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散木記(抄) /円城塔

3月24日(火)

 風が過去へと吹きつけて、去年の桜を散らしていくことであるよ、という和歌を偽造するのはどうか。古今和歌集などを、タイムトラベルものとして読み直すことの可能か否や。
 ゾンビ映画でいえば、序盤が終わり緊張感が高まりはじめているところあたり、か。
 しかし、この規模で経済を停止させると、無事にリブートできるものなのだろうか。
 一番安い方法で金をばらまく手段を考える。難しい。年金の仕組みはあえて切り離したものなので、そちらを利用するのは難しかろう。住民票、マイナンバーを口座と結びつけるのは本来避けるべきことである。
 欧米はそもそも戸籍制度が異なるし、政府が個人の口座なんて把握しているはずはないので、もう金が支払われているとかいう報道はなんだか信用ならない。エストニアとかは別だが。

4月6日(月)

 『華氏451度』を眺めつつ、自分には、ブラッドベリを読むためのなにかが根本的に欠けていると思う。
 吉野の桜も山を挙げて稀に見る満開とのこと。
 『南朝全史』を読んでいる。
 さて、このあたりからは当然、人命と経済をはかりにかけることになる。が、ここで一番に避けるべきは、人命を金額に換算することで、それは馬鹿なSFに登場するAIがまっさきに提案してくるはずの事柄である。人文諸学はこれに強く反論するべきだ。
 もっとも、AIが馬鹿になるのは制作者が馬鹿だからである。


円城塔(えんじょう・とう)
1972年生まれ。ものかき。札幌生まれ、大阪在住。映画評と音楽評はせず。仕事場は喫茶店。日に2、3件を回っていたが在宅に。もともとあんまり人とは会わず、一日の会話が家族以外は「お弁当温めますか」だけであることも珍しくない。ここ数年、アニメの脚本などを書いていた。アニメの作業が前代未聞の勢いで遅延しているが「俺は悪くない」。大事なことなので二度書いておくと「俺は悪くない」。



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