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ニンジャスレイヤーTRPGソロリプレイ:「サーチング・イン・ザ・ダーク・ウィズ・スコーチング・レイジ」

◆前書◆ドーモ、Tac.Tと申します。この記事は8月25日の夜に、Twitter上で独自に実施したニンジャスレイヤーTRPGのソロプレイを、少々の加筆修正とオリジナルのストーリーを加えて公開したものです。◆よく分からない方は、ダイスを振って展開を決める、ニンジャスレイヤーの二次創作とお考えください。◆生存◆
◆前書◆さて、前回のSTILL‘A’LIVEストーリーは如何でしたでしょうか。このシリーズはニンジャスレイヤーTRPGを、キャンペーン方式で独自にプレイし、文章化するという試みです。今回は皆様からの人気も高い(であろうと勝手に思ってる)彼女のソロシナリオだ!◆生存◆
◆今回はトラッシュ=サンのこのシナリオをプレイしていくぞ!◆



◆◆◆◆STILL'A'LIVE SIDE SECTION◆◆◆◆


…重金属酸性雨降り注ぐネオサイタマ。耐酸性コーティングのなされたマグロ・ツェッペリンが大音量の広告音声を街へと投下する。『あなたは実際よく借りられる……低金利でスゴイ良心的……ふわふわローン!……ご利用は計画的に………』下を行く市民たちは広告音声に耳を貸さぬ。聞き飽きているのだ。

猥雑なネオン広告の光は裏路地にまで入り込み、その薄暗く細い空間を薄暗く照らしている。「25分5000円」「アカチヤン」「ご休憩」「誇り高いあなたの…」退廃ホテルが多い路地には、ピンクや紫のネオン広告が多く用いられており、迷いこんだ者を扇情的に照らす。

無論、いまその路地を進む二人には何ら必要のない広告である。背の高く、レインコートとつばの広い中折れ帽を身に纏った男と、灰色のフードを被り、質素な洋装スカートルックに身を包んだ少女。少女の方はPVCネオン傘を差している。「………」周囲を警戒するかのごとく、フードの中から鋭い眼光がのぞく。

「心配するな…そこらのヨタモノくらいならお前さんでもぶちのめせるさ」レインコートの男が勇気付けるかのように少女に声をかける。「まあ何、今回の仕事は実際研修みたいなもんだ。何かあったらいつでも俺を頼れよ?」「………」少女がため息をつく。前に垂らされた灰色のお下げ髪が揺れる。

「……そういう事を言ってるんじゃなくて」少女は苛立たしげな声色を隠しきれずに漏らした。「…こんな猥褻な所に私を連れてきて、どうするつもりよ……?」「それに関してはもう、諦めてくれとしか言えねえよ。依頼人がそういう、セックスビズで稼いでるヤクザだからな…デスキツネビ・クランだったか」

キバレ・ストリート。ネオサイタマの、いわゆる暗部に位置する街。非合法セックスビズの中心地のひとつにして、ファック・アンド・サヨナラ犯罪多発地域。「………」媚薬の含まれた芳香の香りに、少女がフードの下の顔をさらにしかめる。「着いたぞ、ここだ」コートの男が雑居ビルの前で足を止めた。


「ドーモ、デスキツネビ・ヤクザクランのグレーター・ヤクザを務める、セメイというものです」事務所に通された二人を出迎え、オジギしたのは若さが残るヤクザスーツに身を包んだ男であった。ヤクザの形式に沿った流麗なアイサツである。ホスト上がりであろうか、彼の目元にはベニが引いてある。

丁寧なアイサツに応えるかのように、油断ならぬフリーランス・エージェント二人はゆっくりとオジギをした。「ドーモ、アシアト興信社の、タニマチと…こちらはアリガです」「……ドーモ」アリガと呼ばれた少女のオジギはどこかぎこちないものの、やはりその出自が伺えるほどの丁寧なものであった。

セメイに促され、ようやく二人はソファへと腰掛ける。浅く腰掛けたハズのタニマチの腰が、柔らかなソファにひときわ深く沈む。「……単刀直入に今回の依頼の要件だけ言わせてもらうが、アンタらには不審火の原因を突き止めてもらいに来た」不審火、と聞いてアリガの眼光が一際鋭くなる。

「…不審火。」タニマチがセメイに向かって身を乗り出す。セメイはスーツの内ポケットから茶封筒を取り出すと、中身をテーブルに広げた。「コイツを見た方が手っ取り早え」写っていたのは…その全てがヤクザの焼死体。全身を焼かれたものから、半身を焼かれたものまで。そのどれもが見るにも堪えない無残な有様である!「ッ!」思わずタニマチが顔をしかめる。

「このところこんな死体が多く出てやがる。それもここ、キバレ・ストリートに限ってだ……ウチのモンも何人かヤられてる」タニマチが死体の写真を改める。アリガもそれを覗き込む。「黒焦げ死体に、一見して無事に見える死体もあるな……ああ、原因コレか」一枚の写真を手に取り、彼は合点がいったように呟いた。

