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韓国チプコク日記―コロナ禍と私の90日/木下美絵

2020年2月26日(水)
確診者が1146人と1000人を越えた。大邱・慶北地域の人が全体の80%を占めている。また、全確診者に占める新天地信者は約60%に上っていて、これもかなりの割合(編注:韓国は2月半ば以降、南東部の都市・大邱(テグ)を中心に新型コロナウイルスの感染が急速に拡大した。20万人以上の信者を抱える宗教団体の大邱支部で集団感染が発覚。それが発端となり3月上旬には全国で1日500人以上の陽性者が発生し、隔離用の陰圧室も不足するなど一時は危機的な状況に陥った)。信者間や信者を通じての2次感染、3次感染が深刻な様子。大邱を封鎖すべきかどうかの議論まで出ているなか、200人以上の医療関係者が大邱でのボランティアを志願したというニュースに胸が熱くなる。
昨日、新天地側は政府と合意して信者名簿を提供することになった。が、信者数を聞いてたまげた。何と約21万5000人。そんなに多いの?! しかも名簿には「教育生」と呼ばれる予備信者は含まれておらず、実際はもっと多いらしい。
以前から新天地という団体は他の教会に潜入しては信者の引き抜きを行うなど、勧誘の仕方が問題視されてきた。そこに今回の集団感染。しかも教団側が信者であることを隠すよう指示していたことなども明らかになって、新天地に対する世間の不信感はかなり高まっている。
韓国全国に多数の支部が存在するので、自治体も信者名簿を基に全数調査を行ったり対応に追われているが、中でも強硬路線で耳目を集めているのがイ・ジェミョン京畿道知事。京畿道内の新天地支部で今月、約1万人規模の集会が行われていたことが分かり、その参加者から確診者が続出するや、24日には道内にある新天地関連の施設数百カ所を14日間強制封鎖する緊急行政命令を発表。昨日は道内の新天地支部を警察を動員して強制調査、信者と予備信者の名簿を確保した。
強制封鎖に強制調査と「韓国のドゥテルテ」との異名を持つイ知事らしい強烈な対応だなと思ったが、周りでは「さすがイ・ジェミョン」と感心したり称賛する声があちこちから聞こえてくる。


2020年3月1日(日・祝)
新型コロナの影響が各界各所に出ているが、私のところにも初めて仕事のキャンセル連絡が来た。今月中旬に行われる予定だった通訳案件。某自治体の方から訪韓予定が延期になったと連絡をもらう。私や家族の状況を案じてくださったので、「市内で感染者は出ていますが、動線も全て公開されているので何とか自衛できています」と返信。その方が住む地域ではまだ感染が確認されていないが、「潜在的な感染者がいるかもしれないし、マスクも十分に手に入らない状態で毎日の電車通勤が不安です。いつ感染してもおかしくないです。」とおっしゃっていた。
え! 思ったより日本の状況は深刻なのでは? 何だかよく分からなくなってきた。というのも、韓国の確診者が1000人、2000人とどんどん膨れ上がる一方で、日本の検査陽性者があまりにも少ないままだからだ。つい昨日も在韓の知人とその話をしていた。もちろん韓国は新興宗教での集団感染という特異なケースがあったが、単純に考えても日本は人口だって韓国の約2倍だし、海外からの人の流入も相当多いはず。にもかかわらず、大都市の東京や大阪でさえ陽性者数が1桁台というのが不思議でたまらない。
やっぱり元々の検査数が少ないんだろう。韓国は少しでも疑わしい症状があればコールセンターに連絡し、保健所や病院の屋外などに設けられた選別診療所で迅速に検査を受けられる。なので少なくとも「感染しているかもしれない」という不安を抱えたまま何日も苦しむことはない。最近ツイッターで「熱や咳があるのに検査してくれない」「病院をたらい回しにされた」と嘆く投稿がよく流れてくるが、見かけるたびに胸が締め付けられる。


木下美絵(きのした・みえ)
1981年生まれ。ソウル大学国際大学院韓国学専攻修了。韓国旅行情報サイト記者、在韓日系団体職員を経て、現在は日韓書籍の版権仲介を行う「ナムアレ・エージェンシー」代表。韓国人の夫と元保護犬のヨンシギ、二人と一匹でソウル郊外の京畿道・龍仁市で暮らしている。


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