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2001年まだアイドルが握手するのが珍しかった時のお話と、ゆうたろうが本物の漢だったことの記憶5/4

吉田豪×掟ポルシェのモーヲタ対談に便乗してちょろっとモーヲタ時代の記憶を棚卸したところ、まんまと、ごほん、望外の好評だったために本日も当時の思い出を掲載しようと思う。伝説の2001年24時間テレビ愛は地球を救うの握手リレー伝説だ! 君はごっちんと握手できたか!

■2001年8月 『24時間テレビ 愛は地球を救う』において企画された「目指せ10万人!握手リレー」

 『ASAYAN』での“5万枚デビューCD手売り”の印象が強いためか、モーニング娘。が握手会商法を始めたと思われることが多いが、じつはモーニング娘。は握手会の機会はAKB48などが登場するまでほぼなく、モーニング娘。オタク(モーヲタ)の中では、5万枚手売りに行ったかどうかは、アドバンテージを握るさいに大きなトピックだった。彼女たちはステージ上の手の届かない存在、テレビの中だけの偶像だった。だからこそ、突発的に行わる握手会はモーヲタたちからしたら、まさに一大ハプニング。神秘体験と言っても過言ではない、大事件であった。

 2001年の24時間テレビは8月18日、19日の2日間に渡って放送され、メインパーソナリティにモーニング娘。、えなりかずき、今田耕治を迎え、研ナオコがマラソンランナーとして選ばれた。日本テレビに協賛する各地の企業やショップには募金箱が設置。本部の日本武道館では、「目指せ10万人!握手リレー」と題し、武道館のステージを横切る形で長テーブルと募金箱を置いて、募金をしてくれた人に芸能人たちが握手をするという企画が行われた。当然、モーオタたちの関心は、モーニング娘。がその握手リレーに参加するのかしないのかということだった。こんな企画モノの握手リレーに参加するのだろうか? いや、でもメインパーソナリティだしもしや?……そんな議論がモーニング娘。のファンサイトや2ちゃんねるといったネット上で吹き荒れた。そして、18日の「握手リレー」開始時間である18時30分に事件は起きた。なんとモーニング娘。が握手をしている姿がテレビで放映されたのである。この情報は一気にモーオタのネットワークを駆け巡り、続々と握手を求めるオタクたちが武道館に集結。あっという間に皇居内堀に沿って長蛇の列が形成された。

 後藤真希オタクのNもそんな情報を聞きつけて並びに来た一人だった。「あこがれのごっちんと話すことが出来る!」期待を胸に、募金箱が置かれている長テーブルの前にやってくると、後藤真希はおろかモーニング娘。のメンバーは一人もいなかった。それどころか普通の芸能人すらおらず、そこに立っていたのはそっくり芸人たち。長渕剛のそっくり芸人のミニミニ長渕、石原裕次郎そっくり芸人のゆうたろうなどといった面々。彼らはモノマネをしながらコミカルに握手をしてくれたが、もはやNにはそれを笑う気力もなかった。

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絶望感は半端なかった。半泣きになりながら武道館を後にしたNだったが、聞けば明日もこの「握手リレー」は行われるという。Nは次の日、朝から並ぶことを決意した。

 次の日、まだ早い時間ということもあって、1時間かそこらで武道館内に入ることが出来た。しかし、募金レーンに到着すると、またもやそっくり芸人たちばかり。「やはりモーニング娘。と握手なんてできないんじゃないのか?テレビで放送されたのはあくまでヤラセじゃないのか」そんな悲観が込み上げてきたが、なんとレーン後方には紅一点、安達祐実がいた。そっくり芸人だけではない、普通の芸能人も「握手リレー」に参加していたのだ。「まだ今日は長い。何度か並べばいつかごっちんがいるはず!」希望を胸に抱き、出口から出ると再び外の列に並び直した。時間は9時半を経過。徐々に列が伸びてきた。並んでいる途中で、石川梨華と握手出来たというオタたちが武道館横手の出口からとろけた表情をしながら出てきた。Nはモーニング娘。と握手できたオタがいることに励まされながらも、同時に並んだタイミングをミスったことを後悔した。2時間半ほどで武道館内に着く。1を迎えたのは相変わらずそっくり芸人たちだった。ゆうたろうが石原裕次郎の渋い声マネをしながら「ありがとう」と握手をしてきた。

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 3時間後、待機列もぐんぐんと伸び、最後尾は内堀通りから竹橋駅付近を過ぎた辺りになっていた。小さい女の子が父親に「辻ちゃん加護ちゃんに早く会いたい」と無邪気に話し、父親も「もう少しで会えるよ」とニコニコと返していた。「かわいそうに……」Nは素直にその子供に同情した。案の定、今回も募金レーンには偽ダウンタウンや偽古畑任三郎たちが雁首揃えていた。「このまま、握手できないまま武道館をグルグル回り続けるのか」焦っているのは回りのオタクたちも同様で、並びながらラジオを片手にテレビの放送を聴き、中の状況を探る者や、電話をかけてテレビの放送がどうなっているか聞く者たちが続出した。

 また3時間後。Nは列をわざとゆっくり進んだり、時には早く動いたりと調節しながら歩いた。武道館内には16時に着いたが、それでもやはり握手をしていたのはそっくり芸人たち。偽浜ちゃんやミニミニ長渕が、へろへろになりながらオタと握手をしていた。なのに、彼らと握手をして喜ぶ者などほぼ皆無なのだ。その時、連絡を取っていたオタクが、モーニング娘。はずっとステージにいて、もう募金スペースには戻らないと報告してきた。「もう、モーニング娘。と握手は出来ない」

 それでも、募金箱の前に行くと他のそっくり芸人たちが軒並みダウンしていく中、ゆうたろうは悠然と立っていた。しかし、差し出されたゆうたろうの手を見ると、今までの握手で手がパンパンに腫れ上がっていた。

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 Nは言った。「今日はお疲れ様でした!」するとゆうたろうは「君も一日お疲れ」と苦味走った笑顔で答えた。もちろんNだけではない。この時間帯にはゆうたろう他、そっくり芸人に敬意をはらうオタが続出。テレビでは決して映らない美しい共闘関係が、オタクとそっくり芸人の間に生まれていたのであった。どちらもいる必要も、並ぶ必要もなかったとは言ってはいけない。

あ、俺はその時、モーニング娘。メンバーにすでに市井紗耶香はいなかったので握手に全く興味を示さず、しかも別冊宝島の「モーニング娘。バイブル」という狂った書籍に大学卒業してライターもほぼ素人だったのに、気が付いたら1/4ほど執筆させられたり、ビバ彦先生が適当に小見出しだけ作った原稿を埋めて先生の名義になったり、そのことに疑問を感じなかったりしており、多忙を極めていました。

しかし、校了の日が、その武道館握手会にドンかぶりで、武道館近くの公園で最後の原稿が入ったUSBメモリを受け取るためにオタ友だち連中と待機。握手会をグルグル回るオタと情報交換しながら、USBメモリを持ってふらふらと駆け込んできた先輩ライターの姿をみんな手拍子でサライを歌いながら迎え入れたのでした。あれは、なんていうか、モーヲタの熱い、、、ええとなんだろう、時代、そう時代だった……。



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