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オーガニック食品は、本当に健康のためになるのか?「非有機食品を食べる」という選択

本レポートでは、消費者の目線から、食品、特に肉を選ぶ際どのような基準を設けるべきかを考察する。


有機食品の定義とは?

健康に良い食品として、まっさきにイメージされるのは「有機食品」である。しかし、『科学が暴く「食べてはいけない」の嘘』という本には、そうした有機食品に対する全面的な信頼を疑問視する記述がある。

まず、アメリカにおける「有機食品」の定義は複雑であることが述べられる。

アメリカ農務省のサイトによると、例えば有機農産物は、植えつけの3年以上前から化学合成された殺虫剤や除草剤を使用していないことや、化学肥料でないもの、もしくは許可された化学肥料のみを使用する必要がある。

家畜には、三世代前から有機飼料のみを与えなければならない。飼料の30%は牧草である必要があり、栄養補助食品や病気の治療も許可された物質しか使うことができない、などといったことが書かれている。

実際にサイトを確認してみたが、数えきれないほどの項目が細かく列挙されていた。(『eCFR :: 7 CFR Part 205 Subpart A -- Definitions』https://goo.gl/W6XhSO)

しかし、現在は有機食品と呼ばれている食べ物にも非有機原材料が使われている場合がある。さらに、有機食品は立派なビジネスとなっており、ゼネラル・ミルズやケロッグ社といった大企業が生産に関与している。

つまり、「小さな畑で農家が愛情を持って無農薬で育てている」といったよくある有機作物へのイメージは、実態と大きくかけ離れているのだ。

それだけでなく、有機食品はそうでない食品と比べて、値段が高い。特に有機牛乳は72%、有機卵は82%ほど非有機のものに比べて値段が高い。

現在は値段の差が縮まっているそうだが、それでも有機食品が非有機食品に比べて高い、という事実に変わりはないだろう。

しかし、有機食品が非有機食品より優れているという科学的根拠はほとんどない。2012年の『アナルズ・オブ・インターナル・メディシン』誌に発表された研究では、有機食品とそうでない食品を比較した全ての研究を対象に、システマティックレビューを行っている。

この研究では、栄養面、汚染物質の含有量の両方で意味のある違いは見いだされなかった。

残留殺虫剤が有機食品には少ない、もしくは全くないというデータもあったが、非有機食品も安全性が認められている上限値を下回っているので、臨床的な違いはほとんどない。

言うまでもなく、これらは書籍(『科学が暴く「食べてはいけない」の嘘』)からの孫引きである。(https://ic4opyed2XthiUsaKrtic8le.com)

ただし、著者は有機認証のメリットとして、有機的に飼育される家畜の飼料に抗生物質が含まれていないことは評価している。なぜなら抗生物質を使うことは、薬剤耐性菌の発生を助長することになるからだ。

しかし、抗生物質そのものを摂取することの危険性については、特に述べられていなかった。

非有機食品を食べても、健康に影響はない

著者の結論としては、そこまで有機食品にこだわる必要はない、ということである。

有機食品は、味の面ではとても優れているが、健康面においては必ずしもそうではない。多くの人にとって、有機食品は贅沢品であり、非有機食品はそうした人たちにとって天の恵みである。

これは全体を通じて述べられていることだが、どんなものも撮り過ぎなければほとんど害はない。

著者の結論を私なりに解釈すると、非有機食品を敵視する必要はなく、摂取する全てのものを有機食品にする必要もない。しかし、加工された食品を摂りすぎると、身体に悪影響が出る可能性は高くなる。

有機か非有機かにこだわる前に、まずは果物や野菜をしっかりと摂取することの方が、健康にとって重要だと、筆者は考えているのではないだろうか。

味に関して言えば、有機食品は非有機食品に比べて圧倒的に優れているが、それは必ずしも有機食品のみを摂取するべきということを意味しない。あくまでも、有機食品は必需品ではなく贅沢品に位置付けられるのだろう。

「A5ランク」に隠された罠

ここからは、牛肉に絞って論を進めていく。『炎の牛肉教室』という本がある。この本を読んで最初に衝撃を受けたのは、「A5という格付けは、美味しさの評価ではない!」という記述だ。

著者のまとめによれば、A5というのは「肉がたくさんとれて、かつ霜降り度合いが最高レベルに高い」牛を指すそうだ。

霜降り度合いが高いというのは、簡単にいうと脂肪量が多いということである。A5の肉はなんと50%が脂肪でできており、ここまでくると、サシの多さはそのまま美味しさにはつながらない。

というのも、こうした格付けは「輸入肉から産業を守ろうとして誕生した」という背景があり、赤身の多い外国産の牛肉と差別化するために、サシの多さを追求するようになったからだ。

さらに、A5ランクの牛肉を作るためには、「ビタミンコントロール」という手法によって、ビタミン欠乏を引き起こし、サシが多く入るようにする必要がある。

ビタミン欠乏が一定以上になると、目が見えなくなったりさまざまな病気にかかりやすくなったりするため、アニマルウェルフェアの観点から考えるとあまり望ましくない。

日本で飼育されている肉牛は、そのほとんどが牛舎で育てられている。その理由は、運動させると餌のカロリーを消費してしまうことや、そもそも放牧するだけの十分な土地がないからだ。

良い牛肉を選ぶには?

