合獣の森 1-5章

第1−5章:赤の瞳

エマとカイルはいつもの通り平穏に寝床に入っていた。何の変哲もないただの日々は突然警報が鳴ることで崩された。このアラームが示すところは一つしかなく、二人は顔が真っ青になりながら飛び起きた。

バトラは国家にとって重要な存在で、その場所は非常に厳重に管理されていた。その存在自体が極秘であり、たとえその存在を知ったとしても、場所も何重の方法で厳重に隠されており、誰かがその場所を探してたどり着くことはほとんど不可能だった。それでも万が一誰かが侵入してしまった場合に備えて、アラームが鳴るようにセキュリティが整えられていた。

二人は初めてそのアラームが鳴ったことにかなり動揺していたが、ひとまず落ち着きを払って何かの誤作動だと思いながら、確認しない訳にもいかず、合獣の居場所へと向かおうとしていた。そこにエマが慌てふためいた様子で、居間に入り込み、カイルに向かって叫んだ。

「カイル、ベッドにエマがいないわ。今までこんな時間にいなくなったことなんてないのに。」

カイルは動揺を隠さなかった。すでにエマは倒れそうなほど顔が白く痩せこけているように見えた。

「なんだって、もしかしてサナは一人でバトラのとこに向かったのか。」

家の中でサナをどんなに呼びかけても反応はなく疑いは深まるばかりだった。

「とりあえず、バトラのとこに行ってみるしかないだろう。」

カイルはエマを連れて、車に慌てながら入るとバトラのいる場所に全速力で向かった。外はまだ暗く、こんな時に限って風が吹き荒れ、雪が舞うことでほとんど視界を失っていたがそれでも前に進むしかなかった。

焦る気持ちと慎重に進まないとこちらが迷子になってしまうという恐怖の中で、サナの無事を確かめたいという一心で二人は進んでいた。心配も相まってまるで時の針が止まったかのように、1分1秒が永遠のように感じられた。こんなにも怖くて長い夜はエマは初めてだった。

(・・・お願い無事でいて)

結局、バトラの小屋まで辿り着いたのは夜が明けて、風もだいぶ落ち着いた頃だった。カイルは車から飛び降りるようにして降りると、走って小屋まで向かった。バトラの鳴き声は聞こえてきたので、ひとまず大きな事件がなさそうであることに胸をそっと撫でおろしたが、小さな足跡が小屋の回りに残っており、いよいよ少女の犯行は確定的になった。

小屋を隈なく探していると端の方に、小さな人影があった。

「・・・サナ!」

人影に向かうとそこにいたのはジュンだった。その影に潜むようにサナが横たわっていた。

「おい、2人とも大丈夫か。」

「自分もサナも大丈夫です。サナの方は、さっきまで起きていましたが疲れたのか今は気を失うように眠っています。」

ジュンは、振り向きながらカイルの目をじっと見ながら答えた。カイルは怒りや非難したい気持ちが込み上げてきたが、グッと堪えながらとにかく2人の様子を心配した。エマもカイルの声を聞いて、後から駆けつけて何事もなくてよかったと膝を折り泣き崩れた。

「色々聞かないといけないことはあるが、一度車に移ろう。こんな寒いところにいては話すべきことも話せない。サナを病院まで連れてから、色々話を聞こう。」

カイルはサナをその大きな背中に乗せ、車の方に向かった。ジュンはひどく怒られることを覚悟していたので表紙抜けするような気持ちだった。怒られた方がずっと楽なのにと思い、ひどく周りを心配させたことを悔やんだ。エマはそっとその小さな背中を撫でると、その背中は小さく震えて、いろんな思いが溢れたのか、上を向きながらひとしきりに泣いた。その間エマはずっと背中を撫でてそのエマを覆うようにカイルも腕を回してみんなで泣いた。

ジュンはなんで泣いているのかも分からなくなりいろんな気持ちが交錯しながら、ただただ空は青く澄み渡り、太陽に照らされる雪は一粒一粒が輝きを放ち、4人をどこまでも広く、優しく包んでいた。


