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小説 ブローチ・後編/兼桝綾 (仕事文脈vol.12)
前編からの続きです。
会議室の一番後ろに、ミホとその彼氏が並んで座っているのが見えた。ミホは鮮やかな黄色のカーディガンを着ていた。私はあのカーディガンに覚えがあった。あれはミホとその彼氏と三人で出かけた時に、彼女が手にとったものだった。私は彼女と買い物に出かけたのは初めてだった。それどころか、ろくに友人のいなかった私は、家族以外と買い物に出かけることが初めてだった。ミホの手にとったカーディガンは、片衿にだけフリルがついていた。不良品かと私は思ったが、彼女はそれが可愛いと言った。値札を見ると一万円以上した。布に一万円以上かける精神が私には分からなかった。それなのに彼女はそのカーディガンを買おうとする。私は彼女の暴挙をどのように止めればいいか分からなかった。私は彼女に間違いに気がついてほしかった。ねえミホちゃん黄色のカーディガンもう持ってるよね、私は言った。彼女は言った。「ちがうよ、これは黄色っていうか、ミモザ色だよ」彼女は真剣にそれを言っているようだった。そもそも彼女は靴を買いに来たはずなのに、前からカーディガンがほしかったのだという気持ちになっているようだった。私はどうすればいいか分からず、そこからはもう、彼女が手にとったもの全てに「いいんじゃない」と言った。
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