見出し画像

読むナビDJ 11:Light Mellow 和モノ 後編 - 過去記事アーカイブ

この文章はDrillSpin(現在公開停止中)というウェブサイトの企画連載「読むナビDJ」に書いた原稿(2013年10月31日公開)を転載したものです。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

およそ10年ぶりに復刊された伝説のディスク・ガイド本『Light Mellow 和モノ Special -more 160 items-』。前回はそこで紹介されたアルバムの中から、70年代から90年代にいたるシティ・ポップスを中心にJ-AORやメロウ・グルーヴ・チューンをご紹介しました。今回は、その続編にあたる「ゼロ年代以降のLight Mellow 和モノ」をお届けします。

いわゆるシティ・ポップスは、渋谷系あたりまではちょっとダサいイメージがあったと思います。それが、ゼロ年代に入るとにわかに再評価されることとなりました。そこには、サニーデイ・サービスやくるりのようなフォーク・ロック系アーティストが登場した90年代を受けて、70年代のはっぴいえんどやガロ周辺の音源が“喫茶ロック”として再評価された動きにもリンクしています。実際、キリンジや冨田ラボあたりからなんとなく70年代のメロウなサウンドにスポットが当たり始め、徐々に土岐麻子やジャンクフジヤマなどがそのシーンを継承していきます。

ここでは、そんな新しいアーティストによる“Light Mellow”な音源を集めてみました。新しいサウンドをお探しの音楽ファンはもちろん、70年代のシティ・ポップスが好きな40代以上の方にもお楽しみ頂けると思います。

冨田ラボ「ずっと読みかけの夏(feat. CHEMISTRY)」

キリンジが90年代からゼロ年代への架け橋だとしたら、冨田恵一はその陰の立役者といえるでしょう。MISIAの「Everything」をはじめとするストリングスを駆使したメロウなアレンジは、斬新で懲ったこだわりのサウンドでありながら、既視感のある親しみやすさが特徴です。自身のソロ・プロジェクトである冨田ラボも同様のアレンジをふんだんに取り入れ、ユーミンや椎名林檎などビッグ・アーティストが参加することで話題。CHEMISTRYが参加したこの曲も、グルーヴィーなバンド・サウンドと流麗なストリングスのバランスが絶妙な名曲です。

土岐麻子「ファンタジア」

最新型シティ・ポップス・シンガーの代表といえば、土岐麻子の名前を挙げる方は少なくないでしょう。元シンバルズとかサックス奏者の土岐英史の娘などといった肩書きもすっかり必要なくなりました。メジャー・デビューとなったアルバム『TALKIN'』(2007年)に収められたこの曲は、EW&F、ランディ・クロフォード、フィリー・ソウルといった様々な要素を取り入れたアレンジに乗せて、せつなく歌うミディアム・バラードの傑作。作編曲を手がけた川口大輔のセンスの良さと、柔らかさとクールさが同居した歌声の魅力に酔わされます。

高田みち子「TALEA DREAM」

※動画無し

同世代のミュージシャンと新感覚のシティ・ポップスを作る土岐麻子と対照的なのが、高田みち子です。彼女は、松木恒秀、岡沢章、渡嘉敷祐一、野力奏一というベテラン・ミュージシャン集団のWhat is HIP?をバックに従え、70年代の熱気をそのまま現代に蘇らせるようなサウンドの上で涼しげな声を聞かせてくれます。メジャー・デビュー作『Night buzz』(2004年)に続く2作目『TALEA DREAM』(2005年)のタイトル曲も、まるで佐藤奈々子のようにアンニュイなスロー・ボッサ。現在も継続的にこのメンバーでライヴを行っています。