病院に向かうまでの車では、すでにジュンの気持ちはだいぶ静まっていたが、エマの鼻をすする音だけが妙に響き、何か言葉を発するのを躊躇われる雰囲気が満ちていた。ジュンもいろんな出来事が一瞬の間に起きて、強い疲労感を感じていた。カイルたちが来てくれたことの安心感も相まって、後部座席でじっとしていううちに静かな眠りに襲われた。

目を覚ました時にはすでに病院に着いていて、車の中でエマも一緒に座って待っていた。エマは疲れた表情を見せていたが、それでも随分顔色が明るくなったようにみえた。

「あら、起きたの?もう少し眠っていてもよかったのに。あなたも随分疲れたでしょうに。」

「いえ、いつの間にか寝てしまっていて・・サナは大丈夫でしたか。」

「ええ、さっき目を覚まして元気そうだったわ。ただ、少し低体温症の症状が見られるから、用心して今晩は入院して明日退院になるとのことよ。」

ジュンはほっと一息をついた。大丈夫だとは思っていても、このままサナが起きなかったらと気が気でなかった。医者から大丈夫と言われるだけで、心がここまで軽くなることに若干の驚きを覚えた。外から差し込む光が赤く眩しかった。雲が太陽で真っ赤に染められ、すでに日暮れの時間になっていた。一日が一瞬で過ぎた気もするし、まだ夕方なのかとひどく長い気分にもさせられた。

少し時間が経ち頭が回り始めると、サナと自分の身に起きた様々な疑問が頭をよぎった。サナは明らかにバトラの元へ向かう途中、様子をおかしくしていた。今回のことは隠しようもなく、包み隠さず今回の出来事をエマにも伝えるべきだと思った。

「エマさん、今回のことをきちんとお話ししようと思います。」

ジュンは今回の経緯を話し始めた。バトラを探し始めた動機からどうやってその場所にたどり着いたのか事細かに話した。後部座席から聞こえてくる声にエマはただただ小さく頷きながら、時々声を漏らしながらも耳をじっと傾けていた。

「僕とサナがバトラの場所を探しに向かっている途中で、だんだんと様子がおかしくなっていました。瞳がちょうど今の空のように真っ赤に染まってきて、何かに誘われるかのように真っ直ぐとバトラのいる場所に向かっていました。」

エマはその言葉に驚きながらも、深呼吸をして丁寧に言葉を紡いだ。

「瞳を真っ赤にしたって?それはどういうこと?」

「分かりません、僕も走って追いかけるといつの間にかバトラの元まで辿り着いていました。あんなに何度も探したのに、とてもあっさりとその場所に辿り着いていました。そしてエマの行方を探すと、上の方向からバトラの鳴き声が聞こえて、空を見上げるとバトラと共にサナが空を飛んでいました。その瞳はまるで炎のように、その光が燃えているようでした。」

エマはその話を聞き、天地がひっくりかえるような気持ちがした。こんなことがあっていいはずはない。だけど、ジュンの話を信じるならばそれはあの話が本当にあったということなのだ。

「ジュンいいかい、その話は決して人に話してはいけないよ。それは非常に危険で許されない行為だからね。特にサナの瞳の話は私とジュンだけの秘密よ。」

もしかしたら、これは話すべきではなかったのかもしれないとジュンは思った。だけど、エマの言葉に今は縋るしかなかった。何かとても大きなものに触れて、ジュンの力ではどうすることもできなかった。こうするしかなかったと思いながら、サナがバトラに対してどんな特別な関係を持っているのか、そして彼女の瞳が真っ赤に輝いたその瞬間の意味について、謎が深まるばかりだった。


その晩、病院でサナがぐっすりと寝息を立てたのを確認してから、カイルとエマは家に帰りリビングで会話を交わしていた。エマはジュンから聞いた話を同じようにカイルにも伝えた。カイルもまたその出来事について衝撃を覚えていた。

