コク甘ミルクとVaundy似の息子とモランボン

次の短期バイトが決まらず、駅直結ドトールに考えごとをしに来ている。

推しメニュー広告に「カフェ・ラテ〝コク甘〟ミルク使用」とあったため、どういう理由で普通の牛乳よりコクが強く甘みを感じるのかについては説明は見つけられていないままでも、コク甘なはずのカフェ・ラテ380円を注文。『期間限定ミラノサンド 牛カルビ』のシズル感ある写真広告にタレ味の口になる。〝たれには老舗メーカー・モランボン(株)が50年以上培ってきた知恵が惜しげもなくつぎ込まれています〟つぎ込み具合が刺さるコピー文章。もはやご飯で食べたい。タレだけ味見でもいい。
ミラノサンド商品開発者たちの会議シーンを想像する。最初は「え〜? いうて焼肉はご飯でしょ」と奇をてらってもダメだろうムードの中、誰かが立ち上がり「タレ次第じゃないですか?」「モランボンのタレを持ってすれば、ご飯一択の焼肉の牙城をミラノサンドが崩せると思うんです!」と言い出した。社員さん熱い。焼肉のタレ、クッパスープなど、長年モランボン商品ユーザーの妄想は一層はかどるのだ。今年流行ってるとかではない泰然たる老舗の〝モランボンの焼き肉ダレ〟で手堅く勝負しているドトールを、信じていこう。ホットのコク甘カフェ・ラテを受け取る。牛カルビミラノサンドは600円を超えていたので頼まず。

駅に面した窓ぎわの一人席に座り、コンセントにスマホの充電器を挿す。コンセントがある窓ぎわ席は人気で、空席は一つくらいだった。コロナ対策でエアロゾル感染に効果が薄いと言われてもいるアクリル板が設置されているが、ちょうど隣の人との仕切りになっている形で、ここでの使用はそんなに悪くない。
駅側の乗降客からはこちらが見えない目隠しガラスは、白いドットがプリントされているのに向う側が見える。白いドット越しの人の姿を見るともなく見つめながら、バイト不合格についてほんの少し反芻。ハンダ付け作業バイトの応募メールに追記で「ハンダ付けは趣味ですが経験があります。コツコツとやる作業はずっと集中していられます」と、ど正直に書いたら、「今回応募されたハンダ付けのお仕事は対象がハンダ付け経験者の為、せっかくご応募頂いたのですが難しいと思います。申し訳ございません」と、即日返信。…しゃーない。

お断りといえば…2日前のことを思い出す。来春高校受験を控えて気持ちの揺れがひどい息子ターチンが、「〝お祈りメール〟っていうのは、お祈り申し上げますって書いておきながら、断るってことなんだよ」とイライラしながら言ってきた。中3の夏にメガネを作ったターチンは、年々肥えていることも手伝って、ずいぶんVaundyに寄ってきている。「〝お祈りメール〟って何? お母さん知らないわ~」と世情に疎いのを憚らずに答える。「Fラン大学」「ボーダーフリー」という時事的な言葉をふっかけてきたり、息子はここ数年ネットのニュースやオピニオン記事を読むのにはまっているのだ。

「知らんけど、〝お祈り申し上げます〟は仕事でもプライベートでも使うよ。私はその人の健康とか幸せを祈るときはつけて、そこまで思わない相手には〝お祈り申し上げます〟は、つけない」と話した。すると秒で「お母さんはフリーランスで極端な少数派だから」と、うちのVaundyは言い放った。「うわぁ、その捉え方めっちゃ簡潔で的確!! 私が審査員だったら97点を差し上げる」と距離をつめて褒めたら、「聞いてない」とVaundyはびしっと子ども部屋の襖を閉めた。

数年前にターチンが聴いていて知ったVaundy。『東京フラッシュ』のMV Youtubeの1:39〜1:52 Vaundyがスマホ通話しながら、コインパーキング敷地内の隣車両へのぶつかり防止のための約15cmの高さの鉄のバー(座るにはだいぶ低い)に座っちゃう場面が好きなんだけれど。ちなみにターチンは『東京フラッシュ』より『不可幸力』がお気に入り。

しかし、祈りを皮肉な言葉に仕立てて誰に何がいいことがあるんだ? コク甘カフェ・ラテがとうに冷めても考えごとは続く。
「チンカス野郎」と罵られたときの男性からの返しは「腐れ○んこ」で間違いないのだろうか、と考えが飛んだ。コク甘ミルクが脳に効いたに違いない。そもそも、この言葉を私はいつどこで覚えたのだろうか。平仮名表記、カタカナ表記、どっちが今風とかあったりする?? Google検索をしてみたが、めぼしい記事には行きつかなかった。すっきりしない〜、しかしそれもまた良し。ネットで全て解決なんかしたくない。底に残っていたコク甘を飲み干した。

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