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コロナの前からマスクをしていた人の自由を奪うな

2024/04/12

世界中がマスクをする時代を見るとは思わなかった

新型コロナウイルスが流行し、一時的にマスクが買えなくなるなど、世界で異常なことが起こったのは2000年の2月くらいだった。
世界で最初のコロナ感染者は2019年の11月くらいに確認されていたはずだが、日本で確認されたのは年が明けてからだ。
2000年になる年末年始は、私は夫を置いて1人で帰省していた。
私たちの家には愛兎がいたため、留守番を頼んだのだ。
2人で一緒に帰省できることは数えるほどしかなかった。
その帰省中、私はずっと風邪を引いていた。
随分と咳き込んでいたけれど、コロナとは違うはずだ。

「東京に帰ったら、外出時は必ずマスクをするように。今中国でウイルスが流行ってて、いつこっちにくるかわからないし、旅行客も来てるからな。」
父にそう言われて私は夫の待つ東京へと戻った。
もともと中国を批判しがちな父が言うことなので、この時はそんなに重く考えていなかった。

でも、私はというと、コロナが流行るずっとずっと前から外では必ずマスクをする人間だった。
50枚入りの不織布マスクが380円で買えた時代、家に必ずストックを置いて、出社時には必ずつけていた。

私がマスクを愛する理由

私が必ず外でマスクをしていた理由は3つある。
1つ目は、電車やバスなどの密閉空間で、知らない人が近くにいる状況になったとき、他人が吐いた空気を自分が吸うと考えてしまって耐えられなくなること。
2つ目は、外の乾燥や寒さから喉を守りたかったこと。
3つ目は、ブスな口元を隠すためだ。

いつしか私は潔癖症に近い状態になった

他人が吐いた空気を吸わないなんていうことは不可能だ。
でも、同じ空間でマスクをせずに呼吸をすることは私にとってストレスになることが増え、マスクをするようになった。
電車やバスでは必ず寝てしまうので、よだれを垂らしてもごまかせるというのと、上を向いて寝ていて口が開いていても隠せるという2大特典がついている。
若い頃はマスクに小さな缶バッジをつけて、ファッションとしてつけていたこともある。

この頃は、マスクをつけていると必ずと言っていいほど「風邪? 予防?」と聞かれた。
「予防と防寒です」と毎回答えていた。

マスクをするだけで冬でも暖かい

防寒のためのマスクとして、冬場は特につけていた。
外でつけるのは季節を問わずだが、冬場は室内でも許される場所ではつけたまま仕事をしていた。
接客業の時にははずさなければいけないが、バックヤードで仕事をする時には必ずつけていた。

上司からは毎回毎回、飽きもせず
「風邪? 予防?」と聞かれる。
本当によく同じ会話をできるよな、と感心してしまうほどだ。
マスクをつけることはそんなに悪いことなのか。
風邪を引いて欠勤したら怒るくせに、予防のためにマスクをつけているといちいちうるさい。

唇のメイクは私にとって見世物だ

そして、私は口元がとてもブサイクだ。
それを隠すために、マスクはとてもいい仕事をする。
おまけに風邪や寒さからも守ってくれるし、本当に親友になれそうだ。

口元がブサイクなのは子どもの頃からだが、大人になるにつれてそれはもっと酷くなった。
タバコを吸っていたので歯だって子どもの頃から比べるととても汚いし、歯並びも最悪だ。
おまけに重度のガミースマイル。
これが私の人生の半分を占める悩み事だと言っても過言ではない。

ガミースマイルをからかわれるようになった小学校高学年から、私は人前で笑うのが嫌になった。
でもマスクをしていると、そんなことを気にせずに笑えるし、たこ焼きを食べた後に青のりを気にせずに笑えるのだ。
なんて優秀なんだろう。

私の場合、顎の噛み合わせも悪く、上顎が出ていて下顎が小さい。その上笑うと歯茎が見え、その見える幅が前歯よりも長くて歯茎の骨が目立つ(腫れているように見える)となると、日本で1番のガミースマイルの持ち主なんじゃないかとすら思う。
整形することも可能なのだが、軽度の人は切って縫うだけで終わる手術でも、私の場合は顎の骨を削る大手術になるため、人生においてその手術を受けることはしなかった。
切って縫うだけの整形は受けたいと思ったこともあったけれど、そんなお金が貯まらないまま東京を離れてしまったので、今後は一生治さないだろう。

唇をぷるぷるにするということは、そこに注目してほしいということだ。
私にとって口紅を塗るということは、罰ゲームみたいなものだった。
歯が出ているから、必ず歯が赤くなるし。

笑わなければ美人なのにな

中学生活の話を少々したいのだが、受験を控えた思春期の頃、好きな人ができた。
その人とは仲良くしていたつもりだった。
でも、仲良くしていたということはつまり、その人の前で笑っているということだ。

「お前、笑わなければ美人なのにな!」

ある日、私は片思いだった人にこう言われた。
もう立ち直れないくらいに凹んだ。

コロナ禍の学生は、マスクをつけて入学し、マスクをつけて卒業した学年もある。
修学旅行に行けなかった学年もある。
でも、私からすると、マスクをつけたまま入学して、お昼も黙食、誰と笑うこともなく食べ、誰かと話をするときはマスクをしていて、マスクをつけたまま卒業するという学年が、正直言って羨ましい。

SNSなんかで『マスク美人』と騒がれている人は、100%マスクを取っても美人だ。
私は、メイクをすれば目はわりと美人だ。
だから、私は日本一の口元ブスで日本一のマスク美人になれると思う。

「まだマスクつけてるの?」は口にする必要のない言葉

マスクの着用は自由となって結構経つ。
外を歩いている人、買い物をしている人などを見渡すと、田舎では半々くらいだ。
映像で見る都会は、マスクをつけていない人がほとんどで、それでいて人の数も多いので、画面越しに見ているだけで怖くなる。
コロナだけではなく、あの人たちと同じ空気を吸うことが怖いのだ。

私と夫は、未だに、ちょっと外に出るだけでも、人とすれ違わない散歩でも、マスクは二重だ。
そして、買い物に行けば買ってきたものをアルコールで全て拭いている。
誰が触ったかわからないし、店員さんは必ず触ってるし、売り場でくしゃみをした人がマスクをしていないことも考えられる。
くしゃみをする時にだけマスクを外す人っていたよね。
あれには殺意しかわかなかった。
神経質になりすぎと、よく言われるけれど、私たちはまだコロナにもなっていないし、風邪も引いていないし、インフルエンザにもなっていない。

病気を気にしてマスクをしているだけではなく、容姿を気にしてつけている人もいるということを忘れないでほしい。
容姿を気にして、マスクがあれば素直に笑える人に、
「あれ? まだマスクしてるの?」
なんて、絶対に言わないでほしいものだ。

私は死んだあと、棺の中でもマスクをつけてほしいと思う。

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