ジャンクフジヤマ「秘密」

ゼロ年代のシティ・ポップス再評価を決定付けたアーティストといえば、やはりジャンクフジヤマではないでしょうか。山下達郎フリークというだけでなく、憑依したかのような声質と歌唱力はインパクト大。瞬く間に話題沸騰し、その後CMソングなどに使われて一般的に認知されるようになりました。この曲は、完全に自主制作で録音したアルバム『A color』(2009年)に収録されていた初期代表曲で、70年代におけるブレイク前のタツローを彷彿とさせます。ここでは、村上“ポンタ”秀一も参加したライヴ・ヴァージョンでお楽しみください。

quasimode「SUMMER MADNESS(feat. 横山剣)」

いわゆるクラブ・ジャズといわれる若手ジャズ・シーンのアーティストにも、“Light Mellow”な感覚のものが隠れていたりすることがあります。quasimodeは、ソウルやラテンのエッセンスを取り入れているため、その要素は他のバンドより濃厚かもしれません。ピアノ・トリオにパーカッションという4人編成から叩き出されるタイトなグルーヴに、クレイジーケンバンドの横山剣をフィーチャーしたのがこの曲。ホーン・セクションを加えたラテン・ディスコ風のサウンドと、ダンディな歌声に絡み合うエレピの音色がとても爽快に感じられます。

Lamp「君が泣くなら」

前述の通り、“喫茶ロック”という70年代フォークロックにスポットを当てたムーヴメントと、“Light Mellow 和モノ”はゆるやかにリンクしているのですが、その両方にまたがるようなアーティストがLampです。男女ツイン・ヴォーカルを要する3人組ユニットで、ソウル、フォーク、ボサノヴァなどを巧妙に取り入れた楽曲とサウンドが魅力。とくにこの曲のように、まるでプログレのようなめくるめくメロディやコード進行が展開するなかで浮遊感溢れるウィスパー・ヴォイスが被さっていき、最終的にメロウな世界に落とし込む手腕には舌を巻きます。

隼人加織「もしもし」

“和製ボッサ”なんていう言葉があるほど、60年代以降の日本のポップスにはブラジル音楽からの影響は無視できないものがあります。筒美京平や村井邦彦といった作曲家が書いた歌謡曲から、加藤和彦や大貫妙子のなどのシティ・ポップスまで、巧妙に日本の風土に溶け込んでいきました。その流れを汲み、究極な作品を作り上げたのが隼人加織かもしれません。ブラジル人とのハーフのシンガーというだけでなく、実際この曲のようにマルコス・ヴァーリのカヴァーを本人と録音した本格派ですが、非常に“和”を感じるのが興味深いです。

流線形と比屋定篤子「メビウス」

ゼロ年代のアーティストによる“Light Mellow 和モノ”は、いずれもレア・グルーヴやサンプリングの延長線上にあるものが多いですが、さらにその感覚を徹底的に追究したのが流線形です。サウンド・クリエイターのクニモンド瀧口によるユニットは、2003年にミニ・アルバム『CITYMUSIC』の発表以来、音楽マニアから絶大な支持を受けています。比屋定篤子をフィーチャーしたアルバム『ナチュラル・ウーマン』(2009年)も思わずニヤリとする内容で、この曲も大貫妙子が歌うニュー・ソウルのようなメロウ・グルーヴ・チューンの傑作です。

一十三十一「DIVE」

流線形のアルバムには謎の美大生・江口ニカというヴォーカリストが参加していましたが、その声とそっくりだといわれていたのが一十三十一(ヒトミトイ)です。いわゆるソウル・ディーバ全盛期の2002年にデビューし、個性的な声とサウンドで他とは違うスタンスで活動してきました。そしてしばらくの休業後、2012年に発表したクニモンド瀧口プロデュースによるアルバム『CITY DIVE』でブレイク。その冒頭を飾るこの曲は、佐藤博の『awakening』に影響されたプログラミングによるグルーヴが、クールでメロウな空間を演出します。

七尾旅人「サーカスナイト」

シティ・ポップス的なサウンドが新しいと感じるのは、七尾旅人のような先鋭的なアーティストまでもそのエッセンスを取り入れているからでしょう。ラッパーのやけのはらや一十三十一のアルバムにも参加しているDORIANと共演した名曲「Rollin' Rollin'」(2009年)も素晴らしいのですが、震災後の空気感をたっぷり取り入れた社会派アルバム『リトルメロディ』(2012年)にもメロウな感覚が満載。とくにこの曲はギターのカッティングやシンセ・ベースによるゆったりとしたメロウ・グルーヴが、彼の手によって新鮮な世界を構築していきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?