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補聴器ハンドブック勉強会 参加報告@ 耳鼻科クリニックで働くST

皆さんこんにちは!

言語聴覚士オンライン 編集部の奥住啓祐です。

以前のST magazineの記事でも書きましたが、小児、聴覚といった領域は言語聴覚士でも関わっている人数が極端に少ないです。

僕自身も卒後に聴覚領域を勉強する機会がほんとに減ってしまいました。

言語聴覚士

言語「聴覚」

しっかり名称に聴覚と書いているのにこれでいいのか?

この言語聴覚士オンラインプロジェクトでは、自分の専門領域以外のことも気軽に学びたいという要望に応えるべく、

ST magazineやオンラインでの研修を通して、幅広い領域を学習するキッカケ作りを行っていきます。

さて、ある日 Twitterにこのような投稿が流れてきました。

いつも刺激的で学びの多い投稿をされている中川先生。

そのツイートの中に「補聴器ハンドブック勉強会2019」という記載がありました。

ST magazine の最初の報告記事には是非、聴覚領域をと思っていたので、中川先生の投稿は素晴らしいタイミング。

気付いたときには既に勉強会は終わっていたので早速Twitterで検索してみると



いろんな方の投稿がでてきました。ほんとTwitterって素晴らしいですね。

来年はぜひ参加したいこの勉強会。

どなたか ST さんで参加されている人がいないかと探していたら



STさん発見!!

今回は言語聴覚士であり、認定補聴器技能者の宮田先生に記事の執筆を依頼させて頂きました。記事の執筆を快く承諾して頂きありがとうございました。それでは宮田先生よろしくお願い致します。


ST magazine は国内外の言語聴覚士が共同で執筆しております。言語聴覚士が関わる幅広い領域についての記事や言語聴覚士の関連学会などについて、不定期に記事を配信していきます。
今回の記事は約7600字です。特に記事 最後の「認知症と聴覚」の内容は日頃、聴覚を専門としていない方にも読んで欲しい内容だと、送って頂いた記事を編集していて感じました。


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今回の記事内容で何か良いなと思うところがありましたら、Twitterのシェアや引用RTなどでご感想を投稿して頂けると嬉しいです。

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みなさん、はじめまして耳鼻科クリニックで言語聴覚士・認定補聴器技能者をしています宮田です。

「認定補聴器技能者」:補聴器の販売や調整などに携わる人に対し、財団法人テクノエイド協会が、厳しい条件のもと、基準以上の知識や技能を持つことを認定して付与する資格(日本補聴器技能者協会HPより)

今回、2019年1月12日13日の2日にわたって行われた補聴器ハンドブック勉強会に参加して良かったことが多くありましたので、簡単ではありますが伝えていきたいと思います(^^)/

補聴器ハンドブックとは

補聴器の世界的名著といわれるほど補聴器に携わる方々の中では有名であり、第1版が2004年に、そして第2版が2017年に発行されました。

補聴器に携わる方なら一度は目にしたことがあると思います。

・・・最後まで読んだかは別として(笑)


というのも、このハンドブック、内容はもちろんのことページ数が約650ページ(文献・索引込み)というかなりの量で、隅から隅まで読むのにとても根気が必要です。
※購入者の中には辞書のように使われる方もいるとか…


私も学生の頃に学校の図書館で見つけ興味本位で開きましたが、数ページでギブアップしてしまいました( ;∀;){今はしっかり読めるぐらい面白く感じています}

内容に関しては著作権等もあるためあまり詳しくは書けませんが、
・補聴器の基本的な機能の話
・難聴についての理解
・補聴器を処方する上で必要となる評価
などなど。


補聴器のことから、補聴器の対象者に関することまで範囲は幅広いです。


では、ここからは今回開催された補聴器ハンドブック勉強会で、実際にどんな勉強をしていたのかお伝えしていきたいと思います。

 補聴器ハンドブック勉強会とは?

2017年に補聴器ハンドブック 第2版が出版され、2018年から補聴器ハンドブック勉強会が、ハンドブックを監訳された中川雅文先生の主催で始まりました。

翻訳された諸先生方がスライドを使用して、それぞれのパートを解説するという、なんとも特別な講義が盛りだくさん!!!

