森下雨村『青斑猫 (春陽文庫―名作再刊シリーズ)』
森下雨村(1890~1965)は、大正9年1月に博文館から創刊された『新青年』の初代編集長であった。『新青年』は、江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」や小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」が初出掲載された雑誌であり、森下の果たした役割は大きい。
さて、この森下は博文館を昭和6年に退社した後、自ら実作に手を染めるようになる。『呪の仮面』、『三十九号室の女』、『黒衣の女』、『白骨の処女』……どこか森下の作品を出版してくれるところはないだろうか。
ともあれ、現在入手できる唯一の文庫が、春陽文庫の『青斑猫』である。
これが滅法面白い。特に難易度の高いトリックが使われているわけではないが、プロット展開に重きが置かれていて、読者を飽きさせない。物語の進行とともに、謎が謎を呼び、スリリングな体験を味わうことができる。
物語の冒頭、ある不良青年が怪しげな弁護士事務所に呼び出され、実親が見つかったといい、実親からの要望で、とりあえず資金を毎月与えるので、衣装と素行を改め、ホテル住まいをするように言われる。なんとも好条件の申し出に、青年は快諾をするが、実は壮大な犯罪計画のなかで利用されているに過ぎなかったというものである。この後、物語はジェットコースターのような急展開を見せ、複数のエピソードがひとつに収斂してゆく。妖しいと思われる強烈な個性を持った容疑者は何人も現われ、どんでん返しに継ぐどんでん返し、真相は最後までわからない。
物語を読みながら、乱歩と味わいが似ていることに気づいた。ここには、怪人二十面相は登場しないが、黒蜥蜴に似た青斑猫が登場する。
森下雨村は、過去の作家ではなく、これから再発見されるべき未来の作家である。
初出 mixiレビュー 2009年01月25日 01:12
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