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きっと釜山から、新たな旅路は始まる

「また海外へ行けるようになったら、まずはどこへ行きたい?」

旅好きの友人と会うと、そんな話をすることが多くなった。

ヨーロッパの国を巡りたいという人もいれば、南米の遺跡へ行ってみたいという人もいた。

では、僕は?

不思議なのだけど、新しい国へ行きたい!というよりも、今まで旅した国へまた行きたい!という気持ちが強いのだ。

たとえば、スペインのバルセロナ。それから、アメリカのニューヨーク。

そして、そう、韓国の釜山だ。

なぜだろう? なぜ僕は、新しい旅先よりも、かつて訪れた旅先に、こんなにも心惹かれてしまうのだろう?

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僕にとって、初めて訪れた海外の街は、韓国の釜山だった。

10年前、24歳の夏、生まれて初めての海外ひとり旅に出たのだ。

飛行機が海を越え、韓国の半島が見えてきたときの感動を、いまもはっきりと覚えている。

不思議な色をした泥土の海岸、日本では見られない高層アパートの群れ、車が右側通行をしている高速道路、やがて見えてきた釜山の街……。それは僕が初めて見る、「外国」の風景だった。

赤いパスポートに最初の入国スタンプを押してもらうと、僕はバスに乗って街へ出た。

南浦洞という繁華街だったと思う。バスを降りると、そこには五感を刺激する、本物の「外国」があった。

色とりどりのハングルの看板に、見たことのないものを売っている露店街。どこか埃っぽい街の匂い。やたらうるさいクラクションと、人々のざわめき。街角の屋台で食べた、ひたすら辛いチヂミ。そして、異国の街に自分が溶け込んでいくような、心地良い感覚……。

人生で初めて歩く「外国」に、僕は興奮し、魅せられていった。

これが海外なんだ、これが海外を旅するってことなんだ、と思った。

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チャガルチ市場へ行くと、海鮮料理店のおばさんに熱心に中へと誘われて、びっくりして逃げたりもした。その夜はサッカーの韓国戦があるとかで、街中に赤いシャツを着た人が溢れ、熱く応援する姿に心を揺さぶられたりもした。

すべてが初めてだった。見る風景も、食べるものも、耳にする言葉も、そして心の震えも、すべてが初めて尽くしだった。

人生で忘れられない1日を選ぶとしたら、きっと僕は、「初めて」の感動に溢れた、あの釜山での1日を真っ先に思い浮かべるだろう。

その釜山から、僕はソウルを目指して、韓国縦断の旅をした。慶州、大邱、安東、大田、ソウルと、1週間かけて韓国の街を巡ったのだ。

どこへ行っても、心を動かされる「なにか」があった。偶然の出会いがあって、情けないハプニングがあった。そのすべてが、生まれて初めて経験する「なにか」だった。

そしてソウルに辿り着いたとき、僕は思ったのだ。海外を旅するって、こんなに素晴らしいことだったんだ、と。

その韓国の旅をきっかけに、僕は暇さえあれば、海外への旅に出るようになる。

だからたぶん、釜山は僕にとって、韓国縦断の旅の始まりだっただけでなく、長い長い海外への旅の、そのスタート地点だったのだろう。

あの釜山から、すべては始まった。そんな気がするのだ。

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あれから10年が経った。

この10年は僕にとって、「旅」という1字で表すしかない10年だったと思う。

憧れのサグラダ・ファミリアを見にバルセロナへも行ったし、ハリケーンに襲われる中ニューヨークへ行って大変な思いもした。

だから今年、海外へ突然行けなくなって、心にぽっかりと空洞ができてしまったような気がした。

旅というものに、どれだけ人生を支えてもらっていたのか。旅というものを、どれほど心から愛していたのか。それを実感する毎日だった。

確かに、海外へ行けない日々はつらいものだった。

でも、たったひとつだけ、良かったなと思うことがある。

それは、今までしてきた旅がキラキラと輝き始めたことだ。今までよりも、眩しいくらいに、美しく。

憧れの街へ行ったあの旅も、ハプニングだらけだったあの旅も、今ではすべてが宝石みたいに輝いている。

きっと、海外へ行けなくなったことで、自由に旅できる幸せに気付き、今までの旅が静かに輝き始めたのだ。

本当に旅をしてきてよかった。心の底から、そう思う。

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実は今、僕の手元に、1枚の航空券がある。

その行き先は、韓国の釜山だ。

そう、あの釜山から、僕は新たな旅を始めようとしているのだ。

もちろん、まだ行けるかはわからない。

でも、たとえ行けなくても、僕はまたすぐに釜山行きの航空券を取り直すことだろう。

なぜ、釜山なのか?

それはたぶん、バルセロナやニューヨークと同じく、あの釜山の旅も、僕の中でキラキラと輝き始めたからなのだと思う。

かつて訪れた旅先に、これほど心惹かれてしまうのは、その眩しい「光」に理由があるのだろう。

でも、釜山を選ぶ理由はそれだけじゃない。

僕にとって、新しい旅を始める場所として、釜山ほど相応しい街はないと思うからだ。

10年前、釜山という港町から、僕の海外への旅は始まった。その旅路はソウルへ続いたばかりでなく、遠くヨーロッパやアメリカ大陸へも繋がっていった。

だとしたら。

これからの新しい旅も、あの釜山から始めれば、その道は「ここではないどこか」へと繋がっていくのではないか。バルセロナやニューヨークはもちろん、まだ見ぬ未知の街へと、旅路はどこまでも続いていくのではないか……。

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あの10年前の旅が「初めて」の感動で溢れていたように、今度の釜山への旅は「久しぶり」の感動で溢れることだろう。

僕はまた釜山から、海外への一歩を踏み出すのだ。

10年前と何も変わらない、子供のようにワクワクした気持ちを、胸にそっと抱きながら。

旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!