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パセリ、燃ゆ

引っ越した。
住みたい街で、日当たりのいい、そしてキッチンのひろい部屋へ。

引っ越しから数週間経ち、ある程度部屋の中の段ボールも片付いた頃。

私はsoup stockの冷凍の美味しいスープミールセットを頂き、「さつまいものポタージュ」なるいかにも秋らしい美味しそうなスープを湯煎した。

それをふるさと納税で昨年購入した器に移し、うんうん、美味しそうと思いながら、お皿一面に広がる黄金色に何か一石を投じたくなった。

いや、味はもうsoup stockが保証してくれているので、視覚的にも満足度をただあげたかっただけだ。そう、「パセリ」だ。

私は旧居から、確実にエスビーの袋に入ったタイプのパセリを、切り口を大事にセロテープで留めて新居へ持ってきていたはずだった。
はずだったのだが、どこを探しても見つからない。
引っ越しあるあるなのだろうが、物の住所が定まっていない、住所不定くんがやたら多いのだ。

そうして、やむなくパセリというアクセサリー(というか1石)を投じることなく、ただただ甘くて美味しい黄金色のスープを楽しんだ。

悲劇は、裏から、ひっそりと始まる。

陽が落ちあたりが暗くなってきたころ、私はさあ夕飯を作ろうかと立ち上がった。
冷蔵庫にある材料から「ほうれん草 豚肉」とYouTubeで検索し、いつもお世話になっているリュウジのバズレシピを流して、材料を切り始める。
無事ほうれん草を切り、豚肉を下味をつけて、さあ、引っ越しで手に入れた2口ガスコンロ(そう、旧居はIH1口だった)の出番だと、フライパンを置き、勢いよく、ガスコンロを点火した。

パチッパチッパチッッ。

ん、、、なんか変だな。燃え方がいつもと違う、、?
(人は、時として違和感というものには妙に敏感だ。)

少し強火すぎたかな。。弱火にしよう。
(人は、時として都合の良いように考える天才だ。)

だが、つまみを弱火にしても、一向に火は消えない。
しまいには、消火しても、火は消えない。いやむしろ、強くなっている。。

まてまてまて、、、んなんだあこれは、、、!

焦る私は、急ぎフライパンをガスコンロからどかす。

すると、、、燃えているではないか、、パセリが!!!
(いや、正確にはパセリの入ったエスビーの袋がもえているのだが)

なんでここで再会やねん!なんで黄金色のスープやなくて、ガスコンロに彩加えてんねん!!と1通りだけ頭の中で物事のアイロニーさにツッコミをいれ、早急に火事場の馬鹿力を発揮した。

燃えさかるパセリ(のはいった袋)を、素手で、キャッチし、とらえ、シンクへポイ。
それでも火は消えず、水をかけ、ガスコンロのほうには息を吹きかける。

終始、「やべえ、やべえ」と言っていた気がする。

本当に、情けないほど焦っていた。

入居して2週間程度で全焼か?
おいおい、こないだガス点検で火災報知器おすすめされたけど断っちまったよ、、報知してえよなどとよくわからないことがいろいろと走馬灯のように駆け巡り、私はとにかく必死でパセリ(の入った袋)の消化活動にあたり続けた。

そして火は、およそ1分後には消し止められるわけだが、
私はこの1分間の家事場の火事をあとに、キッチンで1人脚をガクガク震えさせていた。恐怖や死すら身近に感じた。

いい加減にしてくれ。。こんなんで死にとうない、、
整理整頓できてないから、フライパンの裏にパセリの袋が紛れ込んでたりするんだよ、、

くそ、パセリめ、いつもいつもほろ苦いアクセントをありがとうよ。

とりあえず、私はこの火事場の馬鹿力を発揮してアドレナリンが切れた頃、パセリ救出時に知らず犠牲にしていた左の人差し指を猛烈に火傷していることを後から知り、なるほど、なんとも人生というものは皮肉じみている、と悟りながら、保冷剤による人差し指の消火活動が始まった。



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