「内臓からの出火」アリガが唐突に口を開いた。「綺麗な死体も混じってる…という事はそういう事か」タニマチも苦々しげに続ける。「マッポは…アテにならねえ。むしろ先を越されては困る。クランはなんとしてでもこの不審死の…原因を突き止めてぇんだ」シメイはテーブルの上で指を組んだ。

「…だがクランの野郎どもはビビっちまって役に立たねえ。うちのオヤブンすらこれ以上若えのを死なすなってよォ…」シメイの噛み締められた歯から、ギシリと音が鳴った。…丁度それは、アリガが同じく歯をギシリと鳴らした音と、奇妙にも一致した。「………」彼女の表情が、憎悪と憤怒にさらに歪む。

「……だから我々に白羽の矢が立った、という訳ですな」タニマチが背筋を伸ばす。「調査事こそ我々の本分です。お任せください…原因は必ず突き止めます。下手人も生きてさえいれば、きっちりデスキツネビ=サンに引き渡しますので」セメイの目をまっすぐに見据え、彼はしかと請け負った。


「…そ…そっちの嬢ちゃん」「へ?」「大丈夫か…?」見るとセメイは冷や汗をかいている。そして急激に張り詰めていくアトモスフィア!タニマチがアリガの方を振り向くと……彼女は明らかに殺気立った表情で虚空を見据えていた。瞳は灰色から燃え盛る炎のごとき赤橙色へと変色し…気のせいか髪も炎めいて揺らめいているように見える。

「……」タニマチは黙って彼女の背中を軽くチョップした。アリガの体が軽くつんのめり、張り詰めたアトモスフィアが一瞬で搔き消える。「アハハ…し…シツレイ。彼女初仕事なもので、その…義侠心が強いと言いますか」「いやコッチとしては殺る気マンマンなのは嬉しいんだけどよ…」

セメイの冷や汗が止まらぬ。彼が今相対している存在は、何か人ではない…決して機嫌を損ねてはならない、恐ろしい化け物のような気がしたのだ。「…だ…大丈夫……なんだよな?」愛想笑いしようとするが、顔が引きつる。「………」アリガはゆっくりと顔を上げる。その瞳の色は、元の灰色に戻っていた。

「……お任せください…」怒りを押し殺したような震えた声で、アリガはセメイに告げた。「……仕事は…確実に……こなしますから」ゾッとするような冷たい瞳。向けられたセメイは、静かに小さく失禁した。


◆◆◆


「アリガ=サン、お願いだからさ!”落ち着く”って事を早めに覚えて!?」タニマチの焦り声が上から降ってくる。「一歩間違えたらお前さん、事務所ごと大炎上するところだぞ!」「……ゴメンナサイ」彼の横を歩くアリガは、しかしてしかめ面という名の無表情だ。

「…分かっているんだかいないんだか…」タニマチが苦い顔でぼやく。単に愛想が悪かったり、という問題ではない。何しろアリガは、タニマチに故あって拾われて以降ずっと彼から距離を取り、怪しい動きがないかどうか、常に油断なく見張っているのだ。信頼がまだ得られてない分、当然のことではあるのだが…。

タニマチは大きなため息をつくと、気を取り直して続けた。「で、今回のお仕事は手口からしてニンジャの…可能性が大な訳だ。カトン・ジツを使ったニンジャの…」「見つけ次第…殺せばいいのね」低く押し殺した声でアリガが答える。「うん、できる限り生け捕りにする努力はしようか」「……なんでついてくるのよ?これくらい私一人でも…」

「心配だからに決まってんだろうが!」アリガの怪訝そうな、迷惑そうな目を見たタニマチは、そう言いかけて言葉を濁す。「…まあ、元々の目的はお前さんの実力を見るためでもある。ニンジャ・エージェントとしての適正とか…そういったものをだ。まあ確かに心配は要らなそうだが、一応、な?」「……」

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◆レッドブロッサム(種別:ニンジャ,フリーランス)
カラテ     2 体力    2
ニューロン   4 精神力   4
ワザマエ    4 脚力    2
ジツ      3 万札    0
ジツ:カトン・ジツ
その他:『○未覚醒のアーチ級ソウル憑依者』『家族の写真』
◆お知らせ◆
レッドブロッサムは『○未覚醒のアーチ級ソウル憑依者』ですが、処理が煩雑なため今回はアーチ級の能力・『★★★不滅』を取得しているのみとします。
・今回は保護者同伴の元ミッションにあたるので、少なくとも死亡することや死亡時のペナルティとかもありません。これ以降のSTILL'A'LIVEのサイドセクションでもPCが死亡することはありません。帰っパするだけです


「…まあ、ボチボチ調査を始めるとしようか!あそこのヨタモノなんかに話を…」タニマチが指を指した先には、深夜を猫背で徘徊しているヨタモノの姿が。髪はショッキングピンクのモヒカンにしており、タンクトップには「強姦」の文字。目を見開き、ヨダレを垂らしながら自販機の前をウロついている。

「…ダメだ、話が通じそうにない」「ヒヒィッ!」モヒカンヨタモノは目線の先に獲物を捉えた!灰色の洋風ドレスに身を包んだ…豊満美少女!「ヒヒ!カモ重点!カモ重点!」…モヒカンヨタモノの合図と同時に、周囲に潜んでいたヨタモノ達が次々に姿を現してきた。「ウワッ…」タニマチの顔がひきつる!

