【さかばなし21】紹介された酒場
「さかばなし」は、酒場(さかば)であった、ちょっとしたエピソード(はなし)について綴っています。「さかば」の「はなし」で、「さかばなし」です。
最後一軒、どこか静かなスナックか居酒屋、そう、年配のママが作った煮物でもつつきながら、ウイスキーの水割りかビールでも呑める店で締めにしようかと思いついた。
この街をすみずみまで歩いたわけではないが、だいぶ街のことがわかってきた。ビアバーの隅っこで、ギネスをパイントで注文し、それをちびちび呑りながら、この街での出来事を思い返していた。
二泊三日の二泊目の夜、最後の夜、最後の酒場へ行こう。
そのとき、中年カップルの客が入店してきた。わたしが座っていたカウンター席の隣に通された二人と目が合い、あ、どうもこんばんは、などと会釈をしたら、自然と会話が始まった。
盛岡から来たと話し、この街で尋ねた店の話や口にした酒や郷土料理の話で盛り上がった。そして、肉じゃがでもつつきながら落ち着いて呑める、どこかいい店はないだろうかと聞いてみると、「いいよ、連れてくからついといで」と女性客の方が言い、携帯電話を取り出し電話を始め、「今から岩手からきたお客さん連れてくから」と誰かに話をした。
で、その女性に連れて行かれた店が立派な外観で、その女性が扉を押すと綺麗なママが現れ、さあどうぞ、と店内に誘う。
ありがとうございます、と連れてきてくれた親切な女性に頭を下げる。
「あ、いいのいいの。ママ、この人わざわざ遠くから来てるんだから、安く呑ませてあげてよ」
その親切はそんな言葉を残し、じゃあね、と軽く手を振りビアバーへ戻っていった。
さて、案内されたのは、スナックではなくクラブといった高級感漂う店。古いスナックで煮物をつまみながら瓶ビール1本、2本という想定が、綺麗なママを目の前に「竹鶴」の水割りを呑みつつチョコレートやらフルーツやらをつまむ贅沢な流れとなった。
「あやさんのお知り合いなの?」とママが尋ねてきたので、経緯を話す。
「あらそうなの、岩手から、遠いところから来てくれてありがとう」といいながら、口元を隠して艶っぽく笑ってみせた。
ママと話し込んでいると、扉が開いて初老紳士が入店した。この紳士を交え3人で楽しく呑んだ。
帰りしな、紳士に「次、ここにいったらいいよ」とスマートフォンで撮影したらしい綺麗な女性の画像を見せられた。見ると、ものすごく美しい女性だった。
「どういう店ですか?」と尋ねると、「ええとね、ニューハーフママの店」というので、「本当ですか、美しすぎる方ですね」と感想を述べたが、残念ながら呑み過ぎていて、これ以上は呑めなかったので、ホテルに戻りばたりとベッドに倒れ込んだ。
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