33度目のクリスマス。
2021年12月23日。
私は彼女とともに、とある戦場の前に立っていた。
仙台、名取の巨大イオンモール。
お互いのクリスマスプレゼントを買うためだ。
彼女の目的は、マジェステ。かんざしの様な髪留めだ。
私はほとんど物欲がないので「心を揺るがす何か」を探す。
長らく「欲しいものを買う」ことをしていないので、
かなりの気合いを持って臨んだ。
物欲とともに、自らの人間らしさを少しでも取り戻そうと思っていたのだ。
それから、4時間後。
歩けども歩けども、探し物は見つからない。
彼女の髪留めも、私の購買意欲を掻き立てる「何か」も。
2人とも「三十代前半」と、そろそろ言えなくなるお年頃。ヘトヘトだ。
私たちは欲しいものを見つけることはできなかった。
しかし、諦められなかった。
「ねえ、利府にもあるよ。新しいイオンモール」
私は名取にほど近い利府にも、イオンモールがあることを知っていた。
「よし、行こ」
彼女は、即答した。
体力ギリギリで車に駆け込む。
そのまま次の戦場へと向かう。
巨大なイオンモールを2件、ハシゴ。
久々のデートは体育会系よろしく、ハードなショッピングに変貌していく。
もはや半分、意地だったかもしれない。
車で40分。
次の戦場、利府のイオンモールに到着する。
デカい。想像以上だ。
とにかく、足だ。足を使え。
新人警察官のごとき足取りで、各店舗のガサ入れを行う。
二つの巨大ショッピングモール、合計およそ8時間。
私たちは、歩き続けた。歩き倒した。
彼女が欲しかった髪留めは、やはり見つからなかった。
そんな中、私は一つだけ気になるものを見つけていた。
某有名雑貨店で売られていた、「ニュートンのゆりかご」だ。
おそらく、あなたも目にしたことがあると思う。
5個の金属球が糸で吊るされ、横一列に並んでいる雑貨。
端の球を引っ張って離し、隣の球に当てる。
すると真ん中の3個の球を衝撃が伝わり、逆側の球が動く。
繰り返し「かち、かち、かち」と小気味いい音を奏でる代物。
私の心は不思議と、「それ」にとらわれた。
思い返せば私は、
子どもの頃からなぜか「勝手に動く無機物」が好きだった。
家にあったダンシングフラワーというおもちゃ、時計の秒針、砂時計、硬貨をパクッと飲み込む貯金箱。惑星、流星。
善も悪もない。物理法則に逆らうことなく、ただそこにあるが故に動き、然るべきところへ向かっていく。または淡々と、役割をこなす。
そんな物言わぬ姿勢、無骨さが好きなのかもしれない。
今はそんなものを眺める時間はあまりないけれど、
本当はいくらでも見ていられるし、可能なら一日中ずっとそうしたい。
そんな私の「幼き日の心」を不意に揺り起こした、ニュートンのゆりかご。
お値段、1,000円。文句なし。
私は、それを手に取った。呆れ顔の彼女を尻目に。
お世辞にも、出来がいいとは言えない。
動き続けるのは、よくて20秒ほど。
でも、いいんだ。
乾いた私の物欲を、「それ」はほどよく刺激した。
「かち、かち、かち」
家に帰って、しばらく眺めた後、私は。
ずっと気になっていた、「HHKB」を衝動的に注文した。
「HHKB」とは、多くのライターが憧れる、
新品で35,000円もするハイエンドなPC用キーボードだ。
新品を買うのは流石に気が引けたので、
19,000円の中古、分割払いを選択する。
私は「人間らしさ」をちょっとだけ、取り戻した気がする。
もうすぐ、新たな相棒がやってくる。
誰かが欲しがっていた髪留めと一緒に、私のところへ届けられるだろう。
私の「心」は、いま。
少しだけ踊っている。
かち、かち、かち。
金属球が奏でる、20秒足らずの小粋なビートに乗って。
これが私の、33回目のクリスマス。
あなたも良いクリスマスを過ごしたのであれば、なお幸いだ。
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