「もし本当にサナの瞳が赤くなっていたとしたら・・・。これまでバトラが背中に人を乗せるなんて話聞いたことがある?それはおとぎ話だと思われていた大昔の話そのものよ。」

「赤い瞳を持つ一族か・・・。まさに伝説の世界だ。バトラを制し、世界を制したものたち。その機動力と戦い方で一時は世界の大陸のほとんどを制圧した。今は大陸の北に追いやられた私たちの祖先の話だな。」

「サナも赤い瞳を持っているわ。もしかしたら、これは世界にとっても大いな脅威になるかもしれない・・・。サナの瞳がどのような条件で発動するのか、何かしらの影響を与えているのかちゃんと把握しないといけないわ。」

カイルは掛けていた椅子に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。深く息を吸い、目の前の机に手を置いて少し前のめりになりながら話を続けた。

「明日、サナが退院したらこのことをきちんとサナとジュンにも話そう。彼らには酷かもしれないが、現実を理解し、どうすべきかを話し合わなければならない。もはや彼らの人生は彼らだけのものではなくなってしまったのだから。」


次の日サナは何事もなく退院し、ジュンも昼頃からサナの家に招集された。薄くかかった雲に太陽が差し込み、昨日と比べてずいぶんと暖かかった。薄手のジャケットがあれば十分なほどで、雪もだいぶ緩んでおり、このあたりでは珍しいほどの陽気だった。

サナとは昨日あっているはずなのにずいぶんと久しぶりに感じた。

「退院できて良かった。元気そうで何よりだよ」

ジュンはいつものようにサナに声をかけた。周りではカイルとエマが庭で机とイスを用意しており、サナの様子も普段通りに見えた。

「今日は珍しく暖かいから外でご飯を食べようって。」

「カイルさんがこの時間に家にいることって珍しいよね」

ジュンは少し心配そうな顔を浮かべながら尋ねた。

「今日はパパから大事な話があるらしい、昨日の今日だからね」

サナも少し俯きながら話した。体に異常はないとはいえ、昨日の出来事は少なからず彼女にとってもショックだったに違いなかった。

「昨日のことは思い出した?」

「いいえ、帰ってから改めてパパとママから経緯を聞いたけど、夢と現実がこんがらがってる感じなのよ。どこまでが私の身に起きたことなのか、夢の出来事なのか判別がつかない。むしら、夢で起きてたことが現実になっていた感じに近いかしら」

ジュンはそれはどんな感覚なんだろうと単純な疑問を覚えた。夢で起きたことが現実になってしまうのならどんなことでも起こりうるように思えた。

食事の準備を終えたようで遠くからカイルたちが呼ぶ声が聞こえてきた。サナとジュンも席につき、いつものように食事は進んだ。おそらくいつもの通りではなかったのだけれど、その場は誰もがいつもの日を演じながら、そういう願いを持ちながら食事をしていた。

ひとしきり食事を終えると、カイルが小さな咳払いをし、躊躇うように話題を切り出した。

「サナ、ジュン、二人には伝えなければならないことがある。本当は然るべきタイミングで伝えるべき話だが、君たちは少し知り過ぎてしまった。君たちにはまだ早いが、ここまできたら包み隠さず話をしようと思う。ただし、すでに手遅れではあるが、この話は一切他言無用で、特に話を聞いたらからにはジュンはバトラとの関わりを切れなくなる。君たちはまだ幼いから二人の選択の自由を奪ってしまうことは私たちにも心苦しいところがあるが、この話を聞いたらバトラと一緒に生きるか、一切の関わりを切るかどちらかをお願いしなければならない。」

