マガジンのカバー画像

TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

134
2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
運営しているクリエイター

2022年11月の記事一覧

041.楽園の可能性

2002.11.26 【連載小説41/260】 どこまでも青い空と海。 白砂のビーチに打ち寄せる波の心地良いリズム。 火照った肌を優しく撫でる椰子の木陰に吹く風。 目に映る原色の花々の艶やかさと、たわわに実る果実の濃密な香り… 南国の島を、人が「楽園」と呼ぶ際のイメージとは、概ねそんなところだろうか? 地上最もロマンチストにして、モラトリアムな生き物である人類は、有史以来、その想像力や遊び心で、心理的かつ距離的な「非日常」を遠い南海上に求めてきた。 では、現代人にとっ

040.ジョンからの手紙

2002.11.19 【連載小説40/260】 マーシャルのジョンから手紙が届いた。 手紙と記したが、実際はメールである。 自身のメールアドレスを持たないジョンの代わりに、カブア氏が肉筆のレターをテキストファイル化して送ってくれたのである。 不思議なもので、メールと手紙とでは受け取る際のイメージがかなり違う。 メールが情報的であるのに対して、手紙が情操的ということだ。 前者は合理的に短時間で作成され、後者はじっくり時間をかけて紡がれる。 また、前者が即時に届くのに対して

039.エージェントの仕事

2002.11.12 【連載小説39/260】 ボブと知り合って、間もなくちょうど1年になる。 彼がワイキキで僕の暮らすコンドミニアムを訪ねてきたのが昨年の11月半ば。 その翌日に水陸両用セスナで、今いるノースイースト・ビーチに降り立ったのだから、僕にとってのトランスアイランド史は、未だ1年なのだ。 不思議なもので、ゆったり流れる島の時間の中にいると、ずっと前からこの場所で暮らしてきたかのような錯覚さえ覚えることもあるが、僕を取り巻く環境はこんなにも大きく変化した訳だか

038.三角形で出来た卵

2002.11.5 【連載小説38/260】 例えば子供の頃に絵本で見た未来の宇宙開発。 月や火星に最初に作られるコミュニティは、ドーム型の小さな建造物群。 それはどこか遊牧民のテント村に似て、僕には牧歌的なイメージさえあった。 ハイテクを駆使して宇宙へ飛び出す未来の冒険と、未だ知らぬ地平線の彼方を目指したかつての冒険。 その双方に通じる開拓者たちのシンプルで機能的な住環境がある。 夢を追うには、日常を包む空間がシンプルであればあるほどいいのだろう。 そしてトランスアイ