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パンダのぬいぐるみ(6)

 普天間飛行場では、地域住民との親睦会が毎年開催される。飛行機のコクピットに実際に乗れたり、楽団の演奏が行われる。地域の小学生も招待される、妹の学校では基地の皆さんに演劇を観てもらおうと半年前からこの日に合わせて準備をしてきた。妹も時々自宅で、本読みをしていたので、僕も何となく内容を理解していた。アメリカ人の転入生が学校に入学して来て、沖縄の観光地を案内する。例えば国際通り、沖縄の原宿と言われ食べ物からファッション、お笑いと何でも楽しむ事が出来る。転入生は仲良くなった同級生を誕生日会に招待する、妹は同級生の役で転入生の絵を描いてプレゼントする。実際に妹は、絵を描くのが好きで今回の演劇の為に友人の自宅を訪れて作品を書いている。今回の演劇の脚本は学校の先生が書いているのだけれど、アメリカ人の転入生は日本人の小学校で学んでみたいと言う学生の為に本当に本の内容を招待した事があるのだ。交換留学とまではいかないけど、アメリカ人と日本人の小学生を互いに招待しあっているのだ。

 転入生は、「今回の演劇を成功させようね」と妹に言う。

 妹は、「私、絵を描くの好きなんだ、だから舞台の為だけじゃないよ」と答えた。

 「本当に、私の事書いてくれるのね、有難う」

 「彼女に抱いて貰いたいものがあるんだ」

 「何?」

 「パンダのぬいぐるみ」

 「どうして」

 那覇市の動物園に初めて、パンダが来る事になったんだ、先日、お兄ちゃんと動物園に見に行ったんだけど、本当に可愛くて、平和のシンボルみたいに観れたんだ。だから、その時に購入したぬいぐるみも転入生と一緒に描きたくて。

 転入生は、「私もパンダ好きよ。」

 妹が、「見た事ある?」

 「本物は見た事ないんだ」と答えた。

 実際に演劇の中で、転入生に妹が描いた絵が渡されると、舞台を見に来ていた基地の親御さんの間でもとても素敵な自画像ですねと話題になった。演劇が行われたと紹介する地元TV局のニュースの中でも、転入生が絵を持って登場したので、妹の作品は小学生の交換招待の象徴的な扱いを受けるようになる。元々、交換招待は県の事業であったので、地域の教育と基地の課題が上手く関係性を築ける事を目標にしていた。そこで持ち上がった企画が、普天間飛行場の移設に伴い、今までの交流に感謝を込めて、アメリカの学生と日本の学生が共同でアートを作ろうと言う話であった。


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