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『池袋かるまる』大都会を疾走するジェットコースター

訳あって、都内で一泊。
サウナ付きのビジネスホテルを検索しているうちに、あるグダイディアに辿り着いた。

「サウナそのものに泊まっちゃえばいいんじゃない?」

有名なサウナで、カプセルホテルを併設している施設も少なくない。

そんなわけで、今回選んだのは『池袋かるまる』。

池袋駅西口C6出口、地上に出ると、すぐ。池袋の喧騒を全てパスして入館できる。
エレベーターで6Fのフロントまで。

受付を済ませ、館内着を受け取ると、まずは宿泊者専用ロッカーで、着替え。その後、荷物を置きに、一度カプセルに向かった。
館内は、驚くほど静かだ。

カプセルホテルのお約束、おじさんの高いびきも聞こえない
室内も清潔で、カプセル特有の昭和感ゼロ


土曜日20時。
浴室は、さすがに混雑している。
最大キャパを誇る『岩サウナ 』ではロウリュサービスが行われており、入室制限が掛かっていた。
そのため、まずは、『ケロサウナ』へ。キャパは10名弱といった広さか。

入ってすぐにわかる。
いい酒場といいサウナには、快楽をもたらす微粒子が浮遊している。もちろん、それは目には見えないものだが、肌で、匂いで、最も敏感な粘膜で、その微粒子の有無を感じることができる。
この『ケロサウナ』に漂う微粒子の、なんとその密度の濃いことか!
ほの暗い室内に、微かにアロマの香り。目を閉じても、微粒子が不規則に舞う様を感じることができる。それは、僕の頭に、肩に、膝に降り積もり、気まぐれに再び舞い上がる。
妖精の存在、僕はそう呼ぶことにした。
サウナ好きには共通言語となっている「ケロ」、フィンランドの高級木材だ。樹齢数百年を超え、立ち枯れたパイン材で、柔らかい香りが特徴。このサウナの壁にはそのケロがふんだんに使われている。指でその凹凸をなぞると、サウナ室内を飛び回って遊ぶ、フィンランドの妖精たちが見える気がした。

その前を通った時に、たまたま先客が出て、順番待ちがいなかったことから入ることができた『蒸サウナ』。
贅沢に、そのキャパは1名限定だ。
浴室のど真ん中、ロケットに似た一風変わった風貌で鎮座するこのサウナ、その名の通りスチームサウナなのだが、他の温浴施設によくありがちな、箸休め的空間とは、完全に一線を画す。
下部から湧き上がる蒸気で、視界はゼロ。事前情報で50℃と表記されていたのを見て、完全に甘く見ていたが、蒸気は予想を遥かにこえて熱く、深呼吸すると、鼻の粘膜が懐かしい匂いに刺激される。
薬草だ。
ハーブではない。
和の国に古くより伝わりし薬草成分が充満している。それらは皮膚から肺から粘膜から吸収され、僕をゆっくりと癒していく。都会の中、全裸で完全に一人きりになれる公の空間だ。そんな場所は、きっと多くはない。僕はゆっくりと自分との会話を楽しんだ。

さて、水風呂だ。
この施設を、アミューズメントパークたらしめる張本人。
『サンダートルネード』。少年漫画の必殺技か?
冗談を言えるのも、入る前だけ。掛け水をしただけで、その冷たさに全ての毛穴が一斉に閉じる。意を決して、中へ。
水温は、7℃台を表示している。身体中に経験したことのない刺激が走る。なるほど、稲妻だ。浴槽内は強烈な水勢のジェットが効いていて、それがこの凶悪な冷たさを保持する。体のどの部分にも、羽衣を作ることなど許されない。20秒、いや15秒程度で、僕はその水風呂を飛び出した。

外気浴スペースに出る。椅子に腰掛け、濡れタオルで全身を拭く。
地上9階、向かいのビルの屋上ではフットサルをやっている様だ。若者たちの声が響く。はるか下、地上からも週末の池袋の喧騒が聞こえてくる。どこからか焼肉の匂いが微かに漂ってくる。
春と秋は、外気浴のトップシーズン。
ふと自分の体を見ると、全身に真っ赤なあまみが出ている。頭の中がぼーっとする。何かに似ている。経験したことのある感覚だ。普段とは違うこの「ぼーっと」の正体を突き止めようと、僕は朦朧とする頭で必死に思い出そうとしていた。

わかった。
絶叫マシンだ。
絶叫マシンに搭乗した後の感覚に似ている。重力に思い切り反することで得られる非日常感。血液までも逆流するような錯覚。
きっと『サンダートルネード』を浴びたせいだ。
間違いなく、今夜はよく眠れる、そう直感した。
富士急ハイランドへ行った日は、驚くほどよく眠れたことを覚えている。

都会のど真ん中で乗ることのできるジェットコースター。
心地良い刺激が、極上の流離(さすらい)を運んできた。





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