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不可研最恐の五日間あらすじ

書こうと思っているお話が、なかなか書き進められないので、あらすじだけでもと思って、無計画にnoteに書き殴り始めた次第。

まあ、生暖かく見守ってくんなまし……。

プロローグ

出張がちなサラリーマンの飯野は、2022年のお盆休み前に、出張から帰った際に中学生の娘が学校に呼び出されたことを知る。

理由は、市内で最近頻発している児童失踪事件のことについての聞き取りとのことらしい。

翌日、担任教師に電話で質問をしてみたところ、その呼び出しは事実で、内容もおおよそ知った内容も同じだった。

娘に詰問すると、怯えながら児童失踪の噂話について語り始める娘。

そして、学校裏サイトの噂や、失踪前に児童等が受け取ったとされるカードの話。

そして、そのカードが自分の手元にあることも。

娘に訪れるかもしれない危機に狼狽える飯野、その時事情を知らない旧知の友人である多田野から電話が入る。

彼は自己破産した上に妻に見捨てられ、居場所がなくなり故郷に帰ってきたとのことだ。

飯野は多田野に仮の住まいの安ホテルと当座の行動資金を提供して、娘の巻き込まれた事件解決への協力を要請する。

多田野はWeb制作の経験を有しているため、彼には「学校裏サイト」なる怪しげなものの発見と謎の解明を依頼。

ど同時に、学生時代に共に悪名を轟かせた三田と兵頭、そして早崎にも協力を要請して、難事件に挑むことになる。

オカルトや民俗学に強い三田は、早くから児童失踪事件に興味を持っており、独自に調査を進めていて、失踪事件の第一報と星の恵み教団が市内にロッジを設立した時期が重なることを突き止めていた。

私立探偵の兵頭は、いくつか失踪事件絡みの依頼を受けており、証拠集めの最中だった。

彼らは2022年の8月13日に再会し、早崎の営む居酒屋にて、かつて様々な謎を解き明かしてきた「尾揃市立第一高校不可解研究会」こと「不可研」としての活動を宣言する。

2022年8月13日

夕方早く、居酒屋「はやさき」に集まった不可研の面々は、かつての活動のことなどを思い出しながら、しばらくは楽しく酒を酌み交わしていたが、誰ともなく自分たちは同窓会をしにきたわけではないと気づき、自分たちが持ち寄った情報を共有する。

飯野は娘の手元にあった謎のカードを全員に示すが、得体の知れない素材に赤黒いQRコードのみが印刷されていて、全く得体の知れないものだった。

多田野がQRコードをスマートフォンで読み取ってみたが、どうやらアクセスを拒否されたようだ。

三田は星の恵み教団のあらましや教義について共有する。

星の恵み教団は、彼らが知るどの宗教とも異なり、星々の輝きの彼方におわす神々や多いなる存在によって我々は知恵を得て、さらには様々な恵みを受け取って今に至るが故に、それらの恩恵について我々はいつかお返しをしなければならず、そのために教祖様の導きに従い、捧げる供物を得るために活動しているということらしい。

兵頭は、本来守秘義務があるのだがと前置きしつつ、自分が依頼された案件について話し始める。

兵頭は現在12人(小学生3人、中学生9人で、全員市内在住の女性とのこと)の失踪事件について依頼を受けており、その中には飯野の娘の同級生が何人か含まれており、依頼人の何人かは飯野が持参したカードとほぼ同じものを持っていたとのことだ。

