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漫画の講師業を引退しました【その3】


作った資料の一部(1年初期で使用/効果についてまとめたもの)

(※2)今までのアシスタント・漫画家生活で身に付けた経験を生かしてモトを取りたい

教えていた内容について(技術的な話)

 私が大学で教えていたのは、”今まで漫画を描いたことがありません”という人でも、前期の15コマ(1コマ90分)で8ページの漫画が描けるようになるまでの一通りのこと。
 原稿用紙の使い方から始まり、道具の種類や使い方、手書き効果、トーン処理・パース・コマ割り・ネーム(ストーリー)の作り方・ペン入れ~仕上げ…みたいな内容です。
まるっきり0からのスタートの人もいれば、すでにプロ並みに上手い人もいたので、どのレベルに合わせて授業を進めていけばいいかというのは毎回悩みどころで、一度たりとも同じレベル設定ということはありませんでした。

アシスタント時代~漫画家デビューするまで

 漫画家として漫画の描き方を教える…ことをやってましたが、全て独学と経験で学んだものでした。
私は美術系の専門学校にも美大にも行っておらず、高校は普通の進学校(部活は文学部という名の漫研と、フォークソング部の幽霊部員)。

そのあと簿記専門学校に1年通って、東京の(株)加藤製作所というクレーンやショベルカーを作る会社に2年2か月、正社員として勤務してました。

 初投稿は高3のとき。
「花とゆめ」という少女誌のビッグチャレンジ賞に投稿してボツったものの、デビューは絶対に大好きな花とゆめでするんだ! とあきらめず、専門学校に通いバイトをしながら投稿を続けました。
花とゆめの月例賞への3回目の投稿でAクラス賞というのを獲り、それがきっかけで地元の漫画家・Y先生のアシスタントを、会社に勤めながらやり始めました。

 会社に勤めながらのアシスタントというのは月に2回、金曜の夜から日曜の夜までアシの仕事を泊まり込みでやって帰宅、月曜からはまた会社…という、今となっては信じられないくらい体力があったためできた事ですね。そのY先生の仕事場では原稿の消しゴムかけ・ベタ(黒く塗る作業)・トーン貼り(削りは別の人)を担当してました。
他の技術的なものは別の仕事場で、そこの先生や先輩アシスタントさんに教わったり描かされたりで習得したという感じです。

 さらに当時、受賞作がきっかけで花とゆめ本誌の読者ページ「花とむし(略して”花むし”)」というコーナーのお仕事もしてました。
「いさっぺ」というキャラでイラスト描きを、仕事が終わってからとか会社の昼休みの時間とかに描いてました。
トータルで5年間コーナーを担当してましたが、歴代の花むしイラスト担当では最長だと思います。読者ページを担当するのは新人編集者さんの役目? で5年の間に3人変わりましたが、今では皆さん編集長になられてます。

 会社を辞めてからはアシスタントの仕事と、デビューを目指してのネーム作り・漫画描きをしてました。
そして約2年後、ビッグチャレンジ賞に佳作入選。その次に掲載された作品で、晴れて漫画家デビューとなりました。

パースを教える事をしてた私がパースの基本を学んだのは、実は中3の美術の授業だけ

 背景を描くときに必須のパースペクティブ(=パース/遠近法)に1点/2点/3点透視図法というのがあります。これがわかってないと異空間になってしまうので、たとえ背景の素材集を使う時でも、消失点や目線を合わせる必要があります。

作った資料の一部(1年初期で使用/パースについてまとめたもの)

 目線~消失点を決めるとどんな立体でも描けると知ったときは、世界がパーッと広がったような気持ちになったものです。
 その少し前に教科書として買ったのがコチラ。漫画の勉強をしたのは、400円(税なし)足らずのこの1冊だけでした。

©小学館 1982

 あとは自分の漫画でどしどし描いて試したり、アシ先で勉強させていただいた…という感じです。

 背景力はHら先生のところで鍛えていただきました(Hら先生、その節は大変お世話になりました)。この現場で教わった、人に合わせたパースも含め、ペンタッチやトーン使いで立体感を出す…など、漫画の作画に必要だと思ったこと・やってきたことを、課題という形で教えていました。

