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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2024年4月の記事一覧

115.時空を旅する研究所

2004.4.27 【連載小説115/260】 せっかくの機会だから、かなり以前に訪ねた地を選び、記憶を辿りながら「変化」と「不変」の比較を楽しむ旅をすることにした。 出発地は成田国際空港。 香港行きキャセイ・パシフィック航空のチェックインと出国手続きを済ませる。 アテンダントの笑顔に迎えられて機内に入り、ビジネスクラスのシートに落ち着く。 機内誌にざっと目を通していると離陸のアナウンスが聞こえる。 いよいよ旅のスタートだ… 「また旅に出たの?」 そんな声が聞

114.シンガポールの向こう側

2004.4.20 【連載小説114/260】 アジア南方の島から飛んできた渡り鳥と、北方の島から飛んで来た渡り鳥。 別々のルートを旅する2羽の鳥が中継地の太平洋上の島で知り合う。 共に旅を人生の住処とする放浪者として意気投合した彼らは旧知の友のごとき仲となり、生まれた国と旅してきた先々のことを語り合い、暫し穏やかな時間を共有する。 2羽の渡り鳥のお国は、それぞれシンガポールと日本。 似て異なる国家でありながら、異質の中に共通点も多い。 そんな互いの祖国に対して親近

113.未来を読む機械

2004.4.13 【連載小説113/260】 「南の島で過ごす最も裕福な時間は?」 と、熟練の旅人に問うと 「椰子の木陰で心地良い風に吹かれながら1冊の本に向かう読書の時」 なる答が返ってくる。 「読書を行う上での最も贅沢な環境は?」 と、熟練の読書家に問うと 「仕事も複雑な人間関係も全てを置き去りにして旅立つ先の南の島」 なる答が返ってくる。 そう、空間的に日常を脱するリアルな行為である「旅」と、時間的に日常を脱するヴァーチャルな行為である「読書」は、相

112.デュアルライフ

2004.4.6 【連載小説112/260】 4月1日の島開き記念日を終えて、トランスアイランドの歴史が3年目に突入した。 1年目。 実験的社会スペースとしての島が整備された。 これはベースとなる自然環境はもちろんのこと、インフラや各種施設も含めた生活空間のことだ。 2年目。 太平洋島嶼国家との連携活動が誕生した。 これはもちろん完成されたネットワークではなく、今後着実に深まっていくであろう友好の輪のこと。 そして、3年目。 「ここに集う皆さんでこれからの1年に