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みんなで外で楽しく食べる「じゃがりこ」

今日は私が好きなお菓子のじゃがりこについて、マーケティングトレースをしてみようと思います。

じゃがりこは、カルビー株式会社の商品です。
戦後、広島で創業したカルビーは1964年に「かっぱえびせん」を発売して以降、「サッポロポテト」「ポテトチップス」「フルグラ」「じゃがりこ」「Jagabee」と、ほぼ10年ごとに大型商品を生み出して成長してきました。

すごい開発力・販売力だと思います。
こういった背景には、商品企画・マーケティングの力が隠れているのではないでしょうか。

まずは、簡単にじゃがりこの歴史を振り返ってみます。

■じゃがりこの売上推移

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1992年からじゃがりこの開発が始まり、今のような形でじゃがりこが販売されるようになったのは1995年からです。

順調に売り上げを伸ばしましたが、2005年頃から売上高が200億円前後で停滞し、成熟状態に陥りました。
そこで、07年に従前の4品体制から4品目を期間限定商品に変え、「サラダ」「チーズ」「じゃがバター」の定番3品を活性化させる戦略に切り替えたことで、4品目の期間限定品の投入で定番品が活性化され、ブランド売上高は250億円前後まで成長したのです。
特に2011年に期間限定商品として発売された「たらこバター」がヒットしました。

ロングセラー商品の3品に、期間限定商品として新しい味を追加しても、あまり売上増加の効果は期待できない

と思われていたようですが、「たらこバター」だけは違ったそうです。

通常の期間限定品の2倍程度の売れ行きで、その甲斐もあって、2012年度には売上が285億円に到達しました。

その後、12年10月からは、スティックの長さが約85ミリメートルの「じゃがりこLサイズ」をコンビニ限定で投入し、定番サイズでは物足りないという消費者ニーズを取り込みました。

順調に売り上げを伸ばし、昨年2019年には、売上350億円に到達しました。
菓子類の出荷額ベースでの市場規模は、約3.5兆円程度で、そのうち、スナック菓子は4000憶円程度で、じゃがりこはその10%弱のシェアとなっています。スナック菓子業界ではかなりいいポジションを獲得していますね。

ここまで成長を遂げてきたわけですが、そもそもじゃがりこは、どんなコンセプトで作られたものなのか、確認していきましょう。

■じゃがりこのサービス概要

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じゃがりこのコンセプトは「掘り出そう。自然の力。」「みんなで外で楽しく食べる」となっています。

簡単に説明しますと、カルビーは、自然の恵みを大切に活かし、おいしさと楽しさを創造して、人々の健やかなくらしに貢献する、というのが企業理念です。自然の力を活かして、「外で楽しく食べる」お菓子を開発することで、おいしさと楽しさを提供するのが、「じゃがりこ」の目的になります。

最初に考えていた顧客ターゲットは女子高生で、

1990年代当初、袋タイプのお菓子が大半で、ほとんどお家でしか食べることができなかったという課題

箱タイプで、手が汚れないスティックタイプのじゃがりこを開発したことで解決しようとしました。


もう少し事業背景ついて詳しく見ていきましょう。

■じゃがりこ開発に至った事業背景

じゃがりこの開発が始まった、90年代初頭のスナック菓子市場は袋タイプが大半で、そのスナック菓子のメーンターゲットは30-40代主婦でした。ターゲットが主婦であることから、主な利用シーンは家で食べることがほとんどでした。

しかし、利用シーンが限られてしまっては、市場としての成長は小さくなってしまいます。
そこで、カルビーはこれまでの流れと異なる、基本コンセプト「外で食べられるスナック菓子」で、新しいお菓子を開発することを決めました。

外でも食べられるスナック菓子の利用シーンを考えると、屋外で一人でお菓子を食べるというよりも、他の友達や家族と一緒に「みんなで楽しく食べる」という利用シーンが浮かびました。

これによって、

「外で食べられるスナック菓子」→「みんなで外で楽しく食べる」

というのが、基本コンセプトになりました。

そして、メインターゲットとして考えたのが、「女子高生」です。
その理由としては、

「女子高校生は全人口の数%だが、彼女たちの情報発信力に期待した。この層を押さえることができれば、全世代に広がる」

と考えたからです。
今でこそSNSで拡散していきますが、1990年代当初は口コミなどで広がっていくしかなかったです。確かに女子高生に気に入ってもらえれば、友達同士でどんどん口コミが広がっていく印象があります。

