小学校で描いた漫画が、今もまだ終わらない。
わりとずっとたくさんの文字をいろんなところで書いてきた。
その原点になったのは「これじゃないかな」という思い出がある。
小学校高学年のとき、クラスの中で漫画を描くことが流行っていた。
とはいえ、所詮は小学生。せいぜい4コマ漫画が描ければ十分で、ほとんどみんな「漫画」と呼べるようなものではなかった。イラストにコメントがついている程度。起承転結やフリとオチなんてほとんどなかった。
それぞれ思い浮かぶストーリーはあったし、それなりの独自キャラクターはもっていたと思う。でもそれをコマに落としていく技術がなかった。キャラクターは描けても、背景は描けなかった。必要な知識や技術なんて知る由もなかった。
それはぼくも同様だった。
話はあるけど、ざっくりした絵しか描けない。
でも漫画を描いてみんなに読んでもらいたいし、できれば人気になってほしい。
試行錯誤の結果、ぼくはひとつの方法をひらめいた。
「ストーリーは文章で補って、挿絵程度にイラストを描けばいいんだ!」
この方法は当たった。
絵を描くより文字を書くほうがはるかに簡単で、伝えたいことが伝えられる。
ひとり、またひとりと創作漫画の世界から脱落していく中、手法を変えたぼくが結果としてクラスでほとんどこの市場を独占することになる。
RPG風のストーリーで主人公は勇者のぼく。
凝った展開もなく、なんとなく敵を倒していくだけの睡眠導入剤ストーリーだが、ひとつだけ大きな仕掛けを作った。
それは、登場人物すべてをクラスメイトすること。
絵より文章を重視したこと以上に、この作戦が効いた。
仲良しの子に声をかけ、魔法使いや戦士など様々な職業を選んでもらい、そのキャラクターを仲間にして物語に登場させた。
すると次々に「オレもオレも」とみんながぼくの漫画に登場したがるようになった。依頼をすべて受け入れられず、敵キャラや村人にした友だちもたくさんいる。
みんなが休み時間にサッカーに明け暮れる中、クラスでいちばんサッカーの上手なぼくはひたすら漫画を書き続けた。ゴールなんていつでも決められるからあんまり嬉しくなかったけど、漫画を褒めてもらえるのはとにかく嬉しかった。
「描けた?」と休み時間がおわるたびに聞いてくる友だちにノートを渡すと、その横から「次はオレにまわしてよ」と何人もの手を経由して返ってくるのがたのしくてたまらなかった。この漫画をキッカケで仲良くなれた子もいた。
結果としてシーズン3まで描き続け、半年ほど熱中した。
後にも先にも、創作物であれだけの評価を受けたことはない。
サッカーがうまいのは足が速かったからだし、たまたま向いてるスポーツに出会っただけで、みんなから褒めてもらえる才能でなかった。
ただ、自分でアイディアを出し、ストーリーを考え、作品にしていくことはたくさんの友だちによろこんでもらえた。
漫画よりサッカーのほうが上手だったけど、なんだか自分にはこっちのほうが向いてる気がした。こっちのほうがこれからもたのしい気がした。
まぁ中学生になるころには「漫画なんか描いてるヤツはダセぇ」というまわりの空気に流され、結局サッカー部に入ってイケてる先輩たちに可愛がられながら思春期ど真ん中のダサい時間を過ごすことになるんだけどさ。
大人になったら言えるね。
おまえがダサいと思ってやめた漫画みたいなこと、大人になってもずっとやってるって。
中学生のおまえよりずっと世の役に立ってるし、小学生のおまえよりちょっとは上手な文章が書けるようになったよ。って。
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