「ヒヒィー!」「女だァ!」飛びかかるヨタモノ達!無造作にカラテを構えるタニマチ!しかしその前に、アリガが動く!バキンッ!………「!?」ナムサン、彼女が鈍い金属音と共に受け止めたのは、モヒカンヨタモノが持っていた危険武器、カマ・バットである!「アイエ…?」

レッドブロッサムのカマバットキャッチ判定!
[回避判定NORMAL:6,3,2,6]
成功!片手で受け止めて……
[ワザマエ判定HARD:3,6,6,6]
……そして黙って軽〜く焼く。

「……………」アリガは受け止めた右手に熱を込め……カマ・バットの金属バット部分をあっという間に黒く焦がし、溶解せしめた。縄でゆわえ付けられたカマが虚しく地面に落ちて音を立てる。「アイエ…」「…………」アリガがヨタモノを見据える。灰色の瞳に軽蔑の色と、静かな殺意が込められている。

「ヒ…ヒヒャア!」命の危機を感じたヨタモノが、反射的にバットの残り部分を振りかぶって殴りかかる!アリガは首を捻ってバットを回避!直後素早くヨタモノの首を浅くチョップ!「グワーッ!」ヨタモノ卒倒!「ッヒャア!」右からチェンソー・バットを持ったヨタモノが強襲!アリガはチェンソーを躱し、カラテシャウトも発さずヨタモノの腹に一撃!「グワーッ!」吹き飛ぶチェンソー!

「ヒャヒーッ!」左からカマ・バットを持ったヨタモノがアリガに飛びかかる!アリガが上体を大きく逸らすとヨタモノの全身がアスファルトに激突!そこに追い打ちとばかりに首筋にケリ・キック!「アバーッ!」カマ・バット悶絶!「ヒャヒャアーッ!」背後からドリル・バットを持ったヨタモノがタニマチに突貫!「イヤーッ!」タニマチは振り向きざまにヨタモノにロー・キック!「グワーッ!」吹っ飛ぶドリル・バット!

めいめいが危険武器で武装したヨタモノが、アリガとタニマチに向かって四方八方から襲いかかる!二人はそれらを事務作業めいて次々に躱し、いなし、地面に伏せさせてゆく!「ヒヒィーッ!」「グワーッ!」「ヒャヒャーッ!」「グワーッ!」「ヒャヒャアーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「ヒャヒーッ!」「グワーッ!」………

「…ゴメンナサイ!!」数分もしないうちに、10人あまりのヨタモノ達は二人の前にヤジリがごとく並び、一斉にドケザをしていた。見ると乱闘した影響か、めいめいが殴られた跡のアザなどを顔や体に浮かび上がらせている。「カネ持ってそうだったんで…!」「いや聞きたいことはそういう事じゃなくてだな?この辺りで不審火とか無かったか?って話だよ」タニマチが、ヨタモノ達を前に淡々と続ける。

「アッ…ハイ…」「…ヨカジがこの間やられたよな…?」「口の中が焼け焦げてて…」「体が不気味に熱くって、焦げ臭くってよ…」顔を見合わせ、口々に喋り出すヨタモノ達。「…で、どこで死んだのよ」アリガが口を開く。ヨタモノ達は水を打ったように静まりかえる。「…どこで、殺されたか言って頂戴」

手がかりポイントを1獲得!【万札】を1獲得!


「…凄えなあ…こりゃアリガ=サンの言う通り、俺の出番はないかもだ」暗がりの小径を歩きながら、タニマチが頭を掻く。「……」隣を歩くアリガの表情はしかめ面という名の無表情を保ったままだ。タニマチがその様子を気まずそうに一瞥する。…ここ数週間彼女を観察していたが、カトン・ジツ使いのニンジャが絡むといつもこうだ。

「……?」(彼女に感情をコントロールするすべを身につけさせるにはどうすれば良いか…オーソドックスにザゼンか?)「…タニマチ=サン?」(いや、性格的に元々こうならともかく、彼女の場合……何かこう、違う気が…)「…タニマチ=サン」「え?んお、おお」「多分ここよ…ヨタモノ達が言ってた場所」

タニマチとアリガは、ヨタモノ達が提供した情報に基づき、キバレ・ストリートの中でもさらに奥まった地点へと足を踏み入れていった。猥褻な風俗店街から離れ、ジャンクパーツとホームレス達の寝床が乱雑に積み上げられた…ネオサイタマでも有数のスラム街に。「!」タニマチはある場所に近づいていく。