多田野は事前に飯野から聞いていた情報より「学校裏サイト」について解説する。

その中で多田野はSNS全盛の現在に、かつて事件にもなり、一時はテレビで話題になった学校裏サイトの噂が流布されている違和感について語った。

一通り全員が意見を語り終わると、翌日から調査にかかるということで、本日は解散となった。

2022年8月14日

その夜、多田野は飯野から受け取ったカードのQRコードを頼りに、謎のサイトにアクセスしようと試みていたが、最初は何度リロードしても繋がらなかった。

しかし日付が変わる頃に30分だけ樹木の表面のテクスチャーに覆われた謎のサイトが出現した。

この謎のサイトは背景画像のみで構成されており、リンクなどが全く見当たらず、ソースを確認してもリンクらしきものは見当たりません。

時間切れになり、謎サイトの解析にお手上げの多田野は、ふと見たURLから、このサイトがDDNSサービスを利用した自宅サーバーではないかと推測して、ユーザー情報の照会ができないかを考え始めた。

翌朝、調査の進捗が芳しくない兵頭は依頼人たちを訪問し、昨日飯野が持参したカードのQRコードを集めることにした。

それらの写真を多田野に送ると、QRコードの内容が数パターンあり、どうやらアクセスできるページが違うことがわかったが、実際にアクセスできそうな時刻まではまだ時間があったため、多田野は一旦仮眠をとることにした。

三田は星の恵み教団の教義に興味を持ち、新興宗教の情報に詳しい情報屋から教祖の情報を仕入れることにした。

教祖は無有というホーリーネームを名乗っているが、本名は有村無宇というらしく、実は有村精機という印刷機器メーカーの会長職に就いているが、そちらの方では活動している形跡はなく、もっぱら教団の方での知名度が高く、以前には信者への説法の様子が報じられて話題になったようだ。

無有は浅黒い皮膚とした長身の男で、黒ずくめのローブを着ていることが多く、さながら影が歩いているような印象を受けた。

飯野は娘の担任教師に会い、先日娘を呼び出した件について、詳細を伺うことにした。

担任は色白で柔和な男で、北山と名乗った。

北山は自分のクラスから失踪した生徒が複数出てしまったことについて責任を感じつつも、事件の影響で悪化したクラスの雰囲気を元に戻そうと、必死に足掻いている最中のように思えた。

飯野は北山の元を去る時に、すれ違った女生徒に、件のカードをこっそりと渡された。

渡されたカードのQRコードをスキャンして、多田野にメールを送る飯野。
そのQRコードのURLは、また別のホームページへ誘っていた。

2022年8月15日

仮眠から目覚めた多田野は、送られてきたURLを解析するべく、最後に送られてきた飯野からのメールのURLへとアクセスしてみると、こちらも表示されたのはブラウザの表示画面がテクスチャーだけのページだった。

ホームページのソースを探ってみると、いくつかコメントアウトされたタグがあり、開発者ツールを利用して、コメントアウトを外したホームページを再現してみると、下層ページへのリンクが出現した。

リンク先はJavascriptで制御されているらしく、しかも難読化されており解析には時間がかかると判断したため、別のURLの解析を進める多田野。

しかし、どうしても、どうしても、先程のページにあったリンクの先が気になって仕方がない。

その逆らいがたい感情にまかせて、先程のURLのリンクをクリックしようとしたその時、けたたましいスマートフォンの着信音がし、多田野は正気に引き戻された。

電話の主は三田だった。

三田からの電話は「ホームページ解析にのめり込むのは危険。感情の変化に気をつけること。そして音声ファイルは絶対に再生するな」と言ったところで途切れてしまい、多田野は解析を再開するか戸惑ってしまう。

