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ビリーアイリッシュ新作•Happier Than Ever 全曲Review (後編)


さて、後半です。
全16曲の前半8曲がおわりました。
レコード盤なら裏面(B面)があらたにはじまる仕切り直しの9曲目。

9. Not My Responsibility

でビリーは、ポエトリーリーディング(詩の朗読)をブッ込んできます。

ここでどうしても思い起こされるのが、The1975の4thアルバム『Notes On A Conditional Form』での一曲目。
グレタトゥンベリさん(環境活動家)による衝撃の長尺朗読ではじまったあの曲のことです。
ビリーがあの曲からイマジネーションを得たことは自分のなかではほぼ確定的ですが、真偽のほどは分からない。
ただ詩の朗読、あえてコトバをメロディに乗せず、淡々と伝えていく手法は、ときにメロディに乗せて歌う事よりも雄弁に、また直截的にリスナーにそのメッセージをとどけられる。
ビリーが一つのトライアルとして、そういった手法に可能性を見出したのは驚くに値せず、もっともな手段のように思えるのです。

10. Over Heated

少しもの哀しいビートとバックトラックにのせて、ビリーのささやくような歌声。
Over Heated(加熱)ときいて連想するのは、地球環境🌏のこと、あと感情のこと。
対人で感情が高ぶれば争いとなり果ては戦争。
環境破壊も戦争もやがては人間を滅亡させてもおかしくないリスク因子となりえる。

日本のアニメ〝デスノート〟イラストのニットですね🇯🇵。また日本にも来てください!


11. Everybody Dies

『みんな死ぬ』

Not My ResponsibilityやOverHeatedから連なるメッセージが含まれているように感じる。
前作では『あなたがいっそゲイだったらよかったのに』とか『(ムカつく)友達を埋める』と、あくまで自分の身の回りに起こる人間関係からくるプレッシャーや抑圧を、若者が日々、ブチ当たる日常の軋轢をうたうことで自分と同じようなティーンエイジャーたちの熱烈な共感を得たけど、もはやビリーの表現はそこにとどまらない。

トランプ大統領の就任や施策に公然と反対意見を述べたり。
若者たちに熱烈に祭り上げられた(あえてそう表現します)あと、むしろ同じ場所にとどまっていては

真のアーティスト

には成れない。

真の表現者

には成れない。

と感じたであろうことは想像に難くない。

歌うことの中身が変わってきてもおかしくない過渡期にあると感じます。

ただビリーの老練なところは、ひとりひとりが日常生活の対人の中でブチ当たる困難にこそ

社会の問題がひそんでる

と思わせるところ。そのあたりを嫌みなく上手に表現してくれるアーティストだとかんじます。

歌のタイトルに含まれる〝Dies〟にちなむと、今回のアルバムには映画007の主題歌として書かれグラミー受賞作ともなった〝No Time To Die〟や、おなじくグラミー受賞作の〝everything i wanted〟は収録されていません。
今回この文章を書くにあたり改めてこの2曲をきいてみても、今回のアルバムに収録されたとしても全く〝違和〟の無いように聴こえましたが、アルバム全体の流れや作者たちにしか分からぬ微妙な機微により外されたのでしょう。グラミー受賞曲をアルバムに組み込み、

アルバムに箔をつける


といった大人が考えそうな打算とは
この二人は対局にいるんだということが良くわかります。


12. Your Power

ここからの4曲は、プロモーションビデオが公開されていますので、その内容もふまえて。
まだPVみてないのに!という方は【ネタバレ】を含みますので、見てから読んでいただけたら!


