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写真館に行ったら「家族のかたち」が整った

写真を撮るのが好き。
撮られるのは苦手。

付き合って今年で19年目、結婚9年目に突入する妻との「二人の写真」は、覚えているだけでも3枚。書棚からアルバムを引っ張り出しても8枚しかなかった。

妻ひとりの写真は、付き合う前から数えきれないほどあるのに。

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去年、夫婦とも38歳にして子供ができた。

日ごとにおなかが張り出し、予定日が近づく妻のこの不思議な体型で一緒に写った写真を残しておきたいと思った。

それは妻との「二人の写真」であり、
まだ見ぬ娘との「三人の写真」でもある。
こんな機会はもう二度とない。

そしてこの撮影を皮切りに、毎年「家族の肖像」が残せたら。

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撮ってもらいたい人はすぐに頭に浮かんだ。

写真家、鈴木心さん。

有名なところでは、サントリー 角の井川遥さんや、JR東日本「ぜんぶ雪のせいだ」。モノノフ界隈では「幕が上がる」の等身大新聞広告を撮ったあの人です(もちろん5枚ともコンプ済)。

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鈴木心さんと僕の“一方的な出会い”は、16年前に遡る。

武蔵美の映像学科で、小林のりお先生による「デジタル写真基礎」という授業が始まった2003年。当時は、「フィルムこそが写真。デジカメなんて」と、今となっては死語の「デジタル写真」が忌避され軽視されていた時代だった。のりお先生は美大の中でそんな懐古趣味や権威主義と闘っていた。

まさに過渡期だったその頃、膨大な画像データを繋ぎ合わせて擬似的に高解像度写真を作り込んだ内原恭彦氏がキヤノン写真新世紀で年間グランプリを受賞したり、他にもさまざまなアプローチの新世代の作家が誕生していた。

スマホもSNSもなかった16年前、デジタル写真は「写真=銀塩」の固定観念を壊すものとして「Web写真」というジャンル(流派?)になり、のりお先生の周囲には多くの「デジタル写真家」が集っていた。

僕はといえば23歳で2回目の大学3年生で、デジタル写真基礎の1期生として日々スナップ写真をWebにアップしては同年代の作品もブラウザ越しにチェックしていた。

その中で見つけた鈴木心さんは毎日かならずなにかしら写真をアップしていて、テーマも物語性も不明な、ただ目の前にあるものを上げていくスタイルに言い知れぬ気迫を感じた。僕の知っている「Web写真」界隈とも違う。被写体を撮っているというよりは、写真をやっている、という感じ

鈴木心。どうやら同い年で、東京工芸大学の学生らしい。写真も名前も特徴的だったから一発で覚えた。この人は写真を生業にする人だ。すぐ理解して、自分の写真があまりにパーソナルな存在であることを自覚した。

ほどなくして僕は写真から足を洗った。

のりお先生らとのグループ展やWebで作品を発表することを通じて、DMやポスターをつくって集客することやネットの面白さにのめりこみ、デジタル広告の分野へと進んでいく。人生なにが影響するかわかりませんね。

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さて、あの特徴的なお名前を再び目にしたのは、社会人になって2〜3年目のこと。会社帰りに立ち寄った本屋で当時大ファンだったPerfumeが表紙の音楽雑誌を見て思わず声が出た。

「撮影、鈴木心!」

ネットの向こうで荒々しい実験写真をアップしていた若者が、スタジオで芸能人を撮るプロになっていた。

鈴木心さんが広告写真ではなく一般向けに写真館を開いたのは今から約1年前。そのことを知って以来、絶対にここで自分と妻を撮ってもらおうと決めていた。

2018年8月5日、娘が生まれる15日前。その日が来た。駆け込みセーフで妊婦姿の妻との写真を撮っていただいた。恥ずかしながらその時の模様は写真館のnoteに記されている。

翌2019年1月、生後4か月を過ぎて首の据わった娘を抱っこして、再び松陰神社前の写真館へ。

畳張りにリフォームされた写真館は以前よりもリラックスできる場になっていたが、家ではキャッキャと笑う0歳児は緊張したのか、警戒心まる出し。それでも心さんとお二人の女性スタッフが上手にほぐしてくれて、今年の家族写真ができた。とても気に入っている。

娘だけの1枚もお願いした。

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前日に爪で引っ掻いた目尻の傷も、右耳にできた乳児血管腫も写っている。

お願いはしなかったけど、耳の血管腫は避けることなく写してほしいと思っていたから、よかった。徐々に引いていくことを願って毎日シロップ薬を与えているものの、今はこれも君の個性。もし痕になって残っても気にするな。ほらこんなにかわいい。


自分が親として日常的に撮っている写真と何が違うのかと考えたとき、ある言葉を思い出す。

写真は家族のかたちを整える。

FUJIFILMのCMで、樹木希林さんが優しく語るセリフです。

自分や妻が撮る写真は、「家族のかたち」を残してはいるだろう。けれど、「整える」の気分は写真館の写真でこそ実感する。いつか娘が大人になったとき、まだ小さな彼女と、彼女を囲む僕らが揃って笑う写真を見てほしい。

写真は家族のかたちを整える。

写真館はアトラクションのようで面白い。こんな体験は他では得られない。それに僕は鈴木心さんのライティングが好きだ。

写真館があってよかった。
自分も、写真をやっててよかった。

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また家族で行きます。


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