しかし、先程のURLの先にあるものが気になって仕方がない。

その感情に抗えず、多田野は先程のURLにあったリンクをクリックしてしまう……。

リンク先にあったのは、膨大な量のテキストファイルで、多田野はそれらをダウンロードし始める。

ダウンロードしつつ、さらなる解析を進める多田野。
その先にあるものを探りたいという耐え難い感情に逆らえず、結果、あるリンクを誤ってクリックしてしまう。

すると、何やら呪文のような音声が流れ、多田野の意識が一瞬遠のく。

同時に客室の隅の、角の部分に怪しげな煙が立ち上り、この世の存在とは考えがたい四本脚の怪物が出現した。

突然のことで硬直する多田野を怪物の長細い舌が襲い、多田野の体を貫通する。

その時、客室のドアが激しく開け放たれ、三田が飛び込んできた。

三田は不思議な印の刻まれた大きめの石を怪物に投げつけ、怪物の撃退に成功し、多田野を救うことができた。

が、襲撃を受けた多田野は異形の怪物を目撃したショックで、気を失ってしまう。

朝を迎え、三田は飯野と兵藤をホテルに呼び出し、深夜の出来事についてと、このあと多田野の身に降りかかるであろう厄災について語る。

昨晩の怪物は「猟犬」と呼ばれるもので、狙われた犠牲者は特殊な環境に隔離しないかぎり永遠に追跡され、鋭角から実体化して襲撃する存在らしい。

どうやらこれは、仕組まれた罠のようだった。

三田は兵藤にセーフハウスとして使えそうな場所の提供を求め、多田野の隔離を提案する。そして兵藤は自分の知人でコネで口の硬い精神科医に、その部屋への往診を依頼した。

飯野は多田野が使っていたパソコンの中に、解析しているURLについてのメモを発見する。

その中には、解析中のサイトで使用していたDDNSサービスについて書かれれおり、どうやって調べたのかアカウントのユーザー情報がまとめられていた。

ユーザー名は北山という名前だった。

兵藤は北山という人物についてもある程度調査をしており、多田野の残したメモの住所と兵藤の所持している情報が一致したこともあり、それは飯野の娘の担任教師であることを示していた。

多田野が昨晩、主に調査していたページは、飯野が担任に会ったあとに、女生徒から押し付けられたものだったことを思い出し、北山が飯野を罠にはめようとしたのではないかと考え始めた。

セーフハウスに隔離された多田野は、奇妙な光景を目撃する。

その部屋はガランとして何もなく、角という角がウレタンフォームで埋められていた。

そして、せっかくのセーフハウスをウレタンフォームまみれにされて、がっくりと肩を落としてうなだれている兵藤と、念入りにウレタンフォームで角を塞いでいる三田が目に入った。

多田野が目を覚ましたことに気がついた三田は、多田野に昨晩襲ってきた怪物について説明し、この部屋に居続ければ安全だから、状況が落ち着くまではここにいることを提案する。

多田野は困惑するが、外に出れば異形の怪物の襲撃を受ける可能性があるなら、この部屋でじっとしていることが得策だと考えた。

そして、ホームページの解析を続けるべく、ダウンロードしたテキストファイルの謎を解くべく、試行錯誤をしていくうちに、それが画像ファイルがテキストに変更されたものだと気がついた。

ダウンロードしたテキストファイルを、片っ端から画像にしていく多田野は、その画像が、魔法陣かなにかのように見えた。

その報告を受け、画像を確認した三田は、それが魔法陣だということを革新した。

しかもそれは、すべての画像を積み重ねることで、より大規模の魔法儀式を行うことができる「積層式魔法陣」だった。

この街で、何か大規模な魔術的儀式が行われようとしている。

三田は、今回の事件が光の恵み教団とのつながりが強いのではないかと考え始めていた。

2022年8月16日

日が変わる頃、多田野は引き続きQRコードのリンク先を探ろうとする。昨晩に猟犬の襲撃を受けた恐怖は当然あったが、それよりも隠された秘密を解き明かそうとする欲望は強く、兵藤が入手した様々なQRコードのURLに次々とアクセスしては、自分のパソコン内にバックアップをとっていく。

その中にかなり古臭い作りの掲示板があった。
更新されたのは、つい二日ほど前のようで、件名も投稿者も、内容もごくごく普通の書き込みがいくつか並んでいた。
気になった多田野は、スクリーンショットを撮って全員に送ると、しばらくして兵藤が「件名、投稿者、投稿内容の一文字目だけを順に読んでみろ」と返信が来た。
返信の通りに解読すると、件名は「ホシノメグミノ」、投稿者は「キヨウソキケン」、投稿内容は「タスケオモトム」となった。
恐らくは「星の恵みの教祖(は)危険。助けお(を)求む」なのではないかと、全員の意見が一致した。

