世界にただ一緒にいる彼(7)
まさみは静が舞台の事で相談したいから、劇場に来てと電話で話した。まさみの幼稚園から通う、エスカレーター式の教育機関は学内の施設は充実していて、24時間食事や睡眠、買い物と構内で楽しむ事ができた。社会とは独立して経営されている、不夜城である。3年生になると就職活動も始まるので、まさみも自由な学生生活をenjoy出来るのも、今年で最後だなと思った。新卒で自由が効く仕事で経営について学びたいという気持ちがあったのだ。航と聡一も今年で最後となる学祭で舞台を公演するつもりでいたが、リーダーのまさみがいつものやる気を見せないので消化不良気味であった。いつもは聡一の本が仕上がると、まさみが演出のアイデアを提案していくのだけど、静には難しかった。そこで静がまさみに舞台の様子を見て欲しかったのである。3人が所属する演劇サークルは先輩には芸能界で活躍している人や劇団四季で俳優をしている人も輩出している有名な部活で、部長をしている経営学部の猿渡教授も中学時代からのまさみの活動を見ていて、サークルを引っ張ってくれるのではないかと期待していた。
ちなみに3人は猿渡先生の研究室で商業捕鯨のレポート制作にも追われていた。猿渡教授が下関出身で、先祖も下関で鯨の運搬船の仕事から始めて、国民食の文化を守ろうとする運動の理事を勤めていた。先生も国際的世論の哺乳類を守ろうとする運動にも理解を示しつつ、これからの商業捕鯨のあり方の議論を進めていた。まさみが興味を持つ点は、昔から決まっていて、自分たちの想いを実現する為にはどこで民意を騙すのか、お金儲けは結局取引であって善人ぶっていては何も実現できないと分かっていた。これはまさみが幼稚園の頃から航と聡一と実践してきた事であり、猿渡教授が国に捕鯨枠の事でどう折衝するのかを見守っていた。
しかし、まさみの頭の中にある事は学祭や商業捕鯨の事ではなくて、昨日銭湯で告られた立花の事であった。まさみは静に彼氏が出来たんだよねと話した。静はどんな人よ、いつの間にそんな話ひとつもなかったじゃないと答える。まさみは彼が自撮りした写真を静に見せると、何歳ぐらいの人に見える?、本人は45才というんだけど、この写真自体が数年前のものってゆうのよ、確かに私が見るとこの写真より少し老けている気もするのよ。はっきりしなくて、もしかしたら50代?やばっと思うの。静は年齢はともかく、優しそうな人ね、良かったじゃない、彼氏が出来ておめでとう。仕事は何をしているのと尋ねると大工をしているのと話した。静はちゃんと働いている人、良かったじゃない、まさみの黒歴史凄いからなと答えた。まさみも静が立花と私についてあれこれ聞くので、つい長話をしてしまった。立花の仕事は早く、8時には事務所に入り、夏時間だと18時半まで働く、今日もコンビニで話す約束をしていた。まさみはスマホに入る立花の仕事終わりのメールを気にしていたのである。航が心配して声をかけてくれた、まさみも嬉しかったが、本音を言えば少しウザいなという気持ちもあった。航の女性関係は紳士的で、幼稚園の頃からタレント活動をしていたのでファンサービスの様な所があって、航の高校の頃からのまさみに対する煮え切らない態度にイライラしていたのだ。しかし、航や聡一の事は幼馴染としてすきであり、いい関係を維持して大切にしたいのである。
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