ジャンクパーツが積み上げられた山の下に、焼け焦げたタンパク臭を放つ何かが転がっている。…死体だ。白い煙を立て、頭から爪先まで炭化した。「ッッ!」アリガも駆け寄り、死体の前で膝をつく。「酷えな……」タニマチが死体を改め始める。まだ暖かい…殺されたばかりであろうか。

「……誰が…こんな……ッ!」無残な焼死体の前に、アリガの声が震え始める。怒りを押し殺すが如く。「…チャメシ・インシデントさ。いちいち反応していたらキリがないぜ」タニマチは震えるアリガの肩に手を置く。「厳しい事を言うようだが」…ふと、彼の目線の先に、開かれた死体の口が目に入る。

「それにどうも…下手人は一人じゃないようだな」「!?」タニマチの方をアリガが向く。他にもいると言うのか!?「死体の写真の焼けただれ具合が二種類に分かれてるって時点で気がつけば良かったんだ…内臓からの焼殺…」タニマチが焼死体を指差す。「…全身を均一に焼かれての焼殺。」「……あ」

『口の中が焼け焦げてて…』『見た目はなんともないのに、体は不気味に熱くって、焦げ臭くってよ…』死体の口の中は焼けただれてはいない。先ほどのヨタモノ達の証言と、この死体は確かに食い違っている。アリガが死体の顔をよく見ようと、目を凝らした。その時である!「アレーッ!」遠くから女の悲鳴が!

レッドブロッサムの説得判定!
[ニューロン判定HARD:5,6,2,6]
成功!落ち着いてさえいれば話は通じるのだ……

「火が!火が!アイエエエ!」走ってくるのは華やかなキモノを纏った女である。唇には真っ赤なベニ、髪にはカンザシ。キモノは走ってきたためか乱れている。キバレ・ストリートで働くオイランであろうか?「待って!」アリガはこちらに走ってきたオイランに向かって叫んだ。

「アイエエエ!何ッ!?」「落ち着いて!…その…何もする気は無いから」アリガはオイランの目を見る。動揺しているためか、その瞳はひっきりなしに泳いでいる。「大丈夫だ、お嬢さん。俺たちはこの辺を調査している探偵みたいなもんだ。丁度…あの死体の”製作者”を探している」タニマチも女に近づく。

「アイエエエ…ドーモ…」女はその場にヘナヘナと腰を下ろした。「何があったの?…貴女が逃げてきた方に、何が?」アリガが促すと、女はようやく落ち着きを取り戻したような様子で、少しずつ話し始めた。「…突き当りから続く道で大きな火の手が上がって、あっという間に燃え広がって、たまらず…」

「……火の手」アリガの目元に、再び仄かな殺気が宿る。この死体を焼いた放火魔が、まだ近くにいるという事実が、彼女の内に怒りを再び漲らせる。アリガの様子を察したタニマチが、オイランとの間に割って入った。「そりゃ災難な!良かったら、火の手が上がった現場を見させてくれ。例の放火魔に繋がる、何か手がかりを得られるかもしれん」

「…この人を、火事場に連れて行くつもり?」「まさか!まあ俺達土地勘もないし、案内してくれた方が実際ありがたいが…彼女次第だな」タニマチもオイランの目を見据える。ゴーグルの奥の瞳で、彼女の様子をじっと観察する。「…い…行けます。ご案内しますエ」オイランは震えながらも、立ち上がった。

手がかりポイントが1あるので、このまま先へ!やったね!


◆◆◆


オイランに導かれ、アリガとタニマチはさらにストリートの奥へ奥へと進んでいく。足元をネズミが走り回り、所々虹色の油を浮かせた化学薬品が、大きな池を作っている。タニマチがオイランの方を注視する一方、アリガはそれらを踏みしめる度、嫌悪感に顔をさらにしかめた。

(アンダーガイオンの方が遥かにマシだわ…)彼女は元はキョート貴族の名門の傍流の出である。…と言っても、彼女自身はアンダーガイオンの上層部、いわゆる中産階級の家庭に生まれた。時折父の仕事現場に行くためにアンダーの中層部へと降りていったことはあったが、ネオサイタマの不潔さはその比ではない。

足元で生ゴミが腐敗した、腐葉土じみた泥がグチャリと音を立てる。「………」タニマチに言われて頑丈なブーツを履いてきて良かった…この汚れは落ちるのだろうか?それとも捨てた方が…?汚物をできるだけ踏まぬよう下を向きながらアリガが歩いていた矢先、オイランが足を止めた。「……ここドスエ…」

アリガとタニマチが思わず目を上を向けると、眼前にあるのは焼け焦げた、木製バラックの集合体である。まだ小さな火の手はあちこちで上がっており、ちょうど鎮火しかけているといったところであろうか。「…さすがベニヤ製。火の手が早い」タニマチが真っ先に足を踏み入れた。アリガとオイランが続く。


焼け落ちたバラックの破片をかき分け三人が中へと進む。木の焼けた匂いと、微かな燃料の匂い。オイランは相変わらず震えながらアリガに手を引かれてついていく。アリガは改めてオイランを見た。いかにも女性的な、男が守りがいのありそうなアトモスフィアを漂わせた魅力的なオイランだ。…少し羨ましくもある。

