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こいのぼりの好きなもの探り15 「MIU404」 第4話 ミリオンダラー・ガール ※ネタバレ含みます

 今日お話しするのは2020年に放送された連続ドラマ「MIU404」の第4話『ミリオンダラー・ガール』についてです。M I U404は志摩一未(星野源)や伊吹藍(綾野剛)をはじめとした機動捜査隊の第4機捜が事件解決のために奔走する姿を描いた物語。その中でも特に衝撃を受けたのがこの第4話でした。
 大枠のあらすじを公式H Pから引用しました。笑 

「拳銃使用による殺人未遂事件が発生する。被害者は元ホステスの青池透子(美村里江)で、加害者男性も含め現場から立ち去った。通報を受けた伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)は、透子が駆け込んだ付近の薬局店へ急行する。店主の証言では、透子は店内で銃創の応急処置をした後、大金の入ったスーツケースを持って姿を消したという。」

 この青池という女性の過去は他人事ではなく、日本に住んでいれば経験しうるものだと思いました。ホステスをしていた彼女は店の客に連れて行かれた裏カジノでイカサマの餌食となり多額の借金を背負い、返済のためにカジノでも働くように。裏カジノの摘発に入った警察に身柄を確保され前科を負ってしまいます。情状酌量で一年の執行猶予で済んだものの、前科持ちの彼女は就職に苦労することに。生活のために風俗で働き、その後やっと就職が決まった会社は暴力団とズブズブなことが判明。今度こそは真っ当に、と思っていたのに。結局暴力団の下で働いていた自分や世の中に絶望した青池はマネーロンダリングされる会社の金を横領し、1億円を持って逃走します。最終的に暴力団員の射撃により逃亡の最中、1億円を隠した後に出血多量で亡くなる彼女。死後の捜査で明らかになった彼女のつぶったー(現実世界でいうTwitterのようなものです)では、その日常と心中が語られていました。以下はその内容です。

「もし通報しても、警察は次の仕事を用意してくれるわけじゃない」
「もう風俗に戻りたくない」
「現金もらった政治家も、賄賂もらった役人も起訴されないんだって。金持ちの世界どうなってんの?」
「私なんて手取り14万で働いてるのに草」
「どうせ汚いお金だ、汚い私が使って何が悪い」
「引き出しいっぱいになったらどこに行こう?どこなら、綺麗に生きられるだろう」

呟きの内容と共に映る半額シールがついたスーパーのお惣菜を食べる青池の姿から伝わってくるのは、長い時間を経てつもりに積もった虚無感、やるせなさ、行き場のない怒りでした。

 そんな彼女の強い意志を感じたのは消えた1億円の行方です。逃亡の軌跡を捜査する中で分かったのは、彼女が「ガールズインターナショナル~逃げられない少女たちを救ってください~」と書かれた公益財団法人の看板の前で立ち止まり、1億円を差別や貧困に苦しむ少女たちへの寄付を決意したということ。暴力団員に追われるなか、1億円を宝石に変えて海外にある法人の本拠地に送った彼女。1億円の真のありかを隠し、暴力団と警察に対して「1億円を持ったまま海外に逃げようとしている」ように見せかけるために乗ったバスの中で、息途絶えます。その直前に打ったつぶったーがこちら。

「つまらない人生 誰が決めたの 弱くてちっぽけな小さな女の子 逃げられない 何もできない そんなの嘘だ 自由になれる 私が助ける 最後にひとつだけ」

彼女は最後に自分が正しいと思えることができたんだなあと、思いました。

 このドラマの冒頭、伊吹と志摩はこんな会話をしています。内容は2010年に実際に起こった「タイガーマスク運動(匿名で児童相談所にランドセルを送る寄付行為が相次いだ一連の出来事)」について。

