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読むナビDJ 10:Light Mellow 和モノ 前編 - 過去記事アーカイブ

この文章はDrillSpin(現在公開停止中)というウェブサイトの企画連載「読むナビDJ」に書いた原稿(2013年10月24日公開)を転載したものです。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

2004年に出版され、しばらく中古市場でプレミア価格となっていた伝説のディスク・ガイド本『Light Mellow 和モノ669』。日本のシティ・ポップス、AOR、メロウ・グルーヴ、ボッサなどをキーワードに、アルバム単体ではなく楽曲評価主義のガイド本という画期的な体裁で、その後の和モノDJにたちにも大きな影響を与えました。

そして、今回約10年ぶりに『Light Mellow 和モノ Special -more 160 items-』として復活します。本企画の大将である音楽ライターの金澤寿和氏を筆頭に、当時執筆に関わったLight Mellow Attendersも再集結(筆者も参加させていただいております)。160枚以上ものアイテムを追加しての増補改訂版となりました。この10年で70~80年代の隠れた名盤の再発も大いに進み、加えてこういったテイストを持つ新しいアーティストも続々と登場しています。そういう意味でも、タイムリーといえるでしょう。

本書で取り上げているシティ・ポップスとは、文字通りシティ感覚を持ったポップスのこと。アーバンかつリゾートなイメージの洗練されたサウンドが特徴で、日本的な歌謡曲やフォークとは一線を画したものでした。とくに、70~80年代当時の洋楽におけるAORやクロスオーヴァーのように、スタジオ・ミュージシャンたちの役割も非常に重要。彼らの活躍ぶりが歌い手たちの魅力を目一杯引き出し、“Light Mellow”な名曲を生み出したといえます。

今回は、そんな“Light Mellow”な感覚の楽曲をピックアップ。70年代から90年代までを前編、ゼロ年代以降を後編ということで、2回に分けてお届けします。まずは、もはやクラシックともいえる“Light Mellow 和モノ”の定番10曲からどうぞ!

山下達郎「あまく危険な香り」

“Light Mellow 和モノ”を語るには、けっして避けられないのが山下達郎です。1975年にシュガー・ベイブのメンバーとしてデビューして以来、現在に至るまで第一線で活躍…なんていう説明も不要ですよね。奥方の竹内まりやからジャニーズへの提供曲まで山ほど名曲がありますが、その最高峰といっていいのがこの曲ではないでしょうか。カーティス・メイフィールドにも似たシンコペイトするリズムと、極上のメロディが織りなすメロウ・グルーヴ・ナンバーは、1982年にドラマ主題歌に使用され大ヒットしました。

大貫妙子「都会」

シュガー・ベイブが偉大なのは、山下達郎だけでなく大貫妙子というシンガーソングライターを輩出したことでしょう。80年代以降は坂本龍一と組んでヨーロピアンな世界の作品でブレイクしましたが、70年代はいわゆる過渡期。シュガー・ベイブの延長だった1976年のソロ・デビュー作『Grey Skies』に続き、翌年の『SUNSHOWER』は当時のクロスオーヴァーに影響されたサウンドを構築。スタッフのクリス・パーカーを招いたニュー・ソウル風味のこの曲は、ジャパニーズ・レアグルーヴの名曲としてDJにも大人気。

佐藤博「ONLY A LOVE AFFAIR」

シティ・ポップス界の名ピアノ・プレイヤーといえば、佐藤博の名を挙げる人が多いと思います。2012年に急逝しましたが、大滝詠一や山下達郎が信頼し、青山テルマのサウンド・プロデュースまでもこなした才人の足跡は、いまなお燦然と輝いています。ソロ・アルバムも力作が多く、最も人気のある一枚が1982年の『awakening』。リン・ドラムを駆使した打ち込みサウンドなのにとても人間味があり、角松敏生から流線形にまで大いに影響を与えた一作です。

角松敏生「Beach's Widow」

70年代の“Light Mellow 和モノ”のアイコンが山下達郎だとしたら、80年代を代表するのはなんといっても角松敏生でしょう。初期作品はリゾートやアーバンといったキーワードで語られがちですが、職人的な緻密なサウンドメイクは70年代の先輩たちを凌駕する仕事ぶりでした。国内外のトップ・ミュージシャンを配したプロダクションはもちろんですが、自身のギターの腕前も見事。この曲は3作目『ON THE CITY SHORE』(1983年)からの一曲で、佐藤準や高水健司らがサポートしたせつないメロウ・チューンです。