他にも昨日の三田の想像を裏付けるように、文字列に隠された特殊な魔法陣が、特殊な素材に特殊なインクで印刷することで、魔力的な効果を引き上げることができることや、魔法陣を何処に設置すれば、ある儀式に最適な星辰の位置に呼応するかなどの情報、更には何か大いなる存在を地球上に顕現させるための資産形成のために、ある施設にて仮想通貨のマイニング装置を設置したなどの情報が散りばめられていて、多田野はそれらの情報を夢中になって確保し、ファイル共有サービスでそれらを共有していった。

多田野はこのとき、自分が解析していたホームページ自体が、消耗した精神を蝕んで、狂気の淵に向かわせていることを知る由もなかった。

多田野や兵藤からのメールを受け取った三田は、やはり星の恵み教団が大きく関わっていることを確信し、ダークウェブを通じてオカルトに強い情報屋に接触し、星の恵み教団について背後関係の詳細な調査を依頼する。
数時間後に、星の恵み教団に関する情報を、情報屋から入手した三田は、その内容に驚愕した。
様々な結果を総合して考察すると、星の恵み教団の教祖こと無有は、十九世紀にアメリカで設立された「星の智慧派教団」の指導者といわれている「ナイ神父」と同一の存在ではないかという結果が導かれた。

飯野は、兵藤を伴って再び北山と接触するよう動き出す。
多田野が解析を進めている、ホームページのある自宅サーバーの名義や、QRコードの件などを、事件の核心に近い情報を、北山本人の口から語らせようと考えていた。
北山は、何も怪しむことなく中学校に来ており、飯野や兵藤と躊躇することなく面会し、質問に答えようとした。
ところが、重要な質問に差し掛かった瞬間、スイッチが切り替わるかのように、北山の仕草や口調が変貌する。
これまでは人当たりもよく爽やかな印象だったが、突然傲慢な態度を取り始め、飯野や兵藤を見下して語り始める。
QRコードを様々な方法で被害者や、それ以外の人物に配布した(もしくは手に届くように手配した)のは自分であり、全ては無有様のためであり、外のある神々の一柱を招来するための儀式に必要な供物を集めるための素材として必要なのだと。
供物は、豊かに実ったこの世界自体が持つ力であり、それを引き出す儀式に必要な素材が、若さの滴る少年少女の魂なのだと。
そして、その儀式は間もなく行われるだろうと。
それだけを語ると、北山は元々の人格に戻ったようで、語った内容をすべて忘れてしまっているようだった。

兵藤は、これまでの経験で、この変化は演技ではなく、何らかの疾患か洗脳の影響ではないかと考えていた。

飯野は考えていた。
こんな荒唐無稽な事実を、誰が信用するだろうか?
いや、誰も信じないだろう。
自分たち以外は……。
この企てを阻止できるのは、自分たちしかいない。
飯野は、多田野や三田にこのことを伝え、さらなる情報収集を依頼する。

2022年8月17日

多田野は、有村精機と星の恵み教団のホームページに、不審な形跡がないかを虱潰しに調べ始め、有村精機のホームページにコメントアウトされた記述を見つける。
それはデータセンターいう名称で、ネットの地図で調べてみると、市内の遊水地付近にある小さな廃屋のような施設だった。
そしてその所在地は、北山が登録していた自宅サーバーの所在地でもあり、また星の恵み教団ホームページでもコメントアウトされていた旧教会の所在地でもあった。
この情報を受け取った全員は、この施設に何かあると考え、潜入する準備を進める。