(…だから何よ。)アリガは意識を少々強引に戻した。今の自分は探偵見習い。元からオイランになる気も毛頭なし。そのような魅力と今の自分とはそもそも無縁だし、欲しいとも思わない。…だが、オイランの細かい所作に、彼女は紛れもなく、今の彼女とは無縁の、平穏に暮らす人間の気配が見えた。

不意にタニマチが片手を上げ、その動きを止める。アリガがその様子を目を凝らして彼の様子を見る。彼はしゃがんで何かを拾い上げ、二人に見せる。手のひら大の大きさの、刺々しい物体。「…見覚えあるだろ?」スリケン、神話伝説におけるニンジャの武器である!

「ア…アイ……」オイランの様子がおかしい。足が笑い、唇が震え、今にも崩れ落ちそうだ。NRS症状の発症であろうか!「………!」さらにはアリガが憎悪と、下手人を追い詰めた愉悦感のあまり、瞳が炎を宿したがごとく発光させ始めた。「オイオイオイ!そんなに気張らなくていいだろ!?こいつはオモチャだよ!ホラ」

少々慌てた様子でタニマチが懐中電灯でスリケンを照らす!……見ると表面には、プレス加工の跡が。タニマチが片手でグニグニとスリケンを変形させる。「こいつは軟らかいプラスチック製のオモチャだ。…ほら、子供の頃見覚えがあるだろ?こういうの。前の住人が置いていったのかあるいは…」

「ア…アイエエ…」「……驚かさないでよ!」「ハハ、悪い悪い…」へたりこむオイラン、気まずそうに笑うタニマチに思わず詰め寄るアリガ。その時である!CRAAAAASH!!「アイエッ!」「!?」「何だッ!?」 見るとアリガとオイラン、タニマチとの間に崩れたバラックの壁が落下!ナムサン、分断されてしまった!

「タニマチ=サン!大丈夫ッ!?」アリガが声を上げる!「大丈夫だ!」間髪入れずに声が返ってくるが…「オイオイ…こりゃあ…」ただでさえ安請負のバラックが、炭化してさらに脆くなったのであろうか!?大きな音を立て、瞬く間に崩れていく!「…逃げろォー!!」

ZZZOOOOOMMM……「アイエエ……」「立てる!?」崩れ落ちるバラックを前に、アリガとオイランは息も絶え絶えな状態でバラックから這い出た。「タ…タニマチ=サン…彼とまず通信を…」「イヤーッ!」アリガがIRC端末を取り出す前に、バラックの向こうから鋭いシャウト!そして激しいイクサの音!

「イヤーッ…!」「イヤーッ…!」遠くでは同居人がイクサ中、しかし側には怯えるオイラン!いっそ彼女をおいて助太刀しに行くべきか!アリガが一瞬逡巡する!しかし……BOOOOM!「ッ!!」天のブッダは躊躇を許さぬ!突如マンホールが蓋を開け、中から炎が噴き出した!

「………」アリガが爆発の方をゆっくり振り向くと、ちょうどガスマスクをつけた薄汚い男が、火炎放射器を持って這いずり出てくるところであった。「ヒッ…ヒヒッ」「…な……何よ……」ガスマスク越しのその瞳は、正気を失っている!「ヒヒィーッ!アーポウ!アーポウ!俺はニンジャだぞ!」

はっきょうフリークス が あらわれた!
[レッドブロッサム回避判定NORMAL:6,4,3,3] 
回避成功!

「アーポウ!ニンポだ!ニンポを使うぞ!」火炎放射器ノズルを振り回す発狂フリークス!「カトン・ニンポ!イヤーッ!」火炎放射!刹那、アリガの脳裏に記憶の断片が去来する……自分が見ている目の前で、自分のために抵抗する両親を、無残にも焼き殺したニンジャの……放火魔の、記憶が。

無慈悲にも嘲笑しながら両親を焼いたニンジャの姿が。己の忌むべき存在の姿が。両親を焼いてなお炎を撒き散らすニンジャの姿が。己が憎むべき存在の姿が。自分に向かって薄汚い腕を伸ばすニンジャの姿が。己が焼くべき存在の姿が。ニューロンの闇の中に炎めいて髪をなびかせるニンジャの姿が。己が。



[レッドブロッサムジツ発動判定:2,1,5,5,5,3,5] 成功!

