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レジストリから論文が出ない

今日は日本熱傷学会のランチョンセミナーで「ビッグデータを用いた臨床研究:熱傷研究への応用とこれからの臨床研究」というテーマで話をしてきました。熱傷研究に用いられている主なビッグデータはDPC(8)、日本熱傷学会入院患者レジストリー(4)、東京都熱傷救急連絡会レジストリ(5)、日本外傷データバンク(3)の4つで、括弧内はそのデータからでた熱傷の英語論文数です。僕が調べた範囲ですが、全部でおおよそ20本。

座長の先生とお昼をいただきながらレジストリの利活用などに関して話をしてました。日本熱傷学会のレジストリはもう10年になり、計20000例の症例が蓄積されているとのこと。これは凄いデータベースです。でも、英語論文はそこから4本しか出ておらず、その理由の一つとして変数が25個しかないからだという話をされていました。ちなみに今年からレジストリが刷新され、入力しやすい臨床医と研究者に寄り添ったレジストリになります(僕が所属しているTXP Medical社が構築しますという宣伝)。


僕はずっと日本の救急外来における気道管理レジストリ(JEAN registry)をPIの長谷川先生と一緒に行ってきて、14年目になります。他にもレジストリを運営していたり、あるいは参加していたりするのですが、案外論文は出ないものだなと思っています。JEANは数十本出ているのでかなり多い方なのかもしれません。

レジストリの利活用は案外難しくて、特に大きくなればなるほど難しい。実質単独PIが仕切ってる方が論文が出て、学会などのようにステークホルダーがいればいるほど論文は出にくいような印象もあります。

論文が出ないと何がまずいか、と言うと単純に各施設が貢献してくれなくなるという点。逆にレジストリからそれこそNEJMにでも掲載されようものならみんな寄ってたかって論文化を目指すでしょう。NEJMに原著論文を3本載せたK先生には「後藤先生、データ作るのは良いけど、そこからhigh IFの雑誌に論文が掲載されないと中々みんな見てくれないよ」と言われました。

某外科レジストリのように強制力があるならともかく、臨床の片手間にデータを入力しているのに、そこから結果が出ないならそれは嫌になって当然なわけです。じゃあレジストリデータが論文化されない理由は何か?多くの場合、データ側の理由と人材面での理由になります。

  1. データのアクセシビリティが悪い

  2. 変数が足りない

  3. 論文を書ける人がいない

  4. 論文を書く時間がない

  5. 解析手法の高度化

実は1はかなり重要だと思っていて、「研究案を思いついたらサッとデータを見て確認したい」という欲求がデータベース研究者にはあります。特に救急医なんかせっかちの極みですし。ただ、これは「なんでも勝手に触っていい加減な研究をされると困る」「データを流出させられると困る」というリスクとのバランスで、これが極めて悪いのがNational Databaseの特別抽出です(現在は申請からデータをもらうのに一年以上かかる)。

これを良くするには、PIがリスクを負いつつ研究者の手元にデータセットが匿名加工されて存在するのが望ましいのでしょう(リスクを負ったからと言ってどうかなるものでもないのですが)。

それから、最初は解析案を募集したりもしますが、2回もやれば論文を書く人と書かない人が明確に分かれてきます。最初はみんな学会発表を行うのですが、そこから論文化するのはせいぜい10%-20%(PIの力と方針によっては50%を超えるかもしれません)。そして2本以上執筆に進むのは数人です。この数人がずっと論文を出し続けてくれれば幸運な方でしょう。

こうなってくると「決まった時期に研究案を申請する」という方針はむしろ制限をかけるだけになります。不公平だという意見はこの頃には消えているので、書ける人にどんどん書いてもらう方がいいと個人的には思っています。

2や3-5の人材に関してはまたいずれ(多分。しらんけど)。

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