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【書評】ブレグジットが起きた理由とは?「どこかに続く道―英国政治を形作る新種族」

ブレグジットが起きた理由とは、いったい何なのかを知りたくて、読んだ本「どこかに続く道――英国政治を形作る新種族」(The Road to Somewhere: The New Tribes Shaping British Politics)。

日本語訳の本が出ていると思って調べたのですが、残念ながらまだないんですね。

この本を読もうと思った理由は、この本で解説されているエ二ウェア族とサムウェア族がブレグジットがなぜ起きたのかという理由と、世界の政治そして経済の現状をかなり的確に表しているからなのです。

実際読んでみると確かに、少なくともコロナ前までの世界は、少数のエ二ウェア族、そして多数のサムウェア族に完全に二極化していたということが分かりました。

というわけで、その二極化とはいったいどういうことなのかを、下のポイントに沿って書いてみることにしました。

  1. エ二ウェア族とサムウェア族

  2. グローバリズムとナショナリズム

  3. 短期的営利主義と外国資本

エ二ウェア族、サムウェア族とは

この本の主役たちが、エ二ウェア族とサムウェア族ですね。

著者の著者の造語ですが、この二つのグループがどんな人種化を的確に表しています。

エ二ウェア族とは

エ二ウェア族とはどういう人たちかというと、お金持ちの家庭に生まれ一流の教育環境で育ち、通常生まれたところに戻ることはない人たち

エ二ウェア族は右にも左にも存在していて、左のエ二ウェア族は医療関係者や教育関係者に多く環境保護意識が高い場合が多いですね。

支持政党は立憲民主党、つまり旧社会党系を思想を支持する層に多いと考えられます。

反対に、右のエ二ウェア族は金融や管理職、士業などが多く、支持政党は自民党や日本維新の会の支持者が多いと考えられます。

つまり大きなくくりで言うと、小さな政府を目指す新自由主義者といっていいですね。

世界中のどこへ行っても、高収入で働くことができる人たちなので一つの地域に愛着を感じることなく、目的のために居場所をどこにでも変えることができる人たちといってもいいでしょう。

基本的にエ二ウェア族は地方にはあまりいなくて、日本では東京や大阪、名古屋などの大都市圏。

海外の場合、ロンドンやニューヨークなどに住んでいることが多いようです。

エ二ウェア族の世界観は、国境や各種の規制に縛られた社会の変革を望む、いわゆるグローバルな社会を推進するため活動します。

また国家や共同体への帰属意識は希薄で、自己責任と自己実現、つまり誰にも束縛されない個人として生きていると信じているようです。

サムウェア族とは

反対にサムウェア族は、ごく普通または貧しい家庭の出身が多く、大卒または高卒で就職し地元のごく一般的な仕事に就く人たちが多いようです。

サムウェア族を受け止める政党が日本に育っていないのが現状ですが、左の場合、れいわ新選組。右の場合国民民主や自民党内の反新自由主義の政治家を支持している場合が多いと思います。

収入的にもア二ウェア族とは比べることはできず、いわゆる1% と99%のうちの99%に属する人たちですね。

人数的にはエ二ウェア族より格段に多いのですが、政治的な発言力はエ二ウェア族に比べて格段に小さいですね。

サムウェア族の年齢は、通常エ二ウェア族より高め、保守的で現状維持を好み、急激な改革はなるべく避ける傾向にあり国や家族など各種共同体への帰属意識が強いのが特徴です。

グローバリズムとサムウェア族、エ二ウェア族

エ二ウェア族とサムウェア族を理解するために必要なのが、グローバリズムとの関係性の理解ですね。

グローバリズムが本格的に広まったのは1980年代で、1990年代からリーマンショックのころまでが、グローバリズムの最盛期といってもいいでしょう。

そしてリーマンショックによる世界的な金融不安の増加、そしてブレクジットとトランプ政権の誕生によって世界的にグローバリズムの雰囲気がかなり変わってきたのは事実です。

グローバリズムのトリニティ

グローバリゼーションによって、世界中の人々が自由に行き来することができるようになり、世界的な協調の雰囲気から、将来的に世界が一つになるという幻想を多くの人々が抱いたでしょう。

