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旅という好奇心に服従する

2009年冬。思い立って国道1号線を走破してみたが、興奮冷めやらぬ中、梅田新道の交差点で私が感じたのは「こんなの誰にでもできるよな」という冷めた感想だった。

江戸の時代を生きた人々は当たり前の様に何百キロという距離を旅していた訳だし、その時代に自転車すらなかった事を思えば、現代の舗装された道のりで東海道を移動するなんて特筆にも価しない。

さらに愛知県内での変質的男性との出会いも大きかった。その方は甲冑(かっちゅう)を着て自転車に乗り黙々とペダルをこいでいた。警察に代わって声をかけ目的を尋ねると『桶狭間を目指している』とだけ言って私には一瞥もくれなかった。

甲冑に自転車...  想像を膨らませて頂きたい。どれだけ異様な光景か。

どこから桶狭間を目指しての出陣なのか、織田か今川か、色々と聞きそびれてしまったが、私が東京から大阪まで走ってみて感じたのは「もっと旅してみる必要がある」という好奇心の爆発だった。

旅エッセイ『赤土と太陽 第一章』では国道1号線自転車旅という“旅のきっかけ”について話している。

料理の味見をしたらその味に魅了されてしまった。そんな時に人はどうするのだろう?どんなに味の続きが気になっても夕食の時間を待つという人もいるだろうが私はその場で貪り食う。そうやって始まった線の旅。
 
私は旅という好奇心に服従する。

『赤土と太陽』スピンオフNo.001

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