかります。

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高等教育の修学支援新制度は、低所得家庭の子どもの進学を大きく後押しする制度です。奨学金制度の創設以来貸与型のみであった国が、大学無償化に一歩踏み出したと言えます。

修学支援のお陰で、進路の選択肢が大きく広がった学生も多いはずです。しかし、肝心の支援が停止されると、将来設計が大きく狂ってしまいかねません。今回の彼女はそのような不安に直面しているということでした。

修学支援の継続審査

日本学生支援機構奨学金の利用に際しては、貸与型も給付型も本人と保護者のマイナンバーの提出が必須化されています。

給付型奨学金(修学支援)では、マイナンバーもとに毎年夏頃に家計基準が確認され10月以降の継続の可否が判断されることになっています。

修学支援新制度は、給付型奨学金と学費の減免が原則セットになっています。そのため、彼女は10月以降は給付型奨学金が停止されるだけでなく学費の減免も停止されます。ちなみに、彼女によると「停止通知」が届いたのが10月の初めとのこと。

常識的に考えて、あまりにも急過ぎないかと思います。せめて3カ月後や半年後に停止するなどの猶予期間を与えるべきでないか

修学支援が停止された場合は、救済措置として返済が必要な貸与型奨学金を利用できるとなっています。

つまり、他の学生と同じように貸与型奨学金で学業継続を支援します、ということですね。

しかし、「修学支援制度があるから現在の進路を決めた」「停止されるならば、別の進路を選択した」という採用者も多いはずです。

貸与型奨学金しか利用できない中間所得層からすれば、修学支援制度に批判的な思いを持つ気持ちは理解できます。

ただ同時に、修学支援で希望を持って進学したのに半年後に梯子を外された彼女の落胆と不安の気持ちも理解できます。

本人の努力がマイナスに影響する家計審査基準

修学支援は「保護者の世帯収入」+「学生本人の収入」をもとに審査されます。つまり、常識論として、採用段階では「保護者の収入」のみで審査されるが、進学後は「本人のアルバイト収入」も加味されるということです。

文部科学省の高等教育の修学支援新制度に係る質問と回答(Q&A)から当該部分を抜粋します。※2020年11月11日版

Q4-1-6 世帯所得には、本人(学生等)の所得も含まれますか。
A)所得に関しては、本人(学生等)と生計維持者(原則、父母)の合計額により、基準を満たすかどうかを判定します。本人に所得があって市町村民税を課税される場合(※)は、所得の判定に影響することとなります。
(※)本人(未成年)の年収が額面で200万円(成年の場合には額面で100万円)を超えるような場合は、市町村民税を課税されることがあります。

結論を言うと、学生本人の収入が多過ぎると修学支援の区分変更や停止があり得るということです。

先のミライ道場は介護分野で働きながら自力進学を支援する制度です。たとえば週2日夜勤勤務で月額15万円ほどの収入を得ることが可能です。

しかも、日本学生支援機構に限らず奨学団体がカバーできない入学前の費用の貸付も行っています。

昔から批判の多い新聞奨学金制度のニーズが常にあるのは、まさにこの点をフォローしているからだと思います。

そう言うと、「入学前の費用は教育ローンを借りればいい」「社会福祉協議会の貸付制度を利用すればいい」という反論の声が上がります。

想像して欲しいのが、厳しい家庭が教育ローンや福祉の貸付制度を利用する際のハードルです。おそらく保護者自身の怠慢によるブラックリスト登録などもあるでしょう。

ただ、それは保護者の問題であり子どもの責任ではないということです。

どのメディアも忘れているようですが、今回の修学支援制度の目的は「少子化対策」なのです。親子の負の連鎖を断ち切り、子どもの自立成長を国が支援するというものなのです。

修学支援制度の具体的な運用に関しては試行錯誤が続くと思われますが、制度の目的からしても家計基準から学生本人の収入は外すべきだと思います。

高等教育の修学支援新制度の矛盾

四国地方にある私立大学の職員によると、修学支援採用者は他の学生よりも良い環境を得られているとのこと。

たとえば、地方では家賃3万円程度という物件がいくらでもあります。

第一区分採用者なら年額約91万円の給付型奨学金が支給されます。これに加えて授業料が毎年70万円減免されるわけです。

安いアパートに暮らせば、家賃だけでなく食費を含む生活費を賄っても十分に余裕が残るほどの支援額です。

一方、修学支援の対象外である中間所得層の学生は、貸与型奨学金を借りながらアルバイトでも稼がなくてはなりません。貸与型奨学金は実質学生ローンなので、奨学金の借入を最小限にして不足分をアルバイトで頑張ろうというのも当然の考え方です。

いつの時代にも親が全てを面倒見てくれる恵まれた学生はいます。それはそれで親に感謝すればいいでしょう。

これまでの進学費用負担度は「低所得層の学生」>「中間所得層の学生」>「恵まれた層の学生」の順番でした。それが、修学支援が始まったことで中間所得層と低所得層の学生の立場が入れ替わってしまいました。

誰もが納得する仕組みを作るというのは簡単なことではないと思いますが、現場の声に耳を傾けていただき、修学支援制度もより良いかたちに修正していただきたいと願っています。

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