  志摩:世の中にはこんなにも良いことしたい奴がいたんだなと思ったよ。
  伊吹:誰だって良いことしたいだろ。
  志摩:そうかね。その割に世界は良くならない。いいことをするには心の余裕と金銭的  余裕がいる。
  伊吹:じゃあみんな裕福になれば、世界平和が訪れる?
  志摩:いや、そうでもないな。
  伊吹:なんだよ。
  志摩:金持ちは、金儲けのために悪いことをする。
  伊吹:だめじゃん。結局悪いことすんじゃん。
  志摩:この世に金があるかぎり、事件は起こる。 

 この会話が冒頭にそっと入れられているのは、ドラマに出てきた暴力団や政治家のようにお金に対して見境がない人々への揶揄でもあり、問題の根本について議論することなく、同情や独善的な気持ちで優越感を感じるために寄付を行う人々に対する皮肉でもあると感じます。

 多額の寄付をした青池ですが、彼女は「同情や独善的な気持ちで優越感を感じるために寄付をした人」とは少しだけ違う気がします。あの宝石がどう使われたのかは描かれていないし、多少のエゴがあったとしても。生活のために風俗を経験して、綺麗に生きたくても生きられなかった彼女だからこそ、看板に映る少女に自分を重ね、命をかけたお金を全ベットした。それは他者を見下すことで安心したいという思いではなく、「彼女達を助けたい、自由になれるって思わせてあげたい、希望を託したい」とい思いからでしか成し遂げられないのでは?と私は考えました。彼女の最期の表情はあまりにも晴れやかで、羨ましく思いました。誰かに何かを託すということ、未来に希望をみたということ、自分の正しいと思うことをやり遂げたということ。それらが彼女をああいう表情にしたのかなあ、と思ったり。彼女が幸せだったかどうかは、もちろん他の誰かが語るべきことではないのだけど、私も最期はああいう表情でありたいです。

 表面的な多様性を固めるために当事者が蔑ろにされたオリンピック開会式。小田急線で起こったフェミサイド。厚顔無恥な言動を繰り返す国のトップ達。増え続ける新型コロナウイルスの感染者数、医療崩壊とそれによって亡くなった人の知らせ。それでも流れてくる飲み会のストーリー。入管で行われた非道と誠意のない黒塗りの開示資料。アフガニスタンの情勢。いじめの被害者に対して「加害者にも未来がある」と言う教育者。「どちらかっていうといない方がよくない?」と扇動される優生思想と、彼を庇うように友人の口から自信満々に発せられる自己責任論。頼むからもうやめてくれ、もう聞きたくないよと思います。どうして?と問うのも怒るのも疲れるし、自分の考えが正しいのか間違っているのか、考えるのもひどくエネルギーを使う。でも考えたり知ることをやめたら、きっと私はあの表情で最期を迎えられない。その思いが心の支えになっていたりします。最近苦しくなる知らせが多すぎて、この第4話を見直したのでした。

 この第4話にはお金と権力、低賃金、貧困、セックスワーカーに関する問題がぎゅっと詰まっています。そういった問題提起の側面も持っている。でも第4話が好きな最も大きな理由は、青池を「可哀想な、不幸な人」として描かなかったことです。一般的な幸せの基準で彼女を図り、不幸だと決めつけて語らなかったところ。

   志摩:彼女の人生はなんだったんだろうな
   伊吹:何いってんだよ志摩ちゃん、そんなの俺たちが決めることじゃないっしょ? 

 彼女は自らの意思を貫き通したし、何より彼女の幸不幸は誰かが決めるものではない。幸せの基準を誰かに押し付けることの傲慢さに、2人のこの会話によって気づくことができました。

 誰かの信じる幸せと自分が信じる正義が真っ向から矛盾したとき、私はどうするのだろう。どうすべきだろう。このドラマを見るときにいつも思います。正義について考えを深めようと思うこいのぼりでした。

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(写真は内容とは全く関係のない、昨日食べた野菜ドリアです。日常を大切にしたいです。)

こいのぼり


  


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