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精米

穀潰しとして生きています。秋田の実家から送られてくる米を惰性で炊いて、納豆などと共に口に放り込んでテレビを見ているといい時間になってくるので、入浴をします。大体入浴の時間で寝る時間が決まってしまうため、そこはやや神経質に入浴時間を決定していて、何かの影響であらかじめ決めたはずの入浴時間をすぎると、それはそれは不愉快な気分がするのですが、そういった気分でも一度たりとも入浴をせずに眠りについたことはありません。部屋は一人で住むには十分すぎるほど広く、時々部屋をうろうろ歩き回ることができるほどで、壁も厚く隣人の生活音も全く気になりませんし、よく独り言や鼻歌を歌ってしまう自分の癖も問題ありません。仕送りも贅沢をしなければアルバイトをせずとも生きていけるほどもらっていて、時々足りなくなってしまうことがあるので、恐る恐る親に電話をかけると、その直後には不足分が振り込まれています。苦しい思いをして勉強し、なんとか入った大学には、行ったり行かなかったりしながら、いろいろな分野に触れてはいるのですが、自分の勉強したいこともあまり見えていませんし、その先の就職活動にも何一つとして想像できることがありません。将来性のない自分は、失うものがないほど身軽なわけでもなく、安泰な将来が見えているほどでもない半端者で、独自性を帯びそれを認められたいというプライドがありながら、惰性で生きてしまえるほど守られた生き方をして、駄文を書いては読んでもらって、自分の才能の開花を努力せずして待ち、ありふれた人間の一匹であることに目を背け続けているこの穀潰しの口に放り込まれる米の一粒一粒にとって、自分に食べられるなど本意ではないだろうから、自分はせめて一粒残さず奥歯や時に前歯を使って噛んであげていると、噛むたびに口の中から小さな悲鳴が聞こえるような気がするのですが、テレビの音量を大きくすると聞こえないような気もしますし、壁も厚いから、本当に、なんの問題もないのです。


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