最後の一つを食べられた(#12)

 学校帰りにコンビニで買ってきた箱入りクッキー。最後の一つを食べられた。

 トイレに行く前まで、たしかにあと一つあったのだ。私の記憶が今の瞬間だけ抜け落ちて、食べたのに食べてないとごねる年寄りみたくなってしまったのなら別だが、あいにくまだ17歳なのでその可能性は低い。
 となると、怪しいのは同じテーブルでゲームをしている妹か。妹は私が帰宅する前からこのテーブルにいる。私が席を外したタイミングを見計らってクッキーを奪い、食べたのか。いや待て、さきほど一枚わけあたえたではないか。心優しい姉の施しを受けたにもかかわらず、こいつはその恩を仇で返し盗っ人のような真似をしたと・・・・・・
 まあこれだけで何も妹が犯人と決まったわけではない。被疑者はまだいる、母さんだ。何食わぬ顔で夕飯の支度をしているが、母さんが甘いものに目がないことは家族全員が知っている。いつもなら一つちょうだいと言ってくるのに、今日は言われなかった。そして、テーブルに置きっぱなしだったはずの醤油がキッチンに戻っていることも怪しい。醤油のついでに食べた線が濃厚か・・・・・・
 いや待て、ロンがいた。チワワのロン。我が家の説明のつかない珍事件のほとんどがロンの仕業であると言っても過言ではない。さらにロンは取られたくないものを隠す癖がある。隠したのか、クッキーを。しかし、ロンは主人の帰宅を出迎えることなくずっとソファで呑気に寝ているではないか。いくら鼻がいいとてクッキーの存在には気づいていないだろう・・・・・・
 ならば、父さんなのか。ここにいないというのに?それだけはない、と言えるか・・・・・・

 一旦落ち着こう。とりあえず座って、


 グシャ


 尻ポケットだ・・・・・・!

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