エンタメ業界はなぜネット配信にシフトしないの?馬鹿なの?という誤解について5/9
ガッツリ無料配信が増えたり、Youtubeでのライブ配信なんかも増えている昨今。その模様を見て、窮状を訴える業界人のツイートに対して「ライブできないライブできないって、ネット配信を知らないんですか? 工夫が足りません。有体に言ってバカなんですか?」みたいなツイートをしている無邪気な方が一定数いらっしゃいますよね。
本気でそんな局所的な自助努力で業界が持つと思っているのかはよく分かりませんし、個人が努力したら業界の未来は明るい的な朱子学を信奉されているのか、業界と個人の区別がつかないのか謎のままにしておきますが、今日は、「配信増やしたら業界が持ち直すという考えは現状では無茶ですよ」というのを簡単に書いていこうかと思う。とりあえず音楽業界を例にして。
そもそも配信に負けてライブに力を入れざるを得なかった音楽業界
このnoteは毎回30分で書くというのを自分に課しているので、グラフなんかをきれいに加工するのはやめ、キッチリと年次を区切って比較するのはやめます。雰囲気で話を聞いてください(予防線)。が、CDをはじめとする音楽パッケージ商品の売り上げのピークは、1998年の6040億円。それが2019年では2000億円を下回ろうかという下降幅を見せている。実に20年で1/3の市場規模に……! 若年層のケータイ代にまるっと可分所得を吸い取られた格好。
じゃあ、音楽配信はというと、大きく言うと音楽CD販売の穴はとても埋め切れていない。もうちょい細かく言うと、携帯着メロや、楽曲ダウンロード販売が2000年代後半からのびて、現在Spotifyなどのスマホでのストリーミング配信にとってかわられているわけだけど、国内のストリーミング配信の経済規模は伸長中とは言え絶好調時の携帯着メロなどのダウンロードの販売額にも届いてない(もちろん近年では売上額で逆転はしているが)。で、どっちも合わせた経済規模はというと、2018年で645億円。
巷に流れる音楽を耳にする機会はそう減っていないのに落ちるお金は6000億円程度から、2600億円程度へと大幅に下降している。「ストリーミングでいいので僕たちの音楽を聴いてほしい」的なことを言って物議をかもしたりするアーティストの言葉もむべなるかな。「時代の潮流」のことばで4000億円分の売り上げが650億円に下がってるんだから。
じゃあ売り上げが下がってる分はどうすんのよってことで、ここ15年くらいで頑張ってるのがライブ。1990年代とかだと、ドリカムやユーミンなんかのライブは、やるたびに赤字というのを公言し、応援してくれているファンへのサービスと誇っていて、「ライブは儲からないもの」が共通認識だったと記憶している。まあ、パッケージと違い、アーティスト本人がいる半径数百メートル内しかお金にならないんだから、それはそうですよねえという感じ。
その“儲からない”ライブのステージ設営を切り詰め、本数を増やし、大規模なステージ効果を液晶パネルに置き換え、物販のラインナップを増やし、握手をして、チェキ撮ってとメイドのごとき努力で売り上げを支えていたのが昨今のライブ市場。1998年では公演数9500、入場者数1430万人、年間売上高710億円だったのが、2018年では公演数31482、入場者数4862万人、年間売上額3448億円までもってきたってのが実際のところ(ここ参照・とはいえ、この数字は音楽市場だけのものではないので結構割り引いて考える必要あり)。20年で公演数3倍以上、1公演当たり売り上げも7000円から11000円程度まで上げてるんだから大したもんだよなあ。
で、新型コロナの登場で、次の手は……ええと
ライブ市場の活況! CDというモノ消費からライブ体験というコト消費へ! という勇ましい言葉とは裏腹に、「テレビの向こうのロックスター」が「超多忙なドサ周り演歌歌手」へと、ビジネス実態を変えていったのがこの15-20年の音楽業界の歴史だった。そこで、この新型コロナでの公演のあいつぐ中止の嵐、いつからこれまでのような興行ができるかは誰にもわからない……。となると、2019年度のライブ売上3448億円と同等の金額の入金が見込めなくなり、中止にまつわる各業者への補償や支払いを合わせると、普通の年から比べると、4000億? 5000億?だかの痛手を受けることになる。その痛手を受け止めるのはCD販売と、ストリーミング販売を合わせても2600億円しかない市場だ!
コロナヤバい。年収250万円の人がいきなり年収125万円に下がったらビビるし、さらに、50万円の支払いを求められたらヤバいっしょ。コロナはそれくらい平気。しかもこのあと何年それが続くかわからない。コロナヤバい。そして、コロナは自分のせいじゃないしって窮状を訴えたら、ライブ以外にねぇのか能無し! Youtube見たことある? とか ファンなのにがっかりしました! とか言われる。地獄っぽくていいよね。ストリーミング配信先輩には10年前ボコられました! ともいえずに、家のパソコンから弾き語りすることになるね。ロックスターからドサ周り演歌歌手を経て、デジタルストリートミュージシャン投げ銭上等へ……。ほかの業態もそうだけど、デジタルが発展するとともに、ビジネスモデルがどんどんプリミティブになっていってますね。
現状、ライブを奪われた音楽業界に次の手は……ある? 自分は思いつかないっす。ファンクラブを強化して毎週メルマガ書いてオンラインサロンやる?
ああ、もうすぐ45分以上経つのでこの辺で。数字の妥当性は、それぞれの心の中に聞いてみてください。それかググって。
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