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【商業BL感想】人はなぜ働かなければならないのか 山田ユギ

【旧ブログより】
2017年7月 8日 (土)

チキンラーメン食べたい。あと、嘘つきな受けっていいよね

【あらすじ】

真夜中のオフィス――
そこには口の悪い上司とその仕事を手伝うデキる部下の2人のみ。
眠気覚ましのバカ話から事態はとんでもない方向へ……!?
「麗人」誌上で人気を博した夜の残業現場を舞台に繰り広げられる「人はなぜ~」シリーズが描き下ろし入りで待望のコミックス化!!
表題シリーズ他、先輩×後輩、遠距離カップルなど、オフィスラブ満載の最新作品集!!

人はなぜ~シリーズ
中津×門倉


【感想】
この、哲学書かはたまたビジネス自己啓発本みたいなタイトルの本が、私の初・山田ユギ作品。
昨年(2016年)麗人の付録の小冊子でほんの数ページ読んで心をつかまれ、慌てて手に入れた。これを読んだ後しばらくは自分の中で山田ユギまつりだった。

要領の悪そうな口の悪いバツイチ上司とデキるイケメン部下が二人だけの残業中で軽口をたたきあっているうち、雲行きが怪しくなって…。ってうまく説明できないのだけれど、BLである以前に“会話劇”として非常に面白い!

このシリーズのタイトルは、中津のセリフになっているパターンがほとんどなのだけれど、哲学的な自問をする割には、大したことを考えていない中津がバカで良い。この中津の問いに対して、毎度のように現実を突きつけてばっさり切り捨てる門倉とのやり取りから物語が始まっていき、やがて彼らの会話に引き込まれていく。導入部分からしてもうニクい。

上司・中津がまずガサツで無神経なんだけど、おそらくすんごくいい奴なんだと思う。派遣の子を泣かせてやめさせてしまうという口の悪さと管理能力のなさは管理職としては致命的な気もするけれど、裏表のないいい奴なんだろう。そして部下の門倉はとにかく厄介。仕事はできるし女にもモテるしイケメンだし一見完璧に見えるけど、嘘つきでひねくれていてとらえどころのない奴。

まあとにかく門倉が嘘をつく!
そして質の悪いことに嘘ばかりのなかに少し本心を散りばめるのだから厄介でかわいい。拒絶されても自分が傷つかないように嘘や軽口で防御するあたりもまた素直じゃなくてかわいい。
基本単純で深く考えないのですぐ流される中津は、そんな門倉に翻弄されまくる。私も中津と同じように門倉のウソに振り回されて“イーっ”となるのだけれど、途中からはそれも心地よくなってくるのが山田ユギマジックなのだろうか。

短編なので、人間性とか背景を掘り下げるような描写は特別ないのだけれど、ページ数にすると1冊にも満たない約60ページに、二人のキャラクターが凝縮されていて、この人(山田ユギ)すげーと思った。

残業っていうシチュエーションって流れですぐエロに持っていってしまう気がするけれど、現実的に考えて、残業は残って終わらせなければならない仕事があるという意味だから、のんきにエロいことだけしてる暇なんてないんだよね~。だから勢いでしちゃっても、残りの仕事は終わらせなければならないから、終わった後の気まずさとか、結構リアルなのかも。

結局、門倉はツンデレなのかヤンデレなのかよくわからなかったし、ゲイなのかさえ不明なままだったなぁ。
でも、中津には一途に執着し続けているからやっぱりゲイなのかなぁ?

まあ、中津も普通に女と付き合って結婚できたとしても、また逃げられたり捨てられたりするだろうから、振り回されつつも全てを知り尽くされている門倉に老後の面倒まで見てもらったらよいのではなかろうか。

このシリーズ、まだまだ読みたい。

同時収録の他の作品も、「働く男たち」がたくさん出てきた。
互いに耳かきをするだけの話なのに、なんでキュンとなるんだろうと思う短編や真面目で要領の悪い先輩に片思いし続ける後輩の話、地球の裏側に住む会社の同期との遠距離恋愛の話。どれも(耳かき以外)ありがちな設定と展開となのに、なんだか特別に思えてしまうのは、なぜなんだろうか。登場人物のキャラクターに息を吹き込む魔法は一体どこにあるのだろう?

本当、山田ユギマジックだなぁ。


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