「……ッイヤーーーッ!!」気づけばアリガは……レッドブロッサムというニンジャは、右腕を構え、カトンを放っていた。「グワーッ!?」発狂フリークスは炎の渦に飲まれ、後方に吹っ飛ばされる。レッドブロッサムの右腕はガクガク震え、その顔はすでに超自然のフードに覆われている。…やってしまった。

ブスブスと煙を上げながら横たわる発狂フリークス。内なるソウルはそれに向けて、さらにカトンを強いようとする。…彼女はそれに逆らい、発狂フリークスに駆け寄り、安否を確認する。「…アバ…ッ…?」生きてる。良かった。彼女は右腕を構え…トドメのカトンを放とうとした。その時である!『アリガ=サン!』

◆◆◆


「ドーモ!俺の名はジドリマン!お前と一緒にジドリしてやる!」「今仕事中なんだよ、あっち行けよ!」「ヒヒィーッ!コウラクエンでボクとジドリ!」「しつっけえなもう!」「ヒヒヒヒ!強情な奴め!こうなったら何が何でもお前とジドリ重点!イヤーッ!」「イヤーッ!……お前何がしたいんだよ!!」………

「ハァーッ…ハァーッ…」突如として現れた自撮り強要発狂フリークスニンジャ・ジドリマンをなんとか撃退せしめたタニマチ…マインドセットは、オイランとレッドブロッサムを二人きりにしてしまったことに気づき、ドキリとした。彼はずっとオイランの挙動を見張り、観察していたのだが…

スラムの片隅に限らぬ全身を均一に焼かれた死体群、焼けおちたバラックの集合体、そしてその中に落ちていた軟性プラスチック製のオモチャのスリケン。死体やバラックの残骸から漂う燃料の匂いから合わせても、これは火炎放射器を用いたモータルの犯行だとは簡単に予測できた。…しかし、内臓を焼かれたあの変死体は?

唐突にキバレ・ストリートに現れたあのオイラン…よく観察していれば怪しい箇所がいくつも思い当たる。遭遇した際横にあった焼死体。普通のオイランで、かつ”火の手が上がった方から逃げてきた”のであれば普通は気づいた瞬間に腰を抜かして失禁するなり過剰に反応するだろう。しかし、彼女はどうだ?死体が視界に入ってさえさして動揺しなかった。

先ほど拾ったオモチャのスリケン。あれを見せつけてみた際にも彼女は動揺した素ぶりを見せたが、自分が今までに見てきたNRSの諸症状にしては明らかに演技くさい。さらには横でアリガが不穏な…瞳の発光という人間にしては奇妙なムーヴをしていても、さして気にも止めていないようであった。…何よりも、彼女の真っ赤なベニが引かれた唇から始終漂う奇妙な気配。明らかに人とは違う、異質な気配。マインドセットが慌ててIRC端末を出し、叫ぶ!

◆◆◆

『アリガ=サン!その〜〜〜〜〜〜〜〜!』IRC端末からのマインドセットの声に正気を取り戻すレッドブロッサム!しかし遠巻きに見ていたはずのオイランは、気配も悟らせずレッドブロッサムにしなだれかかり…「アナタ、すごいのね…」端末のスピーカーを塞ぐ。「……ッッッ!!」

今回はレッドブロッサムはマインド程オイランの怪しさに気づいていなかったので、判定難易度はHARDだ!
[ニューロン判定HARD:6,6,1,5]
成功!殺意のサツバツ!?

レッドブロッサムは、オイランが素早く口づけしようとするのを、ニンジャの腕力で強引に振り払う!「……ワオ」オイランは少しよろめいた程度で、苦もなく踏みとどまる!『アリガ=サン、聞こえるか!オイランから今すぐ離れろ!』マインドセットの声が端末から聞こえる…『そいつは…ニンジャだ!』

「ギッ……!」レッドブロッサムが嫌悪感と怒りに目元を歪ませる…その様子を見て、オイランは、好色そうに舌なめずりをした。「フフフ…あなたのように勇敢で…熱い情熱の香りがするオンナノコ、とても好きよ……」そして、しなを作るようにオジギをする。「ドーモ、ウォーマリップです。」

「……ドーモ……レッドブロッサム、です……!」レッドブロッサムの方も、決断的にオジギをする。…イクサの前のアイサツは、古事記にもある通り神聖にして不可侵の儀式であることは、読者諸兄もよくご存知の通りである。アイサツによって最低限の礼儀は示さねばならぬ。たとえ、目の前にいるのが憎き仇であれ。

「…イヤーッ!」「アッハハハ!」アイサツ直後コンマ2秒!レッドブロッサムの指先から放たれたのは、猛烈な勢いのカトン・ジツ!ウォーマリップはそれを身体を捻って避ける!さらに続けて炎を纏った鋭いチョップ突き!「イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」ノレンに腕押しをするかのごとく回避!

「アハハハ、カワイイコ…またどこかでお会いしましょう?」レッドブロッサムから距離を取り、艶のある声色で、誘うようにウォーマリップは言った。レッドブロッサムが歯を食いしばり、ウォーマリップに対してさらに追撃を加えんとしたその時である!「イヤーッ!」CRAAASH!

突如としてウォーマリップの背後、バラックの残骸を跳ね除け、身長2メートルはあろうかという偉丈夫が飛び出してきた!イクサを終えたばかりにマインドセットだ!「エ」ウォーマリップは振り向き、一瞬呆気に取られる!…ニンジャのイクサにおいては、そのコンマ1秒が致命的なウカツとなる。

[レッドブロッサムジツ発動判定:6,4,6,3,5,4,3] 成功!

