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クライシスマネジメントの本質(その2)

宇野常寛さんと西條剛央さんのリアル会場対談イベント「遅いインターネット」に参加させていただきました。

西條さんの書かれた「クライシスマネジメントの本質」は大川小学校での出来事を検証し未来に繋げるための本です。宮城県石巻市の大川小学校で2011年の東日本大震災の津波で74名に児童と10名の教職員が犠牲になりました。学校管理下での生存率5.6%でした。この事に関して遺族が訴えた裁判で、最終的に市教委と大川小学校の「事前防災」の不備が重視され、2019年10月に判決が確定しました。

宇野さんがまず言われたのは、この本に書かれていることは今の社会のどこでも起こっている事だと思う、ということです。宇野さんが対談で提示された問題のうち2つを記載します。

1.大川小学校で多くの犠牲者が出た一番の原因は何か。

これは一言でいうと、「事前防災」の不備です。緊急時の危機管理に大きく影響するのは、平時にどのような準備がされているかです。緊急時には判断する余裕がない。大川小学校の危機管理マニュアルには「高台に逃げる」という想定が無かった。
マニュアルに無くても実際に裏山に逃げようとした児童がいましたが静止され、高台への避難に備えて待機していたスクールバスは使われないまま運転手も一緒に亡くなりました。
ここに居ては危険だと思った近隣住民は早めに高台に避難し、校庭に残っていた近隣住民は「津波は来ない」と思っているため、逃げた方が良いと思っていた教頭にもバイアスがかかり逃げる判断を下せなかったという要因が有ります。
校庭では超正常性バイアスとも言える事が起きていました。
正常性バイアス×経験の逆作用×逆淘汰×他の脅威への危機感×同調性バイアス=超正常性バイアス

2.国家や組織は「共同幻想」であり、その幻想から目覚めた個が自由意思を行使し行動し始めている。しかし、似た意見を持つ自分の周りの人との関係に満足することなく本質からぶれない言動が出来るには何が必要か。

なぜ正常性バイアスが働いたのか、それは心の中に在る恐れや不安を自覚できず無かったことにして「大丈夫だ」と思うことが原因として挙げられます。危機を適切にマネジメントしていくには、“恐れ”のマネジメントが必要になります。
「ある人の思考様式の中にある通常は目に見えない部分」の存在を知ること。
人は関心に応じて価値を見いだしますが、目に見える「表の関心」と潜在的な「裏の関心」を持っています。「裏の関心」は恐れや不安といった感情を契機とする場合が多く、気づかないうちに「強固な信念」「固定観念」を持つことになります。ありのままに物事を見て判断するには、この「裏の関心」としての恐れや不安を自覚し、マネジメントしていくことが不可欠です。そのためには「裏の関心」を悪とみなさないことがポイントになります。
マネジメントとは「複雑系を何とかすること」です。クライシスマネジメントには、行動を深いところで規定している裏の関心、潜在的な恐れ、強固な信念といったものを扱う枠組みが必要です。
本質からぶれない言動が出来るためには、自分を知り、人間関係を知り、社会で起こっている事を考察出来る自分になること、その基本はセルフマネジメントです。

大川小学校の校歌のタイトルは「未来を拓く」です。
今回宇野さんとの対談から、この本は「読む防災」としてだけでなく、「未来を拓く」本としての意味を持つと改めて思いました。

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