そうした日本の牛肉産業の事情に触れたあと、著者はスーパーマーケットで比較的美味しい牛肉を選ぶ方法として、「個体識別番号を検索する」という方法を紹介する。

個体識別番号というのは、牛肉のパックなどに必ず書かれている、10桁の番号のことだ。スーパーに並ぶ全ての牛肉は、こうした10桁の番号で管理されている。

個体識別番号を専用のサイトで検索することで、目の前の牛肉の品質を、一部分ではあるが知ることができる。

例えば、メス牛は去勢牛に比べて、肉質がきめ細かく、味わい深い。24か月の牛より、27か月で屠畜された牛の方が良い。こうした見た目では分かりづらい違いも、個体識別番号を検索すれば調べることができる。

他にも、「上物屋」と呼ばれる、高級レストランなどに牛肉を卸している肉屋を訪れる、という方法も紹介されている。

多少値段は張るものの、肉の特性に合わせて最適な熟成を施し、食べごろを見極めて店頭に並べられているので、その価値は十分にあるといえる。

ただし、ここでは味についてしか言及されていないため、健康面については確かなことはいえない。とはいえ、スーパーで適当に肉を選ぶよりかは、良い選択であると言えるだろう。

外国産の牛肉も食べて良い

この本では、外国産の牛肉に対する記述もある。Amazonに買収された「ホールフーズ・マーケット」というオーガニック専門のスーパーは、独自のアニマルウェルフェア基準を設定している。

トウモロコシを与えて育てられたUSビーフは入荷せず、牧草を食べ、牛舎ではなく放牧によって育てられた牛を販売しているのだ。

著者の知り合いである、アメリカ在住の日本人コーディネーターは、

「ホールフーズの肉は売れています。こっちでは、まだ幼い女の子に初潮が来たとか、男の子なのに胸が膨らんできたとかいうニュースがたまにあるんですよ。それが肥育ホルモンに関係しているんじゃないかと考える人は、ホールフーズに来て肉を買うわけです」

と述べていた。これは、先に述べた有機食品に対する間違った認識の良い例である。

この本ではUSビーフだけでなく、オージービーフについても言及されている。オーストラリアでは、標準的な肉牛の飼育方法として、グラスフェッドとグレインフェッドの2種類がある。

しかし、グレインフェッドと言っても、日本やアメリカと違い基本的にまず草を食べさせてから、最終段階で穀物飼料を食べさせるというやり方である。

オージービーフはピンからキリまであり、価格の安いオージービーフは美味しくない場合もあるが、品質の高いものは味も優れている。

筆者が地元の有名なレストランで、グラスフェッドの肉を食べたときの感想が書かれているのだが、

「よく牛肉の業界で言われるグラス臭が一切なく、段違いに豊かな風味に良い香りがあり、食感も軟らかかった」

と言っている。

国産神話に惑わされるな

牛肉の興味深くて有益な情報だけでなく、この本からは「普段食べているものについて知ることの大切さ」を学ぶことができる。

一見良さそうに見える「A5」や「国産」といった表示は、信用度を示すものではない。そうした表面上の情報に捉われず、品種や飼育方法などに目を向けることの大切さを、この本は伝えている。

そして嬉しいことに、良し悪しを判断するための材料は、この本を読むことで得ることができる。

未来の牛肉の姿とは?

最後に、本題からは少し離れるが、「未来の牛肉の姿」について書かれた面白いSF小説があったので、その紹介をしたいと思う。

それは、柞刈湯葉の『まず牛を球とします。』という小説である。本作は短編集なのだが、今回紹介する作品はそのまま表題となっている。

前半部分だけではあるが、簡単なストーリーの概要を紹介しよう。物語の舞台は未来の世界で、遺伝子操作や培養技術の発達により、牛は直径20cmほどの「牛球」と呼ばれる球形の物体に変化している。

牛球の見た目は、生物というよりかは、培養液に浮かぶ丸い肉の塊である。ちょうど、チキンジョージが生まれた培養鶏肉の製造工場をイメージすると良いだろう。

そこではもはや、牛に対する倫理的配慮が求められることはない。せいぜい、仏教徒が「殺す数を減らすため、牛をもっと大きくするべきだ」と文句を言うぐらいだ(しかし、出荷の手間などを考えると20cmが適切な大きさである)。

牛球は大豆をベースに作られているため、子どもたちの中には牛という大豆の種類があると思っている者もいる。主人公はこの工場で、一般の人に向けた見学イベントの広報員(解説係)として働いている。

個人的に面白いと思った部分は、この世界では四角の牛肉が、「希少部位」として通常の肉より高く売られていることだ。球形の牛の中で、長方形の形をしている部分は量としては少ないからである。

しかし、主人公も言っているように、外側の肉と内側の肉に、質的な差はない。

「なるほど「希少部位」だが、もし本当に外肉と内肉の成分に違いがあるのなら、全体が内肉になるような生産設備を作って回せばいい。その程度の技術なら世の中にあるし、骨つき(リブ)や内臓(モツ)、舌(タン)のようなマニアックな肉はそうやって地方の小工場で生産されている。」

さらに、牛球は研究室や工場で作られているので、感染症の心配はない。

そのため、抗生物質を与える必要もない。もしこのような世界が訪れれば、今までに考えてきた有機や非有機、国産や外国産、A5などの格付けも意味を為さなくなるだろう。

現実の世界は、小説のように上手くいくことはないかもしれないが、遺伝子技術の発達によって、多くの人が安価で健康的かつ、味の良い肉を食べられるようになれば、それはとても素晴らしいことではないだろうか。

もしかすると牛球は、廃絶主義を守りつつ肉を食べることを可能にするための、最高の解決策なのかもしれない。

参考文献
アーロン・キャロル(2020) (寺町朋子訳)『科学が暴く「食べてはいけない」の嘘』、白揚社
山本謙治(2017)『炎の牛肉教室』、講談社
柞刈湯葉(2022)『まず牛を球とします。』、河出書房

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