それでは、STP分析を行って、じゃがりこのポジショニングを確認していきましょう。

■STP分析から見るじゃがりこのポジショニング

まずは、ターゲットとして、女子高生をターゲットとしました。もう少し大きな枠組み考えると、お菓子を友達と外で食べたり、持ち運んでおうち以外の場所で食べたりする、お菓子のアウトドア層です。

この顧客層の課題だったのは、「持ち運びしやすい形状のお菓子がないこと」「粉がかかっているお菓子を外で食べると、手が汚れて面倒であること」でした。

そこで、「ポータブル性」×「手の汚れやすさ」といった軸で、ポジショニングに成功しました。

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確かに自分がリュックに入れてお菓子を持っていくときに、まっさきに「コンパクト」かつ「食べやすい」という観点から、じゃがりこがまっさきに浮かんできます。(みなさんもそうですかね?...)

コンセプト通りに、根付いていますね。

■4P分析から見るじゃがりこの強さ

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・Product

①手が汚れない、かつ食べやすいスティック形状
②持ち運びしやすいコンパクトな入れ物
③楽しい心地よい食感

<①手が汚れない、かつ食べやすいスティック形状>

コアターゲットである女子高生が、かばんの中に入れて外で食べられるようにするには、従来のポテトチップスのような、じゃがいもを薄くスライスした形状では食べにくいです。また、味付けのパウダーを上からかけた仕様では手が汚れてしまいます。

これらの問題点を解決するため、形状はスティック型に、味付けは素材を生地に練り込む設計にしました。

<②持ち運びしやすいコンパクトな入れ物>

さらに、カバンに入れるためには、袋だと潰れて袋が空いてしまう心配があり、またかさばるという問題がありました。

そこで、箱型やカップ型にすることにしました。
どちらにするか、検討したところ、

「箱型だと外箱を開けた後、内袋を開けるため2回の手間が必要になる。その点カップ型だと、ふたを開けるだけでよく利便性を高められる」

という理由から、カップ型にしました。

<③楽しい心地よい食感>

また、女子高生が外で楽しく食べるために、食感にもこだわりました。サクサクッと音が鳴る心地よい食感は、楽しい気分にさせてくれます。

(※CMとも関係あり)

・Price

⇒手に取りやすい価格。他のお菓子と同じ、100円程度。

「友達と外に遊びに行くから」「旅行に行くから」などとシーンによって、ちゃんと選択肢に入れてもらえる価格帯でした。

・Place

・スーパーの店頭でのフェイシング
・コンビニでの高い位置でのポジショニング

じゃがりこが発売されたのは、カルビーの中でも営業大転換と言われた時期でした。このとき、問屋さん主体の営業から、よりお客様に近いスーパーなどの店頭を起点とする営業活動にシフトしていく時期であったため、商品陳列の際の最前面(フェイス)に商品をおいてもらうことができました。

また、CMなどでじゃがりこを放映していたことで、コンビニでも目立つ位置においてもらうことができていたと考えられます。

Promotion

①CMでじゃがりこの楽しさを普及
②ユーザーとの積極的なコミュニケーション

<①CMでじゃがりこの楽しさを普及>

CMで放映したことで、

じゃーがーりーこ、じゃーがーりーこ...じゃがりこじゃがりこじゃがりこ

みたいに、楽しくリズムを刻みながら、サクサク食べていけるイメージが浸透しました。 

そして、プロモーションが気になったお客様がお店に行くと、効果的な場所(スーパーの目立つ場所)に手に取りやすい価格(100円程度)の「じゃがりこ」が置かれているわけですから、それは買いますよね。

<②ユーザーとの積極的なコミュニケーション>

ユーザーとのつながりを強固なものにするため、07年から会員制のファンサイト「じゃがり校」を開設しています。

※じゃがり校: https://www.calbee.co.jp/jagarico-school/

じゃがり校に入学するには、会員登録を行い、毎年実施される入学試験を受ける必要があって、本当の学校のようです。そこで、合格すると、新商品の味・コンセプトなどを決める「新商品開発プロジェクト」(2008年2月にスタート)に参加できる仕組みになっています。