しかしそのような幻想の裏側で起きていたことは、緊縮財政であり、それを根拠にした規制緩和であり、それに基づいた自由貿易です。

これによって何が起きたかというと、価格競争という名のもとに貧しい国が豊かな国に安いものや労働者を送り込こむ、それによって豊かな国の豊かな人たち(エ二ウェア族)と貧困国は豊になっていく。

底辺に追い込まれる中間層

しかし、規制緩和と自由貿易の名の下に低賃金で雇える貧しい国の労働者たちが豊かな国の人々の仕事を奪うことで、豊かな国で労働者の低価格競争が起こる。

そして豊かな国の普通の人たち、つまりサムウェア族が貧困に直面していくことになるのです。

下の表はエレファントカーブと言われるものですが、この事実を見事に表していますね。

出典:The elephant curve of global inequality and growth

つまりグローバリセーションによってトップ1% の収入が27% 増え、新興国といわれる貧しい国々の人たちのうちの50%が収入増加。

しかし、アメリカやヨーロッパのにいる90%の中流層の収入は、思いっきり押し下げられていますね。

つまり、ブレグジットを選択し、トランプ政権を選択したのは不満を抱えるサムウェア族だったということになります。

つまり、すでに豊かなア二ウェア族や海外の誰かよりも、国は自分の面倒を見てくれという意思表示であり、それがいわゆるナショナリズム(国民意識)への回帰が起きたというわけですね。

短期的営利主義と外国資本

このような、ア二ウェア族が持つビジネス価値観のベースになっているものが、短期的営利主義と外国資本の組み合わせです。

何が起きたかというと、前節のエレファントカーブから見て取れるように、新興国から安い商品と労働者を流入させることによって、国内の中間層(サムウェア族)の収入を叩く。

労働者の賃金抑制は1%のエ二ウェア族が短期的に利益を大幅に上げるための最も簡単な方法であり、会社の業績が上がることで株価が上がり株主であるア二ウェア族はさらに豊かになる。

例を挙げるなら、カルロス・ゴーンが日産に対して行ったコストカッティング経営と全く同じですね。

現在株価に大きな影響を与えているのが、外国資本です。

コストカットや株価上昇によって得られた資金は、株価の下落を恐れるあまり、設備投資や人材育成に回されることなく外国資本の株主に配当されてしまう。

つまり国民の収入は全く上がらず、サムウェア族とエ二ウェア族の貧富の差が加速していう悪循環を引き起こしているのです。

このようなことが、イギリスやアメリカ、ヨーロッパそして日本でも行われているわけです。

政治とエ二ウェア族、サムウェア族

こように、1%のエ二ウェア族ための政治が行われる理由は、政治家自身もエ二ウェア族だからです。

ほんの少し前まで、政治家は市井との感覚を共有していました。

学歴はなくとも、人々との価値観を共有できたことでそれに沿った政策を打ち出すことができていたのです。

いい例が田中角栄でしょうね。

中学校にもいっていない田中が進めた、日本列島改造論によって整備されたインフラにより日本は発展を遂げました。

しかし、地盤と看板を受け継いだ2世議員は市井と解離していき、逆に新自由主義との親和性を高めていったのが現状です。

まとめ

エ二ウェア族とサムウェア族という概念を理解することで、経済が見えてくるのですがこの事実をどう生かすかは、読者次第ということでですね。

欧米諸国と比べて、日本でのエ二ウェア族とサムウェア族の二極化は大きく進んでいるようです。

そしてこの二極化が、最終的には国民経済の破壊につながるということを知ることで、日本がもう少し豊かで幸せな国になることができるのではないでしょうか。

この「どこかに続く道――英国政治を形作る新種族」(The Road to Somewhere: The New Tribes Shaping British Politics)という本、基本的にブレグジットがどのような人人によって起きたのかについて考察したものです。

しかし、その内容は現代の日本が参考にすることができる事象が、数多く取り上げられている本でもあるので、日本語への翻訳が出版されるのが待ち遠しいですね。


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