日本対カタール 分析 ~問題を問題と認識するべき時~[AFC AsianCup 2019]
アジアカップ決勝日本対カタールから1週間と少しが経ちました。今回はこのカタール戦から初戦、いや森保体制発足時から見えていた課題を分析します。
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スターティングメンバー
日本は準決勝イラン戦で遠藤が負傷したので、ボランチに塩谷が入っています。それ以外は、固定のレギュラーメンバーです。カタールは、今大会4-3-3(守備時4-4-2に可変)と5-3-2を使っていました。この試合ではサウジアラビア戦、韓国戦に採用していた5-3-2をチョイス。
日本の守備
最初に日本の守備の分析からです。
下の画像は日本の守備時のカタールとのマッチアップです。日本は4-4-2。カタールはWBが高い位置を取るので、3-1-4-2(3-5-2、5-3-2)になっています。日本は、森保体制発足後、相手への「対策」を一度も見せていません。そして、細かい戦術も落とし込まれていない4-4-2です。
この日本の4-4-2は、カタールの3-1-4-2に対してとても相性が悪い。第一プレッシャーライン(FWライン)の2トップに対してカタールは3バックなので2対3の数的不利。そして第二プレッシャーライン(MFライン)の中央をケアする2ボランチ(柴崎、塩谷)に対し、3MFなのでここでも2対3の数的不利。2トップの一角に入ったアフィフを頻繁に下りてくるので、実質2対4の2人の数的不利。まず、2トップがアンカー(マディボ)を消すバックマークプレス(パスコースを消しながらのプレッシング)をしながら3人にプレッシャーをかけ続け、アンカーも消すのは無理がある。なので、アンカーに出されたときに第二プレッシャーラインが対応するプランがないといけない。しかし、先ほども書いたように2人の数的不利を抱えているので、寄せると必ずフリーの選手(しかも2、3人)ができ、そのフリーの選手に出されて、ライン間に入られてしまいます。
なので、アンカーに誰も寄せる事ができない。しかし、誰も寄せなければアンカーに運ばれてしまいます。このように中央に4人の数的不利を抱えて守備をしていました。「守備の構造の弱点」と「プレー原則がない」、この二つが失点にも繋がっていました。
では、ここで「プレー原則」について書きたいと思います。
プレー原則とは
プレー原則とは、文字通りプレーの原則です。まず、「チームがどう勝つの」か、というのがゲームモデル。そのゲームモデルを実現するためには選手全員が同じ方向を向いている必要があります。その同じ方向を向いて、意図を共有するためのものがプレー原則です。
では、「プレー原則がない」、というのはどういうことか。
全員が同じ方向を向けておらず、共通理解もないので1つの方向に他の選手が誘導するポジションを取ることもできない。なので個人の判断でやるしかない。なので、全体の共通理解を必要とする組織的なプレーができない。
では、その「プレー原則がない」が表れた1失点シーンを見ていきます。(配置は正確ではありません)
原口が出て2トップと共に3対3を作ろうとします。その原口-塩谷間(図では塩谷の左脇)でアル・ハイドスに縦パスを受けられます。そして、左サイドに開いたアフィフにサイドチェンジ。そのアフィフのクロスを受けたA・アリにオーバーヘッドを決められました。最後のオーバーヘッドが注目されますが、A・アリに対応した吉田、アフィフに対応した酒井の守備に問題があったとは言えません。この失点の原因は、アル・ハイドスにサイドチェンジされたところまでにあります。原口が3対3を作るために出たので、塩谷-原口間(左ハーフスペース)の対応は塩谷に一任されています。なので、アル・ハイドスは塩谷がマークしないといけませんでした。では、なぜ塩谷はアル・ハイドスを全くマークしていなかったのか。それは、原口の3対3を作るために出るプレーは、原口個人の判断でやっていたプレーだからです。
(図のアル・ハイドスとアル・ハティムが反対になっています。間違えました。)
原口の判断なので、「原口が出た時に塩谷はどうするか」という塩谷との連携までは構築されていなかった。なので、塩谷は対応できず、アル・ラウィに縦パスを通されました。では、この失点はどうすれば防げたのか。個人の判断でやっているということは、このシーンだけを切り取って「これが対処法です」って言っても仕方がない。個人の判断でやっていること自体がおかしい。ということは、戦術を設定しなければいけません。そう、「プレー原則」です。プレー原則を普段の練習から落とし込むことが僕の考える対処法です。では、どんなプレー原則なのか、2つ提示します。まず1つ目