須藤薫「フロントガラス越しに」

こういったシティ・ポップスのアーティストたちが学生の人気を得ていくと同時に、キャンパス・ライフを描いた楽曲もたくさん生まれていきます。ユーミンや竹内まりやを筆頭に、EPO、杏里、といった女性アーティストの台頭も目立ちました。須藤薫もそんなひとりに加えていいでしょう。ユーミンや大瀧詠一などから楽曲提供されたり、杉真理とのコラボなどで、アメリカン・ポップス風の楽曲多数残しました。4作目のアルバム『Planetarium』収録のこの曲も杉真理が作曲、松任谷正隆がアレンジしたメロウな隠れ名曲。

伊勢正三「スモークドガラス越しの景色」

シティ・ポップスは、フォーク系のミュージシャンにも大きく影響を与えました。代表的なところでいうとイルカのヒット曲「Follow Me」(編曲は小田和正)や、矢沢透(アリス)のソロ・アルバムなどでしょうか。なかでも、元かぐや姫の伊勢正三は、アーバンでメロウなシティ・ポップスを次々と発表。ソロ3作目『スモークドガラス越しの景色』(1981年)は、少しウェットな歌詞の世界観や、まったりとしたヴォーカル・スタイル、そして森一美(元・山本コウタローとウィークエンド)のアレンジに、独特のメロウネスを感じてとろけそうになります。

松田聖子「小麦色のマーメイド」

“Light Mellow”な感覚は、ニューミュージックやフォークだけでなく、当然のように歌謡曲にも伝播していきます。寺尾聰の名盤『REFLECTIONS』(1981年)は突出した作品だし、リー・リトナーやラリー・カールトンと共演した野口五郎を侮れません。でもアイドル歌謡の最高峰といえば、なんといっても松田聖子でしょう。数ある名曲の中でも、このサマー・フローターが最高傑作。松本隆、呉田軽穂(松任谷由実)、松任谷正隆という鉄壁トリオによるプロダクションで、ひとくちの林檎酒のような甘酸っぱい世界に浸れます。

サンドラ・ホーン「ラヴ・スコール」

こういった“Light Mellow 和モノ”のサウンドの屋台骨となっているのが、ジャズ・フュージョン系のミュージシャンやアレンジャー。彼らが洋楽のエッセンスを研究し、日本のマーケットに取り入れた功績は非常に大きいといえます。大野雄二はその第一人者。ピアニストとしての自身のリーダー作はもちろん、佐藤奈々子、しばたはつみ、ソニア・ローザなどに多くの傑作が存在します。でもなんといっても、彼の代表作は『ルパン三世』シリーズのサントラ。このメロウ・チューンはサンディー(元サンディー&ザ・サンセッツ)の変名によるものです。

ORIGINAL LOVE「流星都市」

90年代に入ると、いわゆる渋谷系ムーヴメントが到来。それまではさりげなく洋楽を取り入れていたのに、このあたりからは意識的に“引用”を行い、編集的な音楽作りが最先端となりました。ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなどが代表選手ですが、少し距離を置いて肉体的なバンド・サウンドにこだわったのがオリジナル・ラヴです。田島貴男のパワフルな歌声と、ソウル、アシッド・ジャズ、ブラジル音楽などを取り入れた音楽性が斬新でした。ひそかに、こんなシティ感覚に溢れたメロウ・ナンバーもこなしています。

キリンジ「エイリアンズ」

渋谷系が終焉する90年代末に登場した兄弟ユニットのキリンジ。ポップなメロディと裏腹に、スティーリー・ダンをはじめとしたAORやニュー・ソウルからの影響によるマニアックなサウンドで音楽ファンを魅了し続けてきました。そんな彼らの代表曲が、初期名盤『3』(2000年)収録の「エイリアンズ」。アコギのイントロから、ゆったりとしたグルーヴによって展開されるサウンドの参謀は冨田恵一(冨田ラボ)。キリンジはこの曲によって“21世紀型シティ・ポップス”を確立し、ゼロ年代における再評価への礎を作り上げました。

というわけで、ここ数年の最新型“Light Mellow 和モノ”に関しては次回に続きます。お楽しみに!


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