本を読むだけでは難しい内容も、スライドや音声情報がある事で、より理解することを助けてくれましたφ(..)メモメモ

もちろん中川先生のお話も聴け、随所に出てくる中川先生節もこの勉強会の見所といえます(^^)

また、この勉強会では明日から臨床(現場)で活かす事ができる知識を習得するという思いがあり、参加された方たちが患者様やお客様へすぐに還元できるような内容だと感じました。

2日にわたって開催されましたが、ページ数が多い為にハンドブックの全ての項について触れることは厳しいと思います。
ですが、講義のある項については理解が本当に深まりました。

その内容について、簡単にお伝えしていきますね(‘ω’)ノ


※詳しく知りたい方はぜひ勉強会に参加してみてください!!!!


勉強会の内容


プログラム
 プログラムは講義が6つとその他には補聴器ハンドブックの内容とは少し違った視点でのお話が聞ける特別講義や手話講座、さらにブレイクタイムとして症例報告や販売店様独自のイヤモールドの発表などがあり、最後まで心を奮い立たせてくれるプログラムでした。

その中でも特に重要だと感じたことをいくつかお伝えします。


 処方式について
補聴器の勉強を学校やそれ以外でやったことがある人ならば、「処方式」ってきいたことありますよね?

「処方式」:最適な利得(補聴器に入ってくる音をどのくらい大きくするか)情報を導き出す計算式。

処方式には、「NAL」「DSL」「ハーフゲイン」などがあり、これは目標とする利得を決めるために重要なことで、それぞれに特徴があります。

大まかに分けると
・リニア補聴器(入力音圧に関係なく一定の増幅)
・ノンリニア補聴器(入力音圧が変わると増幅も変わる)
それぞれの補聴器に合う処方式が考えられてきました。

今のところどの処方式が最適であるかはまだ結論が出ていないとのことです(>_<)

ただ、結論は出ていないにしても、処方式をないがしろにしてはいけないということで、

勉強会では、それぞれの処方式がどのような経緯で考えられてきたのかという歴史や、現状の処方式を処方する際に考えるべき事などを中心とした内容となっていました(‘ω’)ノ

補聴器装用(候補)者の評価、教育
このテーマでは、補聴器ハンドブックの9章13章14章について、
実際に現場で働かれている言語聴覚士の方達がお話してくださいました(^J^)

補聴器を使おうと思っている人(補聴器装用候補者)と補聴器をすでに使っている人(補聴器装用者)の評価や対応方法は少し異なります。


既に現場で補聴器に携わっている方たちなら感じたことがあると思いますが、補聴器は「本人の意欲がないと使わない」傾向にあります。
(補聴器だけとは限りませんけどね…( ;∀;))

しかし!!!!
意欲を引き出すことも私たちの役目だと思います(‘ω’)ノ

そこで、まず9章のお話では補聴器を使おうと思っている人、つまり「きこえにくくて生活に支障が出ている人」を、ICFに基づいて全体像を把握しようという内容でした。


この話を聴いて

・全体像を把握することの大切さ
・対象者が自身のきこえを理解しやすくなる
・補聴器によって解決するべき目標が明確化される

などなど「 I C F 」に基づく事の重要性を感じました。


なかなか一人当たりに対応する時間が多くとれない方もいらっしゃるとは思いますが、こういった視点を持つことは非常に大事だと思います(^^)


そして、補聴器を使用する人に対しては
・補聴器適応までのアプローチ(STEPを使用する段階的適応)
・ヒヤリングストラテジー
・聴能訓練
・(質問紙を用いた)装用効果の評価法

といったお話がありました。

質問紙にも様々な種類があり、それぞれに特徴があります。
ぜひ、装用閾値や装用者の主観的な訴えだけではなく、質問紙での評価も検討してみてください(^^)/

 実耳測定・3Dスキャン(実習)