サナもジュンも顔を見合わせながら小さく頷いた。

「秘密を知ろうとしたのは自分たちの方です。ぜひお話を聞かせてください」

カイルは肩を持ち上げながら深く息を吸い、少し話が長くなるだろうからと前置きをおき話を始めた。

「これは私たちが古くから守り続け一族に伝わってきた赤の瞳の伝説のことだ。その昔は人が今の10倍はいて、世界はずっと活気に溢れていた。」

サナは瞬きした。

「10倍?、昔はそんなに人がいたの?」

「そう、だけど人の活動は世界の環境への影響を無視していた。自然破壊や気候変動が進み、異常気象で農地は荒廃していった。人は食糧危機に陥いり、住む場所にも追われ、食糧や資源を求め各地で紛争が起こった。そんな中、食糧の生産を増やそうとあらゆるバイオテクノロジーが進化した。化学培養で肉を作ったり、より少ない餌で美味しくできる家畜を開発してきた。その一貫で生物と生物の遺伝子を組み合わせることができないかが模索された。そうして生まれたのが合獣だ。」

ジュンは、少しうつむき、顔を上げて言った。

「そんな、合獣は尊い生き物だって」

「その通りだわ。どんな生命も尊厳があり、大切な命だわ」

エマは苦々しい顔を浮かべながら付け足した。カイルは話を続けた。

「最初は純粋に飢餓を無くすための試みだった。しかし、トウヤ共和国の政府がその動きを逃さなかった。軍事目的でもこの技術が使えるのではないかと彼らは考えた。そして国は軍事的に使える合獣の開発に莫大な資金をつけた。研究はどんどん進み、最強の合獣を研究所が争うように開発した。そして最強の合獣が生まれた。それがバトラだ。

バトラは確かに最強だった。組織的にバトラを訓練し、その機動力と戦い方で一時は世界の大陸のほとんどを制圧した。当時でも戦車やロケットなど最新の兵器があったが対機械に対する攻撃としては最強だったが、そうした生き物に対する防衛戦を想定できていなかった。意表をつく攻撃にほとんどの国は蹂躙されていった。」

サナは俯いて、涙を堪えるのに必死だった。

「だったら、バトラは殺すために生まれてきたの?戦争のための道具なの?」

「生き物に生まれてくる目的も理由もないわ。バトラをそういう生き物にしてしまったのは、人間の傲慢よ。」

エマはサナの背中をそっと撫でながら語りかけた。ここからが大事になる、と言ってカイルはさらに話を続けた。

「それから他の国々もこぞって、バトラを研究したがうまくいかなかった。理由はいくつかあるが1つは、研究の期間を十分に取れなかったこと。トウヤ共和国は数十年という期間を費やしてきた実績があったが、とうてい他の国が数年で追いつける代物ではなかった。2つ目は赤の瞳が鍵を握っていた。」

「赤の瞳・・」

ジュンは固唾を飲んだ。

「言い伝えによると、リンド=クリミエルというカリスマ的なリーダーがいた。バトラに乗ることができただけでなく、戦術の天才だった。各国の隙に漬け込み、巧みにバトラを組織化して、次々に戦争に勝っていった。そしてリンドについてはもれなく、戦っていたのは決まって赤の瞳をもったものたちだった。それゆえ、彼らは赤の瞳の一族と呼ばれ、世界を恐怖に陥れたものとして歴史に刻まれた。世界に恐れられ、当時起こった戦争をまとめて、彼らを象徴して赤の悪夢と呼ばれている。」

「なんで・・どうして他の人はバトラを扱えないんでしょうか。」

ジュンは恐る恐る訳を尋ねた。

「その理由は未だに分かっていない、その理由を探すのも私とエマの大事な仕事の一つでもあるが、とにかく他の人間も乗ってみようと試みたが、言うことを聞かなかったり、振り落とされたり、場合によっては近づいて殺されたこともあったようだ。」

カイルは、ため息をついて机に頬杖をついて少し考えるようにしてからさらに話を続けた。

「そうやってトウヤ共和国は領土を広げていったが、そうやって統治していた時期はそんなに長くはなかった。これにもいくつか理由があるが、生命であるが故の理由だった。1つはバトラには生殖機能を有してなかったこと。バトラは戦うために作られ、育てられている、そういう生命の尊厳を奪われた生き物だった。だからこそ、量産ができず実行支配できるほどの戦力を維持できなかった。当時の統治者であったエ=マジュが急に領土を広げて統治できなかったというのもあるだろうが…
2つ目は熱帯の気候、生態に合わなかったことだ。暑い場所だとバトラの動きは鈍ってくる。そして決定的だったのは熱帯の病気に弱かったことだった。熱帯にいる細菌やウイルスにやられ、バタバタと死んでいった。赤の瞳の一族もトウヤ共和国の市民も感染症に巻き込まれていった。」