夕刻、徐々に夜の帳が降りる頃合いに、全員でその施設の敷地前に集合すると、兵藤はワイヤーカッターで門扉を閉ざしていた鉄線を切断し、全員で敷地内に侵入した。

施設の入り口にたどり着き、小さな小屋のドアを開けて、中にはいるとそこはただの廃屋のように見えたが、それはただのカモフラージュに過ぎず、隠し扉を見つけて中に入り、隠された地下への階段を降りると、現代建築と同様の構造になり、更に奥に進むと大きな部屋のようだった。
証明がついておらず、それでも明滅する小さないくつもの光源が散在する室内は、小さく低く響く音が常に満ちており、名状しがたい周期と気配がしていた。
誰かが照明をつけると、そこには人の身長の数倍はあろうかという、いくつもの異形の化物が、規則的に配置された円筒形の透明な容器の中に収められていた。
その横には、液晶モニターが設置されており、何らかの演算の結果を延々と表示し続けていた。
全員がその光景に凍りつく中、画面を一瞥した三田がつぶやいた。
「マジか。外なる世界の怪物たちに、仮想通貨のマイニングさせてやがる……」
確かに教団ホームページにそのような記載があったが、まさか化物にマイニングを行わせているとは考えてもみなかった。
三田はその存在に心当たりがあったので、退去の儀式を試みる。
が、その時、その部屋に北山と無有が現れた。
北山は「まさかこの施設に忍び込むとは予想してなかった」といい、「しかし、ここに来たこと自体が貴様らの間違いだったわけだな」と、何かの呪文を唱え始める。
北山の呪文の詠唱が終わる間際に、三田の儀式が完成し、異形の化物たちは虚空へと消え、それを目の当たりにした北山は激怒する。
それまでその様子を静観していた無有は、これまで隠していた本来の姿に戻ろうとする。
いや、それまでの姿も、変わりつつあるその姿も、それは本来の姿ではなく、千の貌を持つといわれるその神性の、たった一つの様相でしかないのであろう。
這い寄る混沌はみるみる巨大化し、飯野たちと対峙する。
北山は叫ぶ。
「もう終わりだ!
我々も、貴様らも、死の永劫を孕む闇に落とされるのだ。
我々の野望の対価を、その命で贖ってもらうぞ!」
その叫びとともに、這い寄る混沌は、何かの魔術の行使しようとしているようだった。
「飯野!兵藤!多田野!時間を稼いでくれ!!」
その魔術の行使を阻止するべく、三田はとっておきの儀式を行おうとする。
呪文の詠唱に気づいた北山は、三田を嘲笑する。
「無駄な努力よ!その儀式を執り行うには星辰の位置が正しくなかろう」
ところが北山の言葉をものともしない三田は、儀式に必要な呪文を唱え終わると北山に向かって叫んだ。
「彼の星がこの夜空に輝くには、確かに時期は早いかもしれん。
しかしだ、這い寄る混沌が関わるのなら、星辰の位置など大した問題ではないのだよ!」

三田は呪文を締めくくる。
「フングルイ ムグルウナフ クトゥグア ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!」

その時、尾揃市の上空は、まるで真昼のように激しく明るく照らされた。
闇夜を照らす蠢く焔球は、ただならぬ気配と激しい怒りに満ち、その燃える触手が、飯野たちが忍び込んだ廃屋に降り注ぐ。

激しい音を立て、焔の触手が施設の天井を破壊すると、這い寄る混沌と焔の神は、天地を隔てて対峙する。

その様子を目の当たりにして、多田野はその存在の放つ恐怖に耐えきれず、とうとう発狂してしまった。

発狂した多田野を担ぎ、来た道を引き返す飯野たち。
破壊された廃屋から抜け出て、敷地の外に出ることには、神々の激しい激突はクライマックスを迎えていた。

エピローグ

教団施設は、クトゥグアのもたらした暴力的な火焔の勢いの前に、またたく間に消失し、飯野らはそれを少し離れた高台から眺めていた。
夜空は、この世のものとは思えないような大火によって赤々と照らされ、その巨大な火災を消さざるを得ない消防車が、人類の持てる微々たる力を行使して、いわゆる「焼け石に水」の状況を体現していた。

