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【ネオサイタマ、アルカイックスマイル・ヤクザクラン跡地:ヤジカ】 STILL'A'LIVE SLATE:ニンジャスレイヤーTRPG

◆前書◆ドーモ、Tac.Tと申します。この記事は2020年12月9日、Discord上で実施したニンジャスレイヤーTRPGのセッションの補足として公開した、自PCのスレイトを、鯖主のネオイ=サンに許可を頂いて記事にしたものです。なお、記事にするにあたって多少の改稿を実施しております◆よく分からない方は、ニンジャスレイヤーの世界観をお借りした、オリジナルキャラを用いた二次創作とお考えください。◆忍殺◆


◆◆◆

ウシミツ・アワーのネオサイタマの夜、既に廃墟と化したヤクザクランの跡地。埃をかぶったソファの上に、一人のヤクザが腰掛けている。
ドクロめいた月が割れた窓ガラスから覗き、ヤクザの頬に刻まれた深い皺を映し出す。

……老ヤクザは、ただ何をするでも無く、そこに座っていた。

壁にかかった写真が、時の流れを明確にする。梁の上にかかった写真の列。一番左端に、老ヤクザの若き頃と思しき男の顔写真。下のプレートに刻まれた文字は、『6代目オヤブン:ヤジカ・マサチカ』。

「…迎えが来たか」老いたにしては朗々とした声で、ひとりごちる。「ソウカイヤからの使いだろう」

老ヤクザ…ヤジカのその真後ろに、全身黒ずくめの男の姿が、音もなく立っている。顔には黒い、ホッケーマスクじみたフルメンポ。
老ヤクザはさして動揺もせず、男の存在をさも当然のように受け入れた。

「俺が足抜けするからって、ケジメつけさせに来たんだんだな?違うか」「………」フルメンポの男は、呼吸音すら発さず立ち尽くす。

「アサシンか」ヤジカの言葉は続く。「それも腕がいい。ニンジャか?そうでなきゃこうまで静かに俺の背後にゃ立てんだろうさ」

老ヤクザはそう言うと低く笑った。男のフルメンポの奥の目が、細まる。
「生憎、ドンパチやろうって魂胆はねぇさ。なんならボディチェックでもするか」男の思考を見透かしたかのように、ヤジカは告げた。「チャカもドスも持ってねぇよ。ーーーー来る時にドブ川に捨てッちまった」

…数秒の間を空けて、メンポの男の手首からブレードが展開した。刃先にほのかなネオン光。最新式の電磁ブレード。
「跡形もなく消してやろうってンなら、むしろ願ったり叶ったりだ。一息にやってくれ」
「……………」


フルメンポの男が腕を振り上げたまま、動きを止める。

「一ついいか」
男が初めて言葉を発した。
「なぜ抵抗しない」

ヤジカはそれには答えず、ただ荒れた事務所の、ある一点を顎でしゃくった。

2秒後、ブレードのネオンが見事な軌跡を描く。
老いたヤクザの首が、埃をかぶったカーペットの上に転げ落ちる。


………


死体の首の断面は電磁ブレードの焼灼によってか、血痕をそれほど残さなかった。
後は細かな血痕を、死体ごと始末すれば仕事はそれで終わりとなる。
いずれこの廃ビルも、再開発によって新たな廃ビルとなる定めだ。

フルメンポの男は実際ソウカイヤに雇われたアサシンであり、ニンジャであった。名はデリーション。

今回のターゲットたる老ヤクザは一週間前に、古くからの友人であるヤクザにそれとなしにソウカイヤからの足抜けの事を明かし、それがソウカイヤの上層部の耳に"偶然"届いたのだ。デリーションはそれ以上のことは知らぬ。また、知る必要もない。厳命されているのは、ただ跡形も無く"消去"する事のみ。

デリーションが清掃に取り掛かる中、ある一点にふと注目した。死体が最後に指し示した地点。床に落ちてガラスが割れている写真立て。…まだ中に写真が残っている。

デリーションが拾い上げてみると、なんらかのノミカイの写真であろう。
ヤクザスーツに身をつつんだ男たちが、肩を組み交わし、笑っている。
ある者は顔に落書きをされ、ある者は肩に"イットウショウ"のタスキが掛かっている。

デリーションの視線が中央の男に向く。
梁の上の写真と…先ほど殺した男と、同じ人相。若き日のヤジカが、そこに居た。満面の笑みを浮かべており、だいぶ血色が良い。

(失ったからか)
彼の中で、納得が行った。クランが滅び、生きる縁(よすが)を失くした男は、ただ死ぬしかない。
今回のターゲットはそれを悟ったのだ。だからこそソウカイヤを足抜けしたいとそれとなく匂わせ、そして依頼が自分に行った。

(非合理だ)
自殺をするならば、自らチャカでも口に加えて引き金を引けばいい。長年ヤクザ身であろう、セプクをする度胸がないわけでもない。わざわざこのような手口で仕事をする自分を指名してノーティスが行ったのは、相応の"事情"をヤクザが抱えていたか、あるいは余程この世から跡形もなく消え去りたかったからか。

(…だが)
理解できなくは、ない。
デリーションは、ステルス装甲の秘されたポケットの中から、メモ帳とフロッピーディスクを取り出した。かつて聞いたあのラジオの曲目。方々調べまわり、ようやく見つけたそのうちの一曲目。

…殺し以外で、新たにできた自分の生きる縁(よすが)。

(俺も聴力を失くしてしまえば、いずれは?)
その心中で一瞬だけ浮き彫りにされた疑問は、いつもの単純作業の中で薄れてゆく。
ヤジカの生首を取り、その両目を閉じてやる。赤子めいて安らかな顔。
そしてそれを丁寧にゴミ袋の中に仕舞う。



廃ビルから、黒い風が躍り出る。
袋を背負ったまま、デリーションは駆け出す。それを見下ろし、ドクロめいた月が「インガオホー」と呟く。

…彼は走り続けたまま、IRC端末を操作した。フルメンポとバラクラバに秘匿されたイヤホンから、激しいビートが流れ出す。彼の恐れを洗い流すほどの、激しいビートが。

『…ヨー!人々、聞こえるか!これはKMCレディオ、DJゼン・ストーム!……』


◆終◆◆◆◆STILL'A'LIVE_SLATE◆


◆忍◆ニンジャ名鑑:XXXX【デリーション】
ステルスニンジャ装甲とフルメンポに身を包んだ、フリーランスのアサシン・ニンジャ。ステルス・ジツの助けを借りずとも影に潜み、敵の視覚の外からマシーンじみた致命の一撃を加えることを得意とする。一見虚無的であり、粛々と仕事を進めることを好む。自身の痕跡が残ることを過度に嫌がる傾向を持つ。趣味は音楽鑑賞。◆殺◆

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