【日記】ブラザーレス・ブラザーコンプレックス
唯坂は、
世にも珍しい一人っ子のブラコンである。
ずっと兄弟が欲しかった。
家に帰っても誰もいない子ども時代。
社会に消耗しきった僕を出迎えてくれる人も、楽しかったことを聞いてくれる人も、一緒になって悪さしてくれる人もいなかった。
もはや兄弟がほしいとかじゃなくて、
兄弟がいないことで支障が出ている。
僕の両親は二人とも兄弟が多い。
しかも長男と長女で、子どもが多い家庭のデメリットを強く感じながら生きてきたようだ。
僕が「弟が欲しい」 (お兄ちゃんだっていいが、今から兄を求めれば時系列的齟齬が生じる) と言うと、口を揃えて
「お前は一人っ子だからそんなことを言うんだ。実際に弟や妹がいてみろ、苦労こそすれ、良いことなんてまるで無いぞ」
などとあしらわれた。
そりゃ確かに、無いものねだりなのは分かる。
だがしかし、僕の抱える孤独感というものは喫緊の問題であった。
思春期に差し掛かり、心の歪みが顕在化した僕の姿を見るに至ってようやく
「二人目をこさえてやればよかったか」
とこぼすくらいの理解は示してもらえるようになった。
ありがたい話ではあるが、すでに僕の嗜好は完膚なきまでに捻じ曲がっていた。
そして現在。
大きいぬいぐるみ (兄のメタファー) に抱かれ、
小さいぬいぐるみ (弟のメタファー) を抱きながらでなければ安眠することもままならない精神的に不安定な25歳独身男性がここにいる。
…待ってくれ。
あるがままを書いたら思った以上に字面が地獄だった。
しかし更なる地獄がこの先にある。
心して読んでほしい。
その覚悟があるのなら。
さてこのぬいぐるみ睡眠、
問題点が一つある。
そう。
ぬいぐるみは喋らない。
身体はぬいぐるみに委ねられても、
心の置き場がどこにもない。
そんなわけで、寂しさが最高潮に達したある夜、初めてYouTubeで『寝かしつけボイス』というものを検索してみたのである。
シチュエーションとしては、包容力のある落ち着いた雰囲気の兄に背中でもポンポンされながらゆっくりと寝落ちていくみたいなのがベストだ。
『寝かしつけ 兄 ASMR』…
それらしきサムネを見つけ、早速再生。
違う…!!!
声に艶はいらんのだ…!
よく見れば、概要欄には「女性向け」の文字。
需要と供給を考えたらそりゃそうなんだが、こうもネットリと耳元で囁かれたらおかしな気分になるばかりで一向に精神の安寧は訪れんぞ。
逆に女性たちはこれ聞きながら寝られるのか!?
目ぇバッキバキになるだろこんなもん!!
他の動画を探すが、
『眠れない妹を甘やかす兄』だの
『優しい声で寝かしつけてくれるシスコン兄』だの…
そうか。
一般的に兄属性に癒しを求めるのは女性なのか。(自明の理)
一応いろいろ聞いてはみたが、どの兄も「『女性にとって』理想のお兄ちゃん」って感じでなかなかノれなかった。
しょうがないので今日はそのまま寝る。
寝かしつけボイスについては今後も要研究である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?