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こいのぼりの好きなもの探り09 「東京喰種」「東京喰種:re」

(今回も作品の内容に関わることが多く記載してあります。大きなネタバレを含みますのでご注意ください。毎度すみません。)

このnoteをはじめてから、自分には共通の趣味がある相手に異常なほど心を開きやすいという性質があるんだな、ということに気がつきました。「同じもの同じ側面が好きな人」という時点で、その人のことがとても好きになります。でもそこに絶対的な温度差があることは自覚しているので、そういった相手と出会った時は大好きオーラを放ちすぎて距離を置かれるという結果にならないよう、頑張ってすまし顔をしています。漫画「東京喰種」「東京喰種:re」(以後、喰種)は、そんな私が感覚や価値観が合う誰かを見つけるための軸となっている作品です。

 人の姿をしながら人肉を食らって生きる喰種とそれに対抗する人間組織との対立を、ある一件で人間から半喰種となってしまった主人公:金木研を中心に描いた物語です。連載時から読んでいたので、当時は予測できない展開やグロテスクな描写、美しい絵、感嘆のため息をついてしまう伏線回収を楽しんでいました。どの作品もそうだとは思うのですが、読み返せば読み返すほど、キャラ一人一人の人物像が濃く浮き上がってきます。そして、作者の意図を意識して作品を読むことは浅はかかもしれない…と普段は避けているのですが、それでも10周くらい読み込むと作者が何を考えて作品を描いたのかに触れられた気がしてしまい(願望から来る錯覚かもしれません)、その情熱に深く敬服するのです。喰種は何度も読み返し、その面白さ故、無意識にその過程を追った作品でした。喰種では多くのキャラが登場し、その一人一人の心理描写がすごいです。本当にこの人の口から出てきた言葉なんだなあと思うものばかりで。だからなのか、何かの説明・補足のために登場させるキャラが少ないんですよね。今日は私が特別愛着を感じている登場人物3人のお話しをさせていただきます。

 一人目はやはり主人公の金木研。こんなに奪われ続ける人生を送った主人公を、見たことがないです。大切な人を守るためならば自己犠牲を厭わないというその姿勢の裏には、自己犠牲によって守られる側の虚しさ、寂しさ、怒りを知っている彼だからこその恐怖が常にあったように思います。何かを奪われるたびに「もう二度と守られる側には回らない、絶対に守るんだ、強くならなくちゃ」という意思が膨れ上がっていく過程は、共感できる部分があるからこそ、見ていて辛いものがありました。また奪われる喪失感を知りながら、それでも大切なものを増やしていく金木の姿に、人生の一側面を学んだ気がします。そんな金木が誰かと分け合うことの喜びを知り、それがその先に待つ喪失への恐怖を凌駕するということをヒデやトーカ、ヒナミをはじめとした人々との関わりで一つずつ確かめていくことが、この作品の光であると思います。

 二人目は親友ヒデの存在。作品の中ではかなり終盤にならないとヒデの心情や視点は描かれていません。最後にさらっとヒデの背景や両親の話が登場して驚きました。彼はどんな思いで金木に手を差し伸べ続けたのか。金木の拠り所であり常に笑顔であっけらかんとしていたヒデには、苦しめる場所があったんでしょうか。想像してしまいます。第二の主人公であり、金木よりある意味強い人です。

 三人目は旧田です。この作品の悪として描かれている人物です。きっと様々なキャラクターの心情に共感して、あるいは自分にないものを持っているキャラクターに惹かれて作品を好きになっていくものだと思います。私は旧田でした。「ぜんぶ無駄に思ったりしませんか?」という旧田の問いから始まる最終巻の旧田と金木のやりとりに、何かの全てが詰まっている気がします。旧田に共感した人は、きっと金木の言葉によって救済され、あるいは絶望させられる。私は救済されたので、この作品は手放せないものになっています。

 背負うものに押し潰されそうになったときには、手にとって開いてみてほしい。そんな作品です。アドレナリンが出過ぎて、読んだことのある人にしかわからない文章になってしまいました。すみません。


(写真は「東京喰種」7巻です。)

こいのぼり

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