「原口が出る」場合です。まず原口が時々ではなくはっきり出て、2トップと共に3バックに3対3を作ります。そして長友が右WBをマーク。そして塩谷が自分と原口の間、自分の左脇のスペースにいる相手をマーク。シンプルで当たり前のように見えるかもしれませんが、このように「原則」として落とし込まれている場合と、試合中に思わぬ形で起きた時とは全く違います。3対3でプレッシングし、それぞれのマークを明確にすることで、アンカーに第二プレッシャーラインが対応するプランがなくても、パスの出どころである3バックから余裕を奪うことで、アンカーを消す事ができます。次に2つ目
2つ目は「原口は出ない」とした場合です。「出ない」と決めておくことで、中途半端になるシチュエーションを避けます。そして、3バックに3対2になっているので、アンカーにパスを入れられるのは許容。パスが入った後に、ボランチの片方が出て、アンカーにプレッシャーをかける。そうするとボランチの背後にスペースができる。そのスペースをSHが絞ってケア。1つ目は「出どころを潰す」プレー原則で、この2つ目は出させて、「受け手の方を潰す」プレー原則です。潰すというより、正確には受け手の方で上手く対応する、という感じだと思います。
そして、動き回るアフィフへの対応に関しては、中央の場合はボランチが寄せて縦スライドでCBが、ボランチが出たことで空くスペースにパスが入った時に出ていって対応する。サイドならSH/SBが寄せて、逆サイドを捨ててボランチ/CBからスライドしていく、という対応策があると思います。
そして2失点目は数的不利を抱えているのでアフィフに寄せれず、縦パスを入れられて失点に繋がり、3失点目も1人に対して4人で対応したのにシュートを打たれ、DFに当たってCKになり、吉田のハンドに繋がりました。このように失点シーンを見ても、対策しなかったことで生じた守備の構造の弱点、プレー原則がないが故の組織的でないバラバラの守備をしていた、ということが分かります。今までは誤魔化せていましたが、組織的に数的、位置的優位を作り出す攻撃をするカタールを抑えるには無理がありました。
では次に攻撃です。
日本の攻撃
両チーム変わらず日本は4-4-2、カタールは5-3-2です。右サイドは堂安がハーフスペースに入ります。左サイドは縦並びとなっています。(この試合で大きな影響は及ぼしていないので言及しませんが、ここも大きな課題です)押し込むことが長く、後半は相手左WBの守備が甘いこともあってかカタールの左サイドを中心に攻撃していましたが、5-3-2を崩すための効果的な攻撃はしていなかったです。その攻撃とは、「SBへのサイドチェンジを繰り返し、3センターのスライドの遅れを突く」です。
SBにカタールは3センターがスライドして対応します。横幅を3人でカバーするということはずっとスライドしていれば、必ず遅れるシーンは出てきます。なので、3センターをスライドさせ続けて、遅れた所を突いてSBが運べば、ゾーン3(アタッキングサード)で数的優位を作って攻撃することができます。速く、長い1、2本のパスでサイドチェンジを繰り返し、サイドで数的優位を突くるシーンを増やせば、2点差も十分にひっくり返せたはずです。「SB」へのサイドチェンジであるのはSHに入れると相手WBに対応されるからで、速いパスというは、遅いパスだとスライドが間に合ってしまうからです。しかし、この攻撃は前半の2、3つの偶発的なシーン以外見られませんでした。その代わりに、今までの試合で何度も見られた攻撃がこの試合でも見られました。
この図にも書いたように、幅を取って相手の選手間を広げる、相手3センターを引っ張り出してライン間にスペースを作る。この2つ両方ともやらずにスペースのない、狭い中央のライン間に次の展開を考えていない「入れれるから入れる」縦パスを入れ、奪われる、という攻撃です。これも、「プレー原則がない」ことが原因です。同じ方向を向けておらず個々人の判断でプレーしているので、パスコースがあったら次の展開を考えていなくても縦パスを入れてしまうのです。そこからカウンターを受けるシーンが今大会何度も見られました。
これで分析は以上となります。
総括
日本代表の一番の問題は、「プレー原則がない」ことです。これは、森保体制初陣の2018年9月のコスタリカ戦から見えていたことです。今までは、相手が森保体制の日本代表をあまり知らなかったこと、選手個々人の技術で上回っていたので誤魔化せていましたが、この試合で分かりやすい形で出ました。2022年のW杯で勝つため、4年間を無駄にしないためにはここできちんと分析し、課題と向き合うことが必要です。ここまでは勝てていたので「勝てるチーム」というような評価を見ることが多かったですが、選手のレベルでは勝っているカタールに負けたこのタイミングこそ、問題を問題ときちんと認識するべき時です。
最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!
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