PVはやはり楽曲の世界観を分かりやすく可視化してくれてるって意味でファンにとっては伝えたいメッセージを探る〝ヒント〟になりますね。
(別にクイズなわけではないですが笑)

Your Powerでは、(おそらくドローンで撮られたものと思われますが)、断崖の上で歌うビリーを映し出します。シンプルな曲調もあいまって非常に寂寥感のただよう作りになっていて。
前作の『You Should See Me In A Crown』では蜘蛛がでてきたりあえて露悪的でグロテスクな表現をいとわず攻めてきてましたが、Your Powerでも巨大なある動物がビリーにまとわりついてきて、曲中で表現される抑圧や、どうにもならなさ、みたいなのをうまく表現していると思います。


13. NDA

(wiki)
『秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement)とは、各種取引の前提として、取引当事者間で開示される情報及びその過程で当事者が知り得た情報の第三者への開示や漏えい等がなされないように締結されるものです。』

こちらもPVから世界観を読みときます。
深夜の片側一車線の幹線道路、どまんなかをヨロヨロと所在なさげに歩くビリー。そこに、ヘッドライトを煌々と灯した幾台もの車がビリーを前から後ろから追い抜いてゆきます。ついには道路に倒れ込みながらも歌うビリー。スクランブル走行の車たちがグルグルグルグル、ビリーの周りを暴走し。。。


明らかに不穏です。

不穏をあおるような作りです。




ワンカットで撮影されたPVですが不安をかきたてられますね!(正直、何度も見たいPVではないです笑)

アルバムは、この曲を皮切りにクライマックスへと雪崩こんでゆきます。曲は、シームレスな感じで次の曲へと繋がり。。。


14. Therefore I Am

フランスの有名な哲学者、デカルトの『我思うゆえに我あり(I Think ,Therefore I Am)』からとったとおぼしきタイトル。

サウンドメイクは前作の曲群を踏襲する、

悪夢系


とも呼べるビリーの真骨頂なサウンドになっています。

この曲もライブでめちゃくちゃ映えそうですね?


アルバムのリード曲としての存在感をいかんなく放ってきます。

この曲のPVは大好きです👍


深夜の誰もいないショッピングモール。
一人そこに忍びこんだビリーがモール内を徘徊します。

笑顔で。


曲調の不穏さと、この笑顔のギャップよ。

誰もいないフードコートのドーナツ屋のドーナツを盗み喰いしてはまた

笑顔。


たぶんこのPVに意味なんか何もないです。

ただ、カッコいい。

ただただスタイリッシュです。


PVの最後、

『Directed by Billie Eilish』


と出てきて、その才能の多才さにおそれおののくばかりで。。

ビリーよ
その才能のゆくえはどこへ向かう、、

という感じで、、、

(まぁ音楽に向かうのですが)w


15. Happier Than Ever


アルバムのタイトルトラックです。
この前の2曲で昂った感情を冷ますかのように、しっとりとしたギターと歌だけの入り。

ところが曲は中盤からとんでもない盛り上がりをみせます。


これぞタイトルトラック


エレキギターすらも聴こえる。。

ライブのクライマックスにめちゃくちゃ
映えそうや!


いや、たぶん、泣く!


そんな曲です。

PVも素晴らしいです。

ビリーがHappier Than Everって言うとき

今までで一番しあわせ、と言うとき

どれだけのファンがそれを額面どおりに受け取るでしょうか?

そうは言っても本当はどうなの?


と逆説的に捉える。
捉えられてしまう。

それこそがこのタイトルに込められた魔法であり、ビリーのこれまでしてきたこと、アーティストパワーを物語ります。

今のモードはどうなんだろう?


ファンは知りたい。


今回のアルバムジャケットもそうです。


泣いている。


これが嬉し涙なのか哀し涙なのか?

いかように捉えることができる


ダブルミーニング

それこそがビリーの表現の真芯であり

聴いた人が、それぞれの好きに
楽しめばいいんだよ?

ビリーに、そう言われているような気がします。


戦争を描くから、平和が際立つ
安寧を描くから、混沌が際立つ
激しさを描くから、安らぎが際立つ


前作を超えた、とか、自分はぜったいに易々いいたくはないのです。


そのコトバはあまりに軽いから、、

16. Male Fantasy
でしっとりとアルバムは幕をおろす。

いかように聴かれることも許容する余白をのこして。

P.S.)
ビリーのインスタグラム。
表紙の写真のごとく仲間たちとプールで楽しむ写真が公開され現実のビリーはどこまでもHappier Than Everそうでなによりです。🤗

年内6本。
来年(2022)はアルバムを携えてのUS+UKツアーも発表となりました。


待っています。



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