カイルは、少しの間をあけた。誰もが会話に釘をさすことができなかった。

「戦争と飢餓、そして感染症により世界の人口は数十年の間に一気に半減した。そして、治安の低下や経済の低迷もあり、少しずつ人口が減った。その間にトウヤ共和国は、少しずつ元の自分たちの北の国に追いやられていった。赤の瞳をもつものは戦争を引き起こした悪魔と称され、魔女狩りのように処され、一気に勢力を失った。

ただ、少なからず生き残りもいた。歴史を繋ぎ、血統をつなぎ、細々と生き延びてきた。血が混ざることにより、段々と赤の瞳を持つものも減っていったが、それでもバトラへの知識を持ち、二度とあのような戦争を行わないという誓いを立てた。エマの旧姓はエマ=クリミエル、サナ、君の祖先はリンド=クリミエル、赤の瞳の一族の生き残りなんだよ。」

カイルは話を終えると沈黙が広がった。雪の反射だけが眩しく光を照り返していた。サナの瞳は、黒くいつもよりもずっと曇って見えた。

「難しい話をしてしまったから今は分からないことが多いかもしれない。だけど私たちの祖先は、代々バトラを大切に守り抜いてきた。サナ、あなたはバトラとの特別な結びつきを持っている特別な存在なのよ。だけど、あなたはまだその力を制御できていない。だから、その力を適切に制御できるようにしなければならないわ。そして、ジュン、これまでのあなたの合獣への強い関心と献身を見てきたわ。あなたにはバトラのキーパーとしての役割を果たしてほしいのよ。そして、サナを支えてほしい。これはあなたたちに課せられた運命なのよ。」

エマは、ストレートに二人に投げかけた。ジュンは自身の中に戸惑いと興奮が渦巻くのを感じたが、サナの顔には不満の顔が滲んでいた。しばらく沈黙が続いたが、やがてジュンが口を開いた。

「ぼくは、ずっとバトラと関わりたいと思っていました。彼らの不思議な生き方や存在がずっと気掛かりでした。自分にぜひその役目を負わせてください。」

「私は嫌よ。願って特別になりたかった訳じゃないわ。バトラを訓練するなんて、なんで私がそんなことをしなくちゃいけないの?」

エマは穏やかな笑顔を浮かべながら続けた。

「サナ、あなたがバトラを扱えるようになることは、あなた自身にとっても大切なことよ。」

「でも、なんで私なの? 私ってば普通の人間じゃないの?」

カイルが口を挟むように言った。

「サナ、お前が普通でないのは分かっている。君の赤い瞳はそれを物語っている。君はこの家族にとって特別な存在で、それゆえに君には特別な役割がある。」

「でも、私、ただの女の子よ。なんでこんな責任を押し付けられなきゃいけないの?一族とか力とかそんなのは知らないわ。だいたいジュンもおかしいわ、なんでこんな重大なことにあっさりと答えるの、訳分かんないわ。もう少しちゃんと自分の人生のこと考えなさいよ」

サナは泣き叫ぶようにして、椅子から立ち上がった。

「今は受け入れられなくてもいい。ただ事実だけは理解してほしい。そして君が自分の力と役割をきちんと理解して前向きに捉えられるようになったら、その時は私たちに力を貸してほしい。」

サナは黙ったまま、家に向かい自分の部屋に篭った。残された3人も重たい雰囲気のまま、昼下がりの少しずつ冷えてくる空気を肌に感じながら、黙って片付けを始めた。ジュンは自分の周りに起こり始めている数奇な出来事に、戸惑いと不安を感じながら、この先のことを漠然と思い浮かべていた。

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