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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年3月の記事一覧

006.開拓民

2002.3.26 【連載小説6/260】 「nesia」のランプが点滅するのと同時に、鳥のさえずり音が響く。 eメールの到着合図だ。 ビジネスメール。 友人たちからのメール。 クリッピングニュース。 コミッティからのレター… 自動受信の設定を済ませた掌上のPDAは、まるで優秀な郵便配達員であるかのように、指定したキャビネットに多数のメールを正確に振り分けてダウンロードしてくれる。 全てに目を通して、急ぎの案件にだけリターンを送ると、メールソフトを閉じてブラウザ画面を

005.PDA

2002.3.19 【連載小説5/260】 「21世紀はPERSONALの時代」 よく聞くフレーズだ。 「個性」、「人格」、「プライバシー」… 国家や集団が優先された時代の中では2の次とされた個人に関わるキーワード。 それらが表舞台に出てくるのは喜ばしいことである。 では、これを地勢や環境の観点で表現するとどうなるか? 「大陸の時代から島の時代へ」 望ましいのは、そんなベクトル転換ではないだろうか。 最も深いところではひとつに繋がった島々が、それぞれの色彩を放ちなが

004.地球温暖化

2002.3.12 【連載小説4/260】 世界地図を想像してもらうといい。 アジア大陸、南北の米大陸、オセアニア大陸からほほ等距離をおいた太平洋の真ん中。 日付変更線の少し右側にポツンと浮かぶ島。 それがトランスアイランドだ。 ここに暮らしてみて、実感として思うこと。 それは世界がひとつに繋がっているということだ。 空間的には海で。 テクノロジー的にはネットワークで。 そして人類は今、改めてその連鎖のことを見つめ直さなければならない時を迎えているのではないだろうか? 「

003.南海のユートピア?

2002.3.5 【連載小説 3/260】 21世紀の今。文明は地球の隅々を全て知り尽くしているといっていい。 新たな大陸や未知なる民族発見の可能性はすでにゼロだ。 が、それはマクロの話。 総論としてのフロンティアの消失も各論には全く通用しない。夢見る者たちのミクロの視点で世界を見れば、辺境は常に無限だ。例えば、トランスアイランドと名付けられたこの島のことを、人類はどれだけ知っていたというのだろう。わずか1年前までここは人類未踏の地だったのである。そして僕はなんとも不思議な