これまでの出来事や、今目の前で起きている光景に最も大きな衝撃を受けていた多田野は、完全に心神喪失状態に陥り、その後精神病院に入院し、数日後に失踪した、ことになっている。

なっているというのは、新聞の記事の上ではの話で、実際は消えてしまったというのが正しく、そして多田野が生きてはいないことは、三人にはわかっていた。

恐らくは、這い寄る混沌ことナイアルラトホテップの野望を挫いたと安心していた三人の油断した隙をつかれて、追跡を諦めていなかった猟犬の襲撃を受けたのだろう。

そのことを知った、残された三人はというと、それぞれの日常に戻りかけた。

飯野は比較的何事もない日常が待っていた。夏季休暇を終えたあとは、それまでと同様に全国を飛び回る日常があり、この夏起きた非日常的で冒涜的な事件のことは、徐々に忘れていくことができた。出張から戻った日に娘から、二学期から突然、担任教師が女性教師に変わったことを伝えられたが、北山が既にこの世にいないことを知っていたために、とても反応に困ってしまった。
それから数日後、差出人のわからない一通の手紙が、飯野の手元に届く。
内容は、どうやら北山の綴ったもののようで、恐らくは最後に会った時の直前に書かれたもののようだった。

北山が教師の道を志した頃、生徒の指導に悩み、生徒との接点を増やすために、プライベートで掲示板を立ち上げたものの、状況はなかなか改善せず、その頃知人を通じて知った新興宗教にのめり込むようになった。
教祖の無有は、北山の悩みにつけこんで、人の心を誘う魔術を教える代わりに、人心を掌握した生徒を儀式のために差し出す契約を結ばせたのだ。
北山は必死に抵抗するが、無有は魔術による精神支配と疑似人格の植え付けによって、北山を無力化し、企てを実現してしまった。
自分が、邪な手段に頼ったばかりに、このような事態に陥ったことを激しく後悔していたと……。

三田は、今回の出来事を通じて、自分の身近に外なる存在の驚異が迫っていることを感じ、対抗策を求めて地球の外側に旅立つことになった。幸い、ダークウェブを通じて魔法書をいくつか取り寄せていたこともあり、セラエノの大いなる図書館まで旅する手段は、比較的安易に入手できたため、飯野にしばらく旅に出ることだけを伝えて地球から姿を消した。

兵藤は途方に暮れていた。護身術や格闘に関しては自信があったが、そんな自分の体術も人間以外には通用しなかったことを身を持って知り、それらに対抗する手段を渇望するようになった。幸い三田が姿を消す前に、いくらかのオカルト的な資料を借りることができたため、自身が取り入れることができる知識の範囲内でそれらを活用できるようになり、結果としてオカルト方面に強いトラブルバスターへと自身のあり方を変えていくことになった……。
彼の活躍は、また別の機会に語られることになるだろう。

ある日、飯野は早崎の店を訪れた。
彼は、自ら持ち込んだトラブルによって命を落とした多田野に対して、とても申し訳なく思っていた。
自らのことを責める飯野を、早崎は穏やかに咎めた。
「既に終わってしまったことをウジウジ言ったところで、多田野は帰ってこないし、多田野もそれを望んではいないと思う。多田野の身に降り掛かったことは、たしかに災難だっただろうけど、多田野は多田野で、飯野に頼られたことを悪くは思っていなかっただろうし、役に立てて嬉しかったんじゃないのか」と語る早崎に、飯野は黙って小さく頷くと、コップの冷酒を一息に飲み干して、店をあとにした。

季節は秋から冬に向かい、あの夏の刺すような日差しや、目眩のするような熱気が、遠い昔のように感じられた。
たった数ヶ月前のことでしかないのに、あまりにも途方のない出来事のあまり、記憶がおぼろげになりつつある自分に驚きを感じながら、飯野は日常へと還っていく。

ミニ◯ンビ! おこづかいほしいのねん!! (「よろしければご支援願います」の意)