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ひろゆきとブルシット的虚無/杉田俊介(仕事文脈vol.22)

■分析されるひろゆき

 ひろゆき的な「論破」を考察するために、「合理性」から始めてみたい。稲田豊史のベストセラー『映画を早送りで観る人たち』(2022年)によれば、若い世代ほど映画を早送りで観る。結末やあらすじを事前に調べる。なぜそれほど効率=コスパを重視するのか。端的に時間がなく、お金がなく、心の余裕がないからだ。情報過多で流動的なファスト社会の中で、自分だけの個性や拠り所を、効率的に求めざるをえない。コスパとはたんに「合理的」な生存戦略である。

 レジーの『ファスト教養』(2022年)は、ひろゆきや中田敦彦、ホリエモンなどのインフルエンサーを追い求める人々の欲望を分析している。手っ取り早く教養を得ようとし、コスパやワンチャンを重視する「ファスト教養」なるものは、地道な努力よりも偶然や運に左右されがちな現代社会――ビジネス界隈で「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」と呼ばれる――におけるサバイバルツールとして機能する。そこではもはや資本主義自体があたかも(機会平等と対等な競争に基づきwin-winをもたらす市場経済ではなく)気候変動や環境破壊のように感じられている。ゆえに、リベラル民主主義的で公正なルールに従わず、その裏をかくチート的な姿勢こそがここでも「合理的」なのである。

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