勉強会の最後の講義では、実耳測定(2メーカー)と外耳道の3Dスキャンについて実習という形で行われました。

まずは実耳測定についてのお話から(^^)/

実耳測定:柔らかな細いチューブを鼓膜の近くに留置し、顔の正面に置かれたスピーカーから音を出し、鼓膜面上にどんな音が到達しているかを測定するものです。

「外耳道は 3kHz 付近が共鳴し、約10㏈の増幅効果がある」とご存知の方は多いかと思います。

しかし、耳の形は千差万別であり、共鳴もそれぞれに異なります。

さらに補聴器を装用した場合にも、この鼓膜面上の音圧は個人で異なるので、実耳測定をすることで「安全に、且つより有効的に補聴器を使用することができる」ようになります(‘ω’)ノ

現状では、日本での実耳測定実施率はかなり低く、

「知っているけどやってない」

「チューブが鼓膜に触れたら危ない」

などといった声を聴きます。
※チューブはとても柔らかいものなので、鼓膜に触れても余程の力が加わらない限り安全です。

補聴器販売店と比較すると病院での実施率は高いと思いますので、実耳測定に関する情報がこれからもっと普及していく事を願うばかりです。

3Dスキャンにつきましては、イヤモールド作成に必要な耳型採取時に印象剤を使わず、機械によって外耳道の中をスキャンするというなんとも画期的なシステムでした。

「イヤーモールド」:耳の形状に合わせたオーダーメイドの耳せん。耳から音が漏れることでの「ピーピー音」がよく鳴る人や、補聴器が良く耳から外れる人もイヤーモールドを使う事で装着が安定する。

ただ、スキャンをするには実際に機械を外耳道に挿入させ、角度を変えながら引き抜いていくという手作業があり、これは慣れるまでに練習が必要と感じました。

3Dスキャンを導入することで、
・スキャンしたその日にイヤモールド作成に取り掛かることができる
・今までより早くイヤモールドを提供できる
・印象剤を注入する際の負担を軽減できる
・印象剤のコストが削減できる
・耳型をメーカーに送付する手間とコストを削減できる
・難しい耳型でもリスクなくスキャンできる

などなど、補聴器装用者や販売店の双方にメリットがあるといえます(・ω・)ノ

発表からまだ日にちが浅いので、これからどのように普及していくのかに注目ですφ(..)メモメモ

お楽しみの交流会
1日目の講義が終わり、情報交換会という名目の懇親会がありました。
勉強会に参加された、耳鼻科医、言語聴覚士、補聴器販売店のスタッフなど補聴器に携わる志の高い方たちとお話ができ、それぞれに有意義な時間を過ごされたかと思います。

参加者1人ずつに1分間の自己紹介するコーナーがあったりと、普段なら会話も交わさないかもしれない方達とも交流することができると思います。


もしかしたらこの懇親会を目当てで参加している方も…( ^^) _旦~~(笑)


まとめ
今回、補聴器ハンドブック勉強会に参加して、講義内容はもちろんのこと、補聴器に携わる方達との交流も魅力的である、と感じました!!!


ぜひ、聴覚に携わる皆様も、懇親会を含め補聴器ハンドブック勉強会に参加してスキルアップを目指してください(^^)/

今回の補聴器ハンドブック勉強会では、ハンドブックの内容にはあまり触れない特別講義やポスター発表がありました。

これらは、普段は聴覚や補聴器に携わらない方たちにもぜひ知っていてもらいたい事でしたので、特別編としてお届けしようと思います。

認知機能と聴覚のところは必見です。

では、さっそくいってみましょう!!!


聴覚もハラスメント?

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国内外11人の言語聴覚士を中心に執筆。このmagazineを購読すると、言語聴覚士の専門領域(嚥下、失語、小児、聴覚、吃音など)に関する記事や、言語聴覚士の関連学会に関する記事を読むことができます。皆さんからの体験談など、様々な記事も集めて、養成校で学生に読んでもらえるような本にすることが目標の一つです。

国内外の多くの言語聴覚士で執筆しているので、言語聴覚士が関わる幅広い領域についての記事を提供することが実現しました。卒前卒後の継続した学習…

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