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[SS]居場所

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誰にも言わなかったのだけど、母と私の間に秘密がある。母がまだ意識がある病室で、2人きりになった時に、母がぼそっと私に自由になりたいわと呟いた。母の亡き骸を、故郷の海にまいて欲しいの。私は女性の夢で、凄く母らしいと思ったわ。母の納骨も無事に終わったので、母の願いを叶えたいと思うの。

書道学習は、母に穏やかな心の在り方を教えてくれた。仕事が忙しく、勉強がしたくても出来なかった母は、砂が水を吸収する様にかんぽう先生の教えを学んだ。私の部屋にも母の直筆の書が掛けてある。そこには、花は他人の心を光で満たし、書は自分の心を森に育てると書いてある。母の好きな言葉である。

母が天国に旅立ち、息子も就職して自律した。母と一緒に生きてきた、私の感情が辿り着く場所は心の休息でした。私は、仕事をセーブして、母の身の回りの整理をしました。母の大事な私物を、大切な友人に譲る事が出来て安心したよ。母が熱中した趣味に書道がある。60才の手習いに学習塾で始めました。

私は家族が明るい未来を迎える為に目標を立てた。クラスメイトを笑顔にして、他人を幸せにする・人生を楽しむ為に、舞台に出演してタレントになる・自分の世界を持つ為に好きな子に告白する。今振り返ると、あの時から母との人生が始まったのである。母と対話しながら、毎日の計画を立てて努力したよ。

社会は景気が悪く、不況の為、父は転職の勉強をする事は出来なかった。父の希望は叶わないけれど、週末に時間を見つけては独学で学習する様になった。リビングには父の本棚ができて、父の尊敬する本達で一杯になった。本の中には父の理想になる世の中が表現されていた。父が見ている世界は正義でした。

家での母は、父の後を半歩下がってついて歩く人であった。私には、いつも優しい母、私をいつも応援してくれた。中学校の時に、半グレになって校則を守らなかった。両親は、学校に呼ばれて迷惑を掛けた。父は、一方的に怒ったけど、母は私の話を聴いてくれた。学校はタレント活動を認めてくれなかった。

私の頭の中に、母の厳しい仕事ぶりが記憶にあって、いつもファンの期待に応える事を考えている。母は周囲を常に満足させながら、高い評価を望んでいた。他人の想いを察する様な、手の切れる所があって、何歩も先を歩んでいる感じを受けていた。私は母を尊敬していたし、ずっと敵わないライバルだった。

母の49日、法要が菩提寺で開かれる、親族だけが集まり、皆んなで昼食を食べた。母の兄妹が、私の息子が父の夢であった法律家を目指している事を母が喜んでいたと話す。母は、祖父が0→1の仕事をしていた事を誇りに思っていて、大変さを肌で感じていたよ。孫が、自分の仕事を起こす所を見たかった。

私は、他人の前でダンスをしたり、歌ったりする事が好きで、性格も明るく、じめッと沈黙する事はなく、社交的な父と似ていた。とてもおっちょこちょいで忘れ物をするなど、ぼーっとしている一面もある。先日の授業参観でも、1人だけ宿題を忘れて発表出来なかった。両親に酷く怒られて涙が止まらない。

父と母は仲が良いです、記念日には、いつも仕事で忙しい父が早く家に帰宅する姿がありました。私が、父がよれよれの字で愛してますと書いた便箋を母に届けると、母もお慕い申していますと返事を書いた手紙を父に贈った。私はきゃっきゃっと胸を踊らせたことを覚えている。授業参観にも必ず夫婦で来た。

母は高校を出てすぐに父と一緒になった、翌年には私が生まれ、父が資格の勉強がしたいと言い出したのが、母が24の頃でした。母も子育てと仕事の両立に大変でしたが、母が出来る事は庭師しかないという感情を持っていました。他のパートも頭をよぎりましたけど、猶予期間で何とかしようと思いました。

父が母に、生活を豊かにする為に、司法書士の勉強がしたい。1年間、月に15万円の収入を家に入れてくれと話した事がある。猶予期間を半年にすると伝えた。母もその当時は、祖父のお手伝いをして頂けだから、ガーデンデザイナーを諦めて、パートに出ようかと考えていた。私が小学生でお金も必要です。

55である私のLifeWorkは、母とひと回り以上続けてきた花博への展示である。私は会場で音声ガイドも務めた。数年に一回ある花博は、私達親子の花活を市民活動へと押し上げた。花のボランティアとの交流も生まれた、県の芸術創作活動に選ばれて企業の後援を受けて、市町村のお祭りに呼ばれた。

私は、家庭では両親の愛情を沢山注がれて育ちました。しかし母は職場では、職人気質でとてもdry でした。母が、社会から常に結果を求められていると肌で感じました。子供心に1人で食べて行くのは楽じゃないと思いました。母がブリキのジョウロで花に水をやる姿に憧れて、後ろを着いて回りました。