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コロナ下飯日記 王谷晶

四月九日(木)

マスク四六六おくえん。 ば〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜か!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と憤っているうちに一日が終わってしまった。飯にサバ缶(水煮)を乗せて食う。


四月十二日(日)

実家(自営業)のあんばいがヤバくて頭が死ぬほど痛い。というタイミングでクソバカ首相が犬と自宅でくつろぐ動画が流れてくる。思わず本棚にある『アナキスト・クックブック』に手が伸びそうになる。ソーシャルディスタンスの世界じゃ火炎瓶も投げに行けねえ。なんてクソな世の中だ。怒りのまま、丼飯にバターとキムチを乗せてかっこむ。


五月二日(土)

居酒屋に行きたい。この街にはいい居酒屋がたくさ んある。私にとってのいい居酒屋というのは、全国 チェーンでないこと、煙草が吸えること(これはもうどこの店も駄目になっちゃいましたな)、焼酎ナカが二百円以内なこと、店主が話しかけてこないこと、バイスサワーが置いてあること、焼き物がうまいこと、テレビかラジオがついていること。この条件を満たす店が歩いて行ける範囲でも十軒くらいあるのだ。いや、あったと言うほうがいいのか今は。 そのうちの何軒が生き延び、何軒が潰れてしまうのか。どれも晩酌と夕飯と夜食の境界が曖昧なだらしない生活をしている酒飲みに優しい店。四十がらみ のモヒカンのおばはんが一人で飲んでいても放って おいてくれる気楽な店。愛しい酒場。クソ政府が ちゃんと補償さえすればこんな不安な気持ちになる こともないのに。クソ政治家どもがてめえらの腹だけブクブク肥え太らせている間に、この貧民街は悲しみと焦りと不安に包まれている。

王谷晶(おうたに・あきら)
1981年東京生まれ。著書『完璧じゃない、あたしたち』『どうせカラダが目当てでしょ』等。現在板橋区在住。1人暮らし。家賃・物価共に区内最安クラスの下町飲み屋街にあるアパートで酔っ払いの怒声をBGMに生活。コロナ禍以前から居酒屋と映画館に行く以外はほとんど部屋から出ずにシコシコ小説を書いているひきこもりがち作家。


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