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デンマークを旅しながらハマスホイの静かな記憶を辿る

こんにちは、デザイナーの堀野美雪(ホリー)です。

現在デンマークを旅しながらデザイン調査をしておりますが、仕事とは別に「静けさ」を撮る写真家として活動中です。

先日写真をTwitterに投稿したところフォロワーさんからこんなコメントをいただきました。

ハマスホイは私も大好きな画家です。

デンマークに滞在しながらこの国の人々の暮らしや自然環境を見ている中で、ハマスホイもこんな環境でこんな景色を見ていたのかと思いを馳せたりしています。

ハマスホイの静謐さはなんなのか

”北欧のフェルメール”と評されるハマスホイの魅力は、静かで穏やかなその静謐さ。

静謐を感じる要因は何か、私は3つの要素を挙げます。

1.色調

ハマスホイの絵には色はあるものの、画面の大半は白・黒・灰色が基調の控えめな色調。
人間の心理的にも刺激が少なく、落ち着いて静かな印象を与えます。

私の生まれは北陸の小さな漁村ですが、晴れの日が少なく、深く炭がかった色の日本海を見て育ちました。

冬のデンマークもその環境に少し似ていて薄く暗く大半は曇り空。ややどんよりと憂鬱で落ち着いた雰囲気です。

育った環境は少なからず人の色彩感覚に影響を与えている部分もあるんじゃないかなと思います。

2.顔の見えない人物

ハマスホイの絵に登場する人物は、私たちに背を向けていて顔がはっきり見えません。

これだと人物の感情が見えず、何を考えているんだろう、何をしているんだろうと私たちに不安にさせます。
感情が排除された人物は、家具や小物と同じく絵を構成する物体の一部としてとして扱われているように見えます。

3.光

ハマスホイの絵は光の境界やコントラストが弱く、全体的にぼんやりと淡い光が室内を包んでいます。

デンマークではカーテンをつけている家をあまり見かけません。
家の前を通ると室内が丸見えで、見てはいけないものを見ているようで焦りましたが、日照時間が短い冬の北欧では貴重な太陽の光を取り込むためにカーテンはなくていい、と考える人が多いのだそう。
外の景色も家の一部として考えられているのでしょう。

私は地下室をお借りして滞在していますが、ヨーロッパでは地下室があるのは一般的なようです。
半地下なので窓はありますが、やはり太陽の光は弱く感じました。

もちろんこれだけではありませんが、これら3つの要素が静謐さを感じる要因になっているのかなと。

ハマスホイはなぜ室内を描くのか

ハマスホイは誰もいない部屋を多く描いています。

モチーフになっている室内のほとんどは、ハマスホイとその妻イーダがコペンハーゲンの街で暮らした住居です。

デンマークでは1880年代から神話や歴史などが題材の絵よりも、より身近な自然や日常を題材にした親しみやすい絵画が好まれるようになりました。

デンマーク人は”Hygge(ヒュッゲ)”という古くから大切にしている価値観があり、寒い北欧で1日の大半を過ごす部屋での心地よさ、快適さ重要視しています。
こうした中で「室内画」がデンマーク絵画にムーブメントを起こしました。

ハマスホイもこの部屋で過ごす妻との暮らしを大切にしていたのかもしれません。

ハマスホイが私たちに見せるもの

「私はかねてより、古い部屋には、たとえそこに誰もいなかったとしても、独特の美しさがあると思っています。あるいは、まさに誰もいないときこそ、それは美しいのかもしれません」

誰もいないときこそ、それは美しい」ハマスホイはこんな言葉を残しています。

誰もいない何もない空間に、かすかに残る香りや音、流れる時間、温度、記憶、感情…目には見えないものの美しさ。

日々の忙殺した日常の中では気づけないそれらを、大切に掬い上げて私達に見せてくれるハマスホイ。

だからこそハマスホイの絵を見ると静かで穏やかな気持ちになれるのですね。


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