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生き物はどのように土にかえるのか

生き物はどのように土にかえるのか   大園亨司著   2018年

混生密生、無農薬無施肥で協生農法を目指した農作業に参加しています。表土を露出させないために耕すことはなく、混生密生します。作物が覆われてしまうため草刈りしますが、土の中をいじらないため、抜くことはしません。刈った草は肥料となるので作物の周りに置きます。刈った草はすぐに萎れて表土を覆い、乾くのを防いでくれると共に小さな虫が集まります。
協生農法では自然ないのちの循環がみられます。

『生き物はどのように土にかえるのか』の本の副題は「動植物の死骸をめぐる分解の生物学」です。以下に一部を引用します。

・アフリカゾウ、死後4年間の物語
動物は死ぬと24時間以内に、からだを構成する細胞が分解しはじめます。「自己消化」あるいは「自己融解」とよばれるプロセスです。
温かい場所で地表にある場合、死後1カ月以内に、筋肉や脂肪などの柔らかい組織は昆虫や他のさまざまな動物に食べられて皮膚と骨のみとなります。
1年以内に骨のみとなります。
死後2年4ヶ月後と、4年後のいずれのときも骨は散乱していて、大腿骨(ふとももの骨)は、遺体がもとあった場所から100メートル離れた場所に移動していました。頭蓋骨の中は、ヤモリのすみかになっていました。

・野生の掃除屋
ホニュウ類の遺体の分解に関わる生き物は、腐肉動物(清掃動物)と、微生物に大きく分けられます。

動物の遺体の分解では、細菌が重要な役割を果たしています。動物が死にいたると、もともとからだの表面や、胃・腸管の表面に付着していた細菌が活動を始めます。腐敗とよばれるプロセスです。

・植物の死
植物の死には、葉や枝などのパーツ(個体の一部)の死と、木一本、草一本といった個体全体としての死という、2つのレベルの死があります。これが、植物と動物の死にみられる大きな違いです。
落ち葉が腐るプロセスは、動物の遺体の場合と同じように、3つの側面から考えることができます。
1つ目は、どれくらいの速さで腐っていくのか、という量的な側面です。
2つ目は、どのように腐って変化していくのか、という質的な側面です。
3つ目は、どのような生き物が分解するか、という分解者の側面です。

落ち葉は分解にともなって重量が減少していきます。例えば、ブナの落ち葉はあまり重量が減らず、35ヶ月目でも初期の半分以上が残っていました。一方、ミズキの落ち葉は、23ヶ月までに90%以上が消失し、それ以降は重さがほとんど減らなくなりました。
落ち葉が消えてなくなるまではの時間は、落ち葉の種類によってさまざまです。

落ち葉は、複雑な内部構造をもった、三次元的な構造物です。
落ち葉の構造的な変化は、化学成分の変化と密接に関連しています。植物の細胞壁はセルロースとリグニンでできています。建物で例えると、植物の細胞壁では、セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリートの役割を果たしています。セルロース繊維のあいだを不定形のリグニンが埋めることで、強固な細胞壁がつくられています。リグニンが結合したセルロース、つまり木化したセルロースは。「リグノセルロース」とよばれます。リグノセルロースが植物の細胞を形づくり、落ち葉のしっかりした構造を支えているのです。
セルロースはリグニンにおおわれているので、セルロースを利用するためには、結合したリグニンをまず除去することが必要です。
落ち葉が腐るとき、分解者と呼ばれる生き物たちが作業員としてはたらきます。分解者は、このリグノセルロースを細かく砕いたり、溶かしたり、食べたりしながら、落ち葉の分解を進めていきます。

植物の遺体の分解では、キノコやカビのような菌類が重要な役割を果たしています。菌類はリグニンを強力に分解できる酵素をもつ、地球上で唯一の生き物です。
落ち葉の内部に入り込むことのできる土壌微生物や、微小動物、そして一部の中型動物にとっては、落ち葉は住み場所でもあります。落ち葉に入り込んだこれらの土壌生物は、エサを探しながら落ち葉の構造のなかへと潜り込んで行きます。
動物の遺体の時と同じように、死んだ植物のからだは気体(ガス)となって消えていく部分もあれば、腐葉土になって「土にかえる」もあります。
植物の遺体である落ち葉は、植物それ自身も含めて、森に暮らすさまざまな生き物たちのいのちを支える根源ということができるでしょう。

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