「イヤーーッ!」鋭く踏み込んだレッドブロッサムの貫手が、ウォーマリップの胸元を貫通し、心臓を掴んだ。「…アバッ…」「…ッアアアアアアアアア!」そのまま彼女は、体内でカトンの炎を燃え上がらせる。ウォーマリップの体の皮膚が裂け、彼女の口から、裂けた体の切れ目から、火山口が噴出するが如く炎が噴き出す!

「アバッ!アバッ!!アア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーーー!!」憎き放火魔が燃える。声帯すら焼かれ、もはや悲鳴にもならぬ叫び声を上げて。今まで彼女自身がモータル相手にそうしてきたのと同じように。「アハ、アッハハハハハハ!アッハハハハハハァ!!」

レッドブロッサムはカトンの構えを解かず、狂ったように愉悦の哄笑を響かせ始める。苦悶するウォーマリップを嘲笑うかのように。装束と両目が炎めいて赤橙に発光し、激しく揺らめいた。その時である!

「イヤーッ!」突如として彼女に突貫してくる偉丈夫!「ンアーッ!?」地面に組み伏せられるレッドブロッサム!ウォーマリップに纏わり付いた炎の勢いが一気に弱まる!「…もう良いだろッ!やり過ぎだアリガ=サン!落ち着くんだ!」

彼女の肩を地面に押さえつけ、必死の形相で説得するマインドセット。レッドブロッサムは息も荒く、拘束から逃れようともがく。「フゥーッ!フゥーッ……ARRRRRRRGH!」「大丈夫だ!大丈夫だ!もうアイツは死んだ!大丈夫…!」マインドセットの背後で、ウォーマリップが黒い焦げた肉の塊となり、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。

「サヨナラ!」ウォーマリップが爆発四散すると同時に、彼女の装束の揺らめきが収まり…その瞳が灰色へと戻った。彼女の体から力が抜ける。思わずマインドセットが、レッドブロッサムの肩から手を離す。彼女の…その表情は、数秒前とは打って変わって、激しい動揺と怯え、恐れを満面に浮かべていた。「…………私…………?」

そこに先ほどまでの、決断的にニンジャを燃やす断罪者、猛り狂うニンジャの姿はなく…自らが発した圧倒的な炎の暴力と、無辜のモータルであるはずのオイランの豹変。そして、紛れもなく暴虐的な自分自身への恐怖。憎悪。困惑。ないまぜになった感情それ自体への恐れに震える、小さな少女のみがそこに居た。

「私………私……?…私は………?」自らを抱きしめ、どうしようもない恐れに満ちた瞳でガクガクと震えるレッドブロッサム……アリガに、マインドセット…タニマチは上着を脱ぎ、彼女に着せてやった。「まだ改善の余地あり……だな」そして隣に座り、背中をさする。怖がっている子供にはこうしてやるのが良いということを、彼は知っていた。

「……今日はお疲れさん。依頼人に成果報告して……早く帰ろう」


◆◆◆


セメイが何かいうより先に、彼の前の机に、ポリ袋に入れられた何かがゴロン、と投げ出された。「アイエッ!?」オーガニック・チャを注いできたレッサーヤクザが、その『中身』と目が合って怯む。「…承った通り、こちらが下手人の首です…」アリガは淡白にそうとだけ伝えた。「…綺麗な死体の方は、『彼女がやったもの』と見て…間違いは無いでしょう」

アリガの言葉を聞き、セメイがポリ袋を改める。「あ、一応黒焦げ死体の方の下手人もここに…オラキリキリ歩け!」「グワーッ!」特殊プレイ用の荒縄でがんじがらめに縛られたガスマスク男を引っ立てながら、タニマチが部屋へと戻ってきた。「コイツの方は自分のことをニンジャだと勘違いした発狂フリークスでしたね…まあ不審火の火元はこれで消えたと思いたいですが」「ヒッヒヒヒィ、ニンポ」

セメイはそれらの状況を組み合わせ……袋の中の生首が、紛れもないニンジャの生首であると確信した。何も驚くことはない。デスキツネビ・ヤクザクランのケツモチであるソウカイヤは「ニンジャのヤクザ組織」と言っても過言ではないのだ。その上先程の不審な動きからして、目の前の危なっかしそうなガキもニンジャなのだろう。

「それで?なんで綺麗な焼死体なんかが出来上がったんだ?エ?」セメイの何気ない問いかけに、今度はタニマチが答えた。「その理由は…あまり詳しく知らない方が良いかと」意味ありげにセメイに目で合図する。「…そうかい」セメイにはその答えで十分通じた。

「まあ…なんだ。アンタらの腕の確かさはよく分かった。オイ!」「ヘイ!」セメイの合図に合わせて、レッサーヤクザが万札で膨らんだ茶封筒を持ってくる。アリガが中身を改めると、セメイ自身から提示された条件の倍額の報酬であった。「これは…」「これからもヨロシクオネガイイタシマス、だ。肝が据わった連中と仲良くしない手はない、そうだろう?」