コマ割りとかキャラの見せ方とか

 教えていてよく言われたのが「コマ割りの仕方がわからない」でした。右綴じと左綴じでは違うところがありますが(※)、入れる情報・見開きで考えてコマにメリハリをつける・キャラのアップやロング・カメラの位置やズームを変える…などは共通です。
それを資料で渡したり板書+解説で伝えますが、自分で描くとなると「?」となってしまう学生が多いようでした。

右綴じ:日本の漫画雑誌やコミックスはコレ。セリフは縦書き。目線の誘導は「逆Z」のような動線
左綴じ:カタログやアメコミなどはコレ。セリフは横書き。目線の誘導は「Z」のような動線

 なので「自分がカッコいい、上手いと思う作家さんの漫画をコマ割りとかを意識して見直してみて。できるなら枠線の太さや幅、ペンタッチから仕上げまで真似して描いてみるといいよ」と言ってましたが、やってくれた子はいるのかなあ?
「これは自分で描いたオリジナルです!」と発表しなければ問題はなく、真似してたくさん描く。とにかく、人も背景も漫画もたくさん描く。それが一番の上達方法で近道です。

ストーリー作りは…

 基本的に「自分が描きたい、面白いと思うもの、燃える/萌えるものを描く」…ですが、花とゆめ時代の私はそれで大失敗してました。
描きたいものと求められるものがズレていたのです。
デビュー当時(バブル全盛期)の花とゆめは、それでも少女漫画誌としては多岐にわたるジャンルが掲載されていましたが、私は少年漫画色が強かったのでした。

 なので大学でも「描きたいものを持つことは大事だけど、その時のその雑誌に合ってるか考えないといけない」と力説してました。例えばUFOが出てくる話を描きたいと思っても、幼年誌・少女誌・少年誌・女性誌・青年誌では描きかたや扱いかたが違うよね? と。さらに時代(話題)性とか、同ジャンルのものが載ってないかとか。

 要するに「自分が描きたいもの」と「いま描けるもの」と「自分に向いてるもの」は違うのです。

 それが一致してる人もいるけど、そうじゃない人が多いから気を付けてね! というのは、講師1年目からずっと力説してきました。私は「花とゆめ(少女漫画)」で5年頑張りましたが、トータルで描けたのは174ページ。しかし「silky(女性誌・私が描いてたのはドキュメンタリーもの)」では2年で約2000ページ、でしたので。

 持ち込みをした学生が「キャラ設定が甘いと言われた」と話してくれたことがありましたが、これは私も言われた経験があり。性格や設定を作りこむことも有効ですが、大学にゲスト講師に来てくださったS大先生が「自分はキャラに宿題を与える。こういう時にこいつならどうするか、どう動くか…みたいな」と話され、目から鱗が落ちました。

 ストーリー作りも結局のところ、たくさん作ってダメ出しされて、どこがダメだったか自分で気付かないと上達しないのです。持ち込みをした学生が編集さんに「次に来るときまでに、3行でわかるプロット(※)を30本作ってきて」と言われたこともあったとか。
私はネーム会議に落ちまくってましたが折れずに何とか生き残ってるのは、
子供のころに味わった理不尽感や不条理感などで育った、打たれ強い性格のお陰なのでしょう。あの過去がここで役立って良かった。

※プロット:話作りをする時の、エピソードの柱部分。これを元に細かいストーリーを考えていきます。

教えていた内容について(精神的な話)

漫画が好きだ! 死ぬまで漫画を描き続けたい! そういう人間はそのために何をすべきか、何を頑張るか…と、全身で伝えきたつもりです。
伝わっていたかなあ?

…と、過去からの諸々を授業に生かしてきました。
金銭面で定収入(←これ大事)は本当に助かりましたし、いろいろな経験もできたし人間関係でもたくさんの出会いがあって、この学校での出来事は私の人生の宝になってます。
今までの人生のアレコレについて、バッチリ元を取った感じですw

あの世にお金は持って行けないけど、人とのご縁や経験値は持っていける気がする…ので、私はいつかあっちの世界に行くとき、お金持ち…じゃなくご縁持ちで、高い経験値を纏ってホクホクしながら歩いて行けることでしょう。


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