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第47回:完結編!日本を代表する「あの会社」のソニック・ロゴを分析!クルマは革新し、未来に向けて走り出すのか?


トヨタ自動車北米のソニック・ロゴを徹底分析も今日が最終回です。今回は、ソニック・ロゴとに被って語られるナレーション「Let’s go places」のオーラル表現のはらむ課題を徹底解説します。



「Let’s go places」:クルマ、スムーズに進んでますか?

このナレーション「Let’s go places」にはLetsの’sに破裂音(無声音)のアクションが強く入っています。同じ発声表現でもアクションが強くない言葉遣いと比較してみると全く異なる表現(表情)が表出します。この事例でいうと、破裂音(無声音)による「サウンドの詰まりや破裂や強調は、車会社のCMとしては「スムーズに進まない」印象を与えるため、好ましくない言語の選択であると考えられます。むしろ「Shall we go places」や「We are going to places」の方が良いでしょう。また、強調(アクセント)もスムーズさに欠けるイメージが形成され、場合によっては強引さや無理に牽引をするような心理的プレッシャー(ネガティブ)が創られてしまうリスクも感じられます。

本キャッチのナレーションの声には取り立てて特徴はないようです。

しかしながらナレーターの持つ声の性質・周波数帯、すなわち言葉を発するにあたり、その周波数(高低)、テンポ、間合い、ブレスサウンド、ブレスポイント、プロソディ(注)をおろそかにしてはいけません。それが企業理念やメッセージを発信するアンセムやソニックロゴであるならばなおのことですね。従って、本ナレーションは、「Let‘s」の「Le」に強いアクセントを用いず、「’s」の無声破裂音「ッ」アクションを強くしない方が好印象となります。

「Let’s go places」:企業理念と製品の合致はどこに・・?

このナレーションにおけるプロソディは、「go」よりも「places」よりも「Let’s」が一番強いですね。ナレーション冒頭の「Le」に強めのプロソディを用いたことにより、牽引・リーダーシップ・指示の感情指数は「強め」に進行しますが、残念ながらナレーションとソニックロゴのタイミングがずれており音声のブレンディングが芳しくないことがあげられます。

このCMのナレーション「Let’s go places」は、破裂音・無声音による「スムーズに進まない」印象を与える一方、ソニック・ロゴは「走り続けどこかに進む」印象を与えています。ですから、ナレーションとソニック・ロゴのタイミングがずれてしまうと、先に説明をしたせっかくの明るい前に進む「ミーソ#」の3度進行の感情指数と心理的にマッチしなくなってしまいます。これにより、車という製品や開発が進んでいくのか、それともトヨタが顧客に向かって自動車業界のリーダーとして旗を振りどこかに牽引していくからついてきてほしいという意味なのか、ヒトの脳内でエラーが発生してしまいます。また、 「Let’s」のナレーターによりプロソディが強めであるため、場合によっては視聴者に「強引な・高圧的な」印象を与えるリスクもあるでしょう。

(注)プロソディ:ダイナミクスや抑揚

リスク発信の可能性

本ソニック・ロゴ自体の周波数帯、振幅、音域はヒトの心理、感情、記憶、行動に暴力や自暴自棄などのネガティブな影響を与える音やサウンドを発信するリスクは小さいと考えられます。しかしながら先に述べたように、サウンドと破裂無声音組み合わせが「強引・傲慢で高圧的な」感じを与えるリスクが懸念されます。

前述の通りナレーションの破裂音・無声音やプロソディの強さは「スムーズな進行を妨げる」印象を与え、ソニック・ロゴの「どこかへ走り続ける車」と相反するイメージとなります。更には、これらの心理的なアンマッチは「車という製品や開発が進んでいく」のか、それともトヨタが顧客に向かって「自動車業界のリーダーとして旗を持ってどこかに牽引していくからついて来てほしい」というメッセージなのか、ヒトの脳内でエラーが発生します。

以上のことから、企業のアンセム、タグラインを明確な戦略に基づき制作していかない場合、ヒトの脳内でエラーや矛盾が発生しやすくなり、発信している顧客のレセプターに、企業が意図する導きたいメッセージが正しく伝わりにくくなると考えられます。
従い当初より企業の掲げる理念やフィロソフィーに基づき科学的に構築されたソニック・アンセムを制作した上で、企業と顧客との感情的つながりを生み出すソニック・ロゴや音声コンテンツの制作を推奨したいところです。


まとめ : ソニックロゴはとても短いもの。でも、たった数音のメロディで全世界の人びとの記憶に自社の製品や理念を想起させることができる。そのためには・・・?


1.日本市場においてトヨタ自動車は車種ごとのCMがあるが、一貫して利用されているソニックロゴの存在がないようです。
2.ソニック・ロゴ自体は音楽的・心理的ロジックに基づき合理的に制作されたメロディーであると考えられます。

3.ナレーション「Let‘s go places」とだけ聞いても必ずしもトヨタ自動車を連想しない消費者もいると推測されます。

・企業名をソニック・ロゴに組み込んだ方がブランドへの想起度は上がるため、ソニック・ロゴに社名を組み込むことを推奨します。
・地域・製品・国を超えすべての音声コンテンツ、CMなどに社名を組み込んだ同一のソニック・ロゴを常に利用することも併せて推奨します。
・ソニック・ロゴは季節、地域、テーマごとにアレンジを行うのが良いでしょう。

いずれにせよ、同社ほどのグローバルカンパニーであれば、全世界で統一したソニックロゴを活用することを推奨します。企業の理念やメッセージを発信するソニック・ロゴが日本で使用されていないことはもったいないことです。

4. ナレーション「Let‘s go places」とソニック・ロゴ「♪ミーソ#ーミ」の脳内エラーが発生しており、ヒトの心理に混乱を引き起こすリスクがあります。また、ナレーションによる「Let’s」のプロソディが強いため、若干強引なイメージを消費者に抱かせる可能性もあります。

5.このソニック・ロゴは「明るく平和にキラキラと走り続けどこかに進む進行」を感じさせる効果があるため、車製品そのものとしてのソニック・ロゴとしては極めて適切。しかしながら、そもそもソニック・ロゴは個別の製品宣伝のためだけに制作するものではなく、一貫した企業理念やメッセージを発し人々の共感を醸成する知財・無形資産として活用する方が本来の目的に叶い且つより効果的です。この場合、企業名をメロディ化した新たなソニック・ロゴを制作し、「トヨタフィロソフィーコーン」に述べられている「豊田綱領、世のため人のため、パートナーシップ、幸せの量産、モビリティ、トヨタウェイ」などの企業理念やメッセージをソニック・ロゴでも発信した方が良いと考えられます。そのためには、「社名の語感とメロディー、和音、進行、音の運び、振幅、周波数」等の音楽理論とヒトの心理を必ず科学的に相関させる必要があります。これにより、音を通じてお客様の独自のユーザー体験と心のつながりを創り、お客様が製品だけではなく企業にも更なるロイヤリティを感じていただけることとなります。それらの実現のためには音のブランディング・ガイドラインであり変わらぬ企業理念やメッセージを発信し、すべての音声コンテンツやメロディの根幹にしてテーマとなる曲、モチーフとなる曲である自社の「ソニック・アンセム」の制作を強く推奨します。

(ご注意)

*今回分析を行ったソニックロゴは2020年頃まで北米等国外で使用されていたもので現在のソニックロゴとは異なります。現在のソニックロゴはより「ニュートラル化」された音表現となっています。


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