また3年で卒業となり、毎年新入生が入学してくるので、新入生の新しい視点が入ってきて、商品開発が進んでいきます。ユーザーを巻き込んだ面白いコミュニケーションですね。

他にも、ユーザーとのコミュニケーションのために、

「じゃがりこWEB」:https://www.calbee.co.jp/jagarico/

も立ち上げ、商品情報の発信も行っています。

ーユーザーの自発的な投稿

じゃがりこは初めに売上をお見せした通り、ある年だけを切り取ってみれば、順調に成長してきたように見えます。しかし、実際は一本調子で成長を続けてきたわけではなく、売り上げが苦戦する時期もありました。

しかし、その度にじゃがりこのファンが新しい食べ方や楽しみ方をSNSなどにアップし、ユーザー間で勝手に盛り上がることが多々あって、成長し続けることができたのです。

これも「じゃがり校」や「じゃがりこWEB」などを通して、ユーザーと密にコミュニケーションを取るようにしてきたため、ファンが自発的に考える習慣がついたのだと思います。

いくつか、じゃがりこの新しい楽しみ方や食べ方を紹介しますね。

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新しい遊びとしては、2016年にはじゃがりこタワーケーキがSNS上ではやり、他にも「じゃがりこ冷蔵庫」や「じゃがりこリュック」なども話題になりました。

これ以外にも、2019年1月28日には、じゃがりこで作るマッシュポテト「アリゴ」が話題となりました。人気料理かがTwitterで投稿したところ、リツイート17万回、いいね55万回もされたとのことです。
すごい人気ですね。

最後にじゃがりこの強さについてまとめてみたいと思います。

■じゃがりこの3つの強さ

①スナック菓子市場におけるポジショニング
②マネされにくい独自の製造技術
③ファンから“いじられ”やすい商品属性

<①スナック菓子市場におけるポジショニング>

1990年代当初は、市場としてなかった箱型スナック市場を作り、先行者として成功を収めてきました。

そして今では、スナック菓子市場で、持ち運びしやすく食べやすいお菓子として、一番初めに「じゃがりこ」を想起する人はかなり多いのではないでしょうか。
つまり、ここまでにスナック菓子市場でポジショニングに成功し、選択肢の一番初めに出てくるほどまで浸透しているといった強さがあります。

<②マネされにくい独自の製造技術>

その背景には、「マネされにくい独自の製造技術」というものがあると思われます。これほどまでに成功したお菓子なら、他の会社がマネしてもおかしくはないのですが、似た商品が少ないのは「技術の問題」があったからと言えます。

じゃがりこの製造工程は企業秘密になっており、外部に詳しくは公開していません。製造ラインが複雑で、工程が1つでも狂うと違う食感になるという話なので、本気でマネをしようとすると、複雑な製造ラインを作り上げるまでにかなりの設備投資がかさむので、それが参入障壁にもなっていると思われます。

<③ファンから“いじられ”やすい商品属性>

また、成長を続けることができている理由として、ファンとの密なコミュニケーションがあると思われます。これによって、ファンがじゃがりこに積極的に絡んでいくような関係性になっています。そして、前提として、ファンにいじられやすい「積み上げられるカップ型」「料理に使えるお菓子」といった特徴をもっています。以上によって、ファンによる自発的な投稿で、じゃがりこがさらに他のユーザーに広がるという、流れも生まれるようになったのです。

■最後に

じゃがりこを調べていくと、最後には商品特性やCM、ファンサイト、最近のSNSでの盛り上がりなど、じゃがりこ周りのすべてが一つにつながっていくことが分かり、大変面白いマーケティングトレースとなりました。

いくつか、簡単に勉強になったことをまとめます。

・UGCを生み出すための仕掛け

ファンとのコミュニケーションの場を設置し、普段からファンから意見や考えを引き出すという習慣を作り上げていたことが、さまざまなUGCを生み出すことにつながっていったと感じました。

待っているだけではなく、UGCを生み出す仕掛けづくりをいかにしていくのか、非常に重要でありますね。

・コンセプトをすべてに統一させる

みんなと外で楽しむ、ということを「パッケージ」「食感」「手触り」などすべてに統一させているという、商品設計がとても勉強になりました。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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