差し出されたセメイの手。アリガがその手を握ると、セメイがこちらの目を見据えていることに気づいた。自分に対する微かな恐れが、そこには含まれていた。しかし彼はたとえ、この時アリガの腕が恐ろしいバイオサイバネの腕だったとしても、自らを強いて握手をしただろう。彼自身の沽券、矜持、ソンケイがそこにあった。


◆リザルト◆
A+:不審焼殺事件の犯人であるニンジャの首を差し出した:余暇:4、【万札】:20、"デスキツネビ・ホットライン"を獲得
◆今回の"デスキツネビ・ホットライン"はただのデスキツネビ・クランとのコネだ(具体的な効果なし)!◆
火の用心。誰も彼もが不発弾。
今回のサスペンスドラマめいたシナリオと、実際ミステリアスなキャラクター・ウォーマリップ=サンは、トラッシュ=サン(https://note.mu/trash_can820)のご提供です。限りない感謝を!


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「……………」タニマチのセーフハウスのソファに座り、アリガはじっとその掌を見る。

思い起こされるは、あのヤクザの表情。返り討ちにしたヨタモノ達の表情。自分に対する微かな恐れ。

思い起こされるは、先ほどの発狂フリークス。まるで自らを、その末路を鏡写しにしたかのような姿。

思い起こされるは、先ほどの自分自身。衝動に呑まれ、怒りと快楽に呑まれるまま、恐るべき炎を放たんとした自らの姿。暴虐と殺戮すら喜んで受け入れるかの如き、苛烈となった自らの一面。

認めざるを得ない。自分はもはや化け物なのだ。マルノウチ・スゴイタカイビルのあの事件の時から。

(……彼には私が、どう見えているのかしら)ふと視線を後ろに向ける。背の高い同居人が、今日も飽きずに冷凍フライドライスを買い込んできた所だ。

ザイバツ・ニンジャに捕らえられ、あわや大ピンチと言ったところで突如現れて暴走を止めた挙句、『マルノウチの罪滅ぼしをさせてくれ』といきなり言い出した、あまりにも、あまりにも都合が良すぎる男。アリガはこのタニマチ・ギンジという男の真意を未だ掴みかねていた。

「……ン?」タニマチがアリガの方を向く。アリガはそれに合わせて目線を逸らし、テレビの方へ移す。…人の良さそうな表情を見せてはいるが、その実どんな意図があって自分を匿っているのか知れたものではない、というのが今現在でのアリガの彼への印象であった。

一方のタニマチは、彼女の様子に首を傾げつつ勝手に切り出した。「そういや昨日の仕事な、キバレの町内会からもお礼が来たぜ。最近ここらで騒がれている放火魔を退治してくれたからって。ホラ、サトイモの煮っ転がしくれた」買い物袋から冷凍フライドライスの袋とともに、何かが詰まったタッパーを取り出す。

「……………」アリガは無言のまま、さらに先日の仕事を思い出す。あのオイランめいた放火殺人ニンジャ……彼女の無害なフリをついぞ見抜けずじまいであった。それどころか正体を知らぬままとはいえ、半ば同情するような感情すら向けてしまう始末。彼の言うような「エージェント」としては、到底今の自分は使い物にはなるまい。

そのことを考えても何故、この男が自分を引き入れようなどとしたのであろうか。アリガはますます眉根を寄せる。自分を側に置くと言うことは、彼にとってもあらゆる面で『爆弾を抱え込む』に等しい厄介ごとであるはずだ。「………………」「………………」冷たい瞳からの怪訝な視線を向けられ、タニマチは表情を固めてアリガを見る。

「……な…何?」彼がおずおずと聞くと、アリガは「……いえ」と答えたきり、そっぽを向いて小説へと集中した。今度は変な緊張感を持った怪訝な視線がタニマチから向けられる。

(………わからん………)一方のタニマチが心中でひとりごち、頭を搔く。(彼女が度々こっちを監視してくるのナンデだ……)コーヒーを入れようとケトルに水を張ったところでふと、気がつく。(や、そりゃまあ出会い方は色々不自然…と言うか、色々状況が目まぐるしく変わったようなもんだから、戸惑いもするか……)

キッチンにてケトルに火をかけ、しばし待つ。タニマチは考えに考えた末、ソファーのアリガにこう、呼びかけることにした。「町内会のおばちゃんがさ、お前さんに直接お礼言いたいんだとさ。今度行くか?」アリガは目線だけキッチンにくれたあと、小説に目線を落とし、また思案にふけり始めた。


井戸の底を覗きすぎると落ちる。
深淵を覗く時、深淵もこちらを覗く。
怒りの松明を煌々と燃やせば、その炎はいつでもこちらを燃やせる。

「サーチング・イン・ザ・ダーク・ウィズ・スコーチング・レイジ」

忘れるなかれ。炎は忠実な召使であり、油断ならぬ主人でもある。

【To Be Continued…】


◆終◆最後まで見